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64話 追い出された後(零)

「さすがに次期総理大臣が出てきたら無理だよなぁ」

「さすがのお兄さんでも国家が相手となると覚悟が要りますよね」

「なんで覚悟があれば国家を相手にできるみたいな言い回しをするんだ」


 寮を追放されて零がやって来た先は妹の美月が住んでいるところだ。


「急に来て申し訳なかったな」

「私は兄さんと四六時中一緒に居ることが出来るのでウェルカムです!」


 両手を上にあげて口を結ぶ美月。


「でもいいんですか? もうすぐ文化祭だったのでは?」

「文化祭はあいつら4人でもなんとかやれるだろ。というか今頃代わりの奴が頑張ってるだろうさ」

「もしかして嫉妬ですか? 兄さんにしては珍しいですね」

「そんなんじゃねえよ。ってか美月、なんでお前もうすぐ文化祭だって知ってるんだよ!」

「兄さんの情報は常に頭に入れておくのが妹というものですよ?」

「そんなストーカー妹がいてたまるか!」


 零は美月と連絡を取っていなかったはずだ。妹というのは恐ろしいものだと再認識できる。


「ではお昼ご飯を作ってきますね」

「ああ、悪いな」


 いえいえ、と美月は上品に笑って部屋を出ていった。


 この家は美月の一人暮らし用に借りたマンションの一室なので当然のように一部屋しかない。しょうがないので今は美月と同じ部屋で同じベッドで寝ている。いや、零が決して妹と寝たかったわけではない。断じて違う。


 それにしても、と零は思う。


(まさか雨宮の父親が出張ってくるとは…。やっぱり雨宮が父親に神宮家の人間と一緒にいると言ったのか? 総理大臣のポストを争うレベルなら調べれば俺が神宮家の人間だと分かるだろうが…)


 だがどうしてそこまで一生徒に過ぎない零を調べようと思ったのか。


(それにしても転校までさせるとは、気合の入れっぷりが違うな。そんなに神宮家に自分の娘が取り入られるのが嫌だったか…。もう神宮ではないというのに)


 雨宮礼二が零を追放した理由だと零が考えているのは、零が雨宮に近づくことを避けたかったからという理由だ。


 神宮家の人間相手に自分の娘が思うように操られて、報復してくるものだと考えたのだろう。


(神宮家を誤解しているな…。いや、でも実際俺の母親なら復讐心を持っていたかもしれないが、俺や美月にはそんなものこれっぽっちも残っていない…)


 だが、そんなことを言っても何の意味もないだろう。信じろという方が無理な話だし、信じるメリットはどこにもない。


「でも働かないってのは無理だよなあ…。美月のこともあるし…。株で儲けりゃいいか? 幸いにも元手のお金はたくさんあるわけだしな」

「呼びましたか、兄さん?」

「何だいたのか美月」

「そう言いながらあまり驚いていないことに私はショックを受けます」

「でも気付かなかったのは本当だ。さすが美月、ってそんなスキルを身に付けるな!」

「これで兄さんがお部屋の中で何かに熱中しているときにささやかなお手伝いができると思いますっ!」

「どんな状況を想定しているのか分らんが遠慮する!」


 さすがにお手伝いされ始めたら気付くが、その前に気付かなければ意味のないことな気がする。


「でも兄さん。やっぱり私のことを考えていてくれたのですね…!」

「む? 言葉自体は間違っていないが、何か間違えている気がするな」


 俺はただ単純に引きこもりの美月の分まで稼がなければと思っていただけだ、と零は言うが美月は両手を胸の前で合わせてうふふふと自分の世界に入ってしまっていて弁解の機会をくれなかった。


「でも安心してください。兄さんの手を煩わせるまでもなく、私がやりますから!」

「稼ぎすぎるとまた雨宮パパに切れられるんだよ!」

「そしたら兄さんが日本を手中に入れるときですっ!」

「だからお前は俺に何をさせたいんだ!!」


 美月と話していると疲れてしまう零だったが、同時にどこか心の寂しさを埋めてくれている気がした。

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