65話 神宮家
この物語はフィクションです。
実在の事実、人物とは一切関係ありません。
零が寮を去ったその日。雨宮達は雨宮の部屋に集まっていた。
「零くん…どうして…」
「あすっち、落ち着いて」
4人はそれぞれの程度ではあるが、悲しみに沈んでいる。
「すみません……」
「京華さん、あなたが責任を感じる必要はありませんよ」
「でも…」
雨宮は自分の父親がやったことに対して怒りを感じているが、高宮たちの前では父親の罪を自ら被っている。3人の前にいると申し訳なさを感じてしまうのだ。
「でも京ちゃんのお父さんはなんで零っちを追い出したんだろう」
「そこが分からないと帰ってきてもらうにしろ、何も始まらないよね」
高宮は今回のことについて、雨宮礼二が零を追い出した理由について神宮家であることが大きく関わっていることは予想できている。
「でも零さんは帰ってきたいと思っているのでしょうか…」
だが、分からないのは零がむざむざと諦めたことだ。零ならたとえ相手が雨宮の父親であってもやりあえたはず。神宮家の歴史、系譜を考えれば可能なはずなのだ。
それが、高宮が零の気持ちを測りかねている理由だ。
「京華ちゃんはお父さんから何か聞いてる?」
「いえ…何も聞いていません…」
「うーん、じゃあ手掛かりもない…」
まさに手詰まり、と考えている大宮。
「これからどうすれば良いんでしょう…」
生徒会、文化祭、それらを含めた学校生活はこれからも続く。
零と共に過ごしていくのだと気持ちを準備していた雨宮達にすぐに気持ちの整理をつけろというのは酷な話だろう。
だが。
「――あの」
ここで高宮が切り出した。
「……実は零さんが追い出された理由、少し知っています…」
「「「えっ!」」」
本当は言いたくない真実。自分だけが知っていたほうが零との関係を進めるうえで有利な事実。
だが当の本人が居なければ始まらない話。背に腹は代えられない。
その一方、高宮の思わぬ発言に雨宮たちは驚きを隠せない。
「いえ、全部は知らないのですが…」
高宮が一つ前置きをしてから説明をする。
「零さんは前に神宮家の人間だと言っていましたよね」
急ぎの説明にならないように、ゆっくりと話し始める。
「その時に気になって一度調べてみたんです」
実際はその前から調べていたし、知っていたが、隠し事をしていたことがバレないように小さな嘘を入れながら話す。
「その時にわかったことなのですが…」
雨宮達3人は食い入るように聞いている。
言葉を溜めた後、高宮は大事な事実を暴露する。
「神宮家と言うのは……80年ほど前に没落した政治家の家なのですよ」
「没落した…? 政治家の…?」
「神宮家は、戦後の敗戦処理の一環としてその権力を失うことになったんです」
何か今回の件とは無関係のように聞こえて、雨宮達はポカンとしている。
「当時の政治家たちがこれ見よがしに神宮家に罪を着せ、神宮家は政界から永久追放となったのです」
「それは何故ですか? 権力を持ちすぎたのですか? それとも何か汚職でも…?」
「権力で言ったらそんなに持っていなかったと思います。汚い話は分かりませんが、それよりももっと大きな理由があったんです」
「大きな理由…?」
「神宮家は、権力は持っていませんでしたが――力を持ちすぎたのです」
「力って?」
なぜ力があるだけで恐れられ、政界から退かなければならないのか、ピンと来ない。すぐに大宮が聞き返す。
「一人でも、一つの家でもこの国を変えてしまうほどの力があったのです」
「そんな力が…」
だが、話が今回の零の件に少しずつだが近づいていることが3人とも感じ始めていた。
「簡単に相手を言いくるめることができて、簡単に悪事をネタに吊り上げられ、どんな強硬手段も闇討ちも通じない。容易に派閥を作ることができて、政党の一つや二つくらい容易く潰せてしまう」
「それは確かに…でもそんなことしてなかったんでしょう?」
「そうです。でも、彼らにとってその可能性があることがもうそれだけで脅威だったのでしょう」
なるほど、と雨宮達は納得する。
「でもその話が零くんとどんな関係が…?」
「一つは、零さんも神宮家の人間だということ」
「零っちが神宮家でその可能性があるからってこと?」
「そうですね」
神宮家がどうしてそこまで優秀なのか分からないが、零があそこまでずば抜けていたことにある程度理由がついたように思える。
合点がいった雨宮達は高宮の話の続きを待つ。いきなり大きな話になったが、大体話は見えてきた。
だが、次に高宮が言ったことは、再び度肝を抜くようなことだった。
「それで、もう一つが――これはセキュリティの硬さゆえに真実かどうかわからないのですが――零さんが神宮家の中でも類を見ない才能の持ち主といわれていることが関係していると思われます」
「「「――っ!」」」
何が何だか分からない。
あんなにあっさり零の口から出た神宮家という言葉が想像以上に重いものであったこと。それを咀嚼するのにも時間がかかったのに。
――そんな神宮家の中でも零が突出している。
そんな真実が一挙に出てしまったことにショックを感じずにはいられない。
「だから、京華さんのお父様も警戒せざるを得なかったのでしょう」
そしてきちんと点と点が繋がった。
同時に、今回の件がどれほど自分たちの手に負えないことかを痛感するのであった。




