62話 買い出し後半
「さて、お菓子も買い終えたところだし、次は…」
「飾りつけの準備です」「お茶しよー!」「お茶にしましょう」「お茶にしない~?」
「…」
ここまで来ると雨宮が可哀想に見えるな、と零は思ったが、口に出すとさらに怒りそうなのでやめた。
(というか、これで4人とも中学からの友達って…)
価値観が合う合わないというのは、大した問題ではないのだな、と思いに耽る零。
「なんでここでさらに休憩するんですか!」
「疲れたよ~」
「飛鳥は!? あなたは体力あるでしょ!」
「ここの3階にある喫茶店、一回行ってみたかったんだよねー」
「玲奈さんまでどうしたんですか!?」
「零くんと一緒に居れる時間をもっと頂きたいです」
三者三様の理由を答えるが、雨宮はさすがに納得のいかない様子で零に助けを求めた。
「れ、零くんは!? 零くんはどう思いますか!」
「お、俺か? 別にどっちでもいいと思うが…」
「どっちでもいいじゃなくて! どっちか!」
「うーん…」
「零さん、お茶にしてくれたら、後で本屋さんで好きなだけラノベを買ってあげますよ(小声)」
「お、お茶のほうがいいんじゃないかな…」
「零くんまで! 玲奈さん、一体何を言ったんですか!」
「よし、じゃあ行こ―!」
「も、もうっ!」
モノに釣られた零だった。
零たちが訪れたのは、アンティークなものが飾られている古風な喫茶店だった。
「ここ雰囲気いいね~」
「でしょ! この前見つけたの!」
「た、たしかにここは…足を休めるには丁度良さそうですね…」
「零さん、あちらの二人の席に座りましょうか…♪」
たしかに、雰囲気がとても良く、ジャズが流れているため緊張感もない、まったりできそうな場所である。
6人席のうち、高宮、音宮、大宮がソファのある席に座り、逆側に零と雨宮が座った。高宮がブーブー言っていたが雨宮が「だめです! 変なことするでしょ!」と言って距離を作った。
5人はコーヒーを頼み、大宮と音宮はパンケーキも追加で頼んだ。
「ふー、それにしてももうこのメンバーで半年かー」
「なんですか飛鳥、急に改まって」
「いやー、なんとなくさー」
零がSクラスに入ってきたのが5月過ぎなので、ちょうど半年くらい。大分馴染んできた。
「最初はどんな人かと思いましたよ、零さん」
そして同時に雨宮達も最初に比べたらかなり零に歩み寄っている。
「意味わかんない点数獲るし、意味わかんないほど運動できるし」
彼に師事し、彼に助けられ、彼と語らい、彼と遊んだ。
「それなのにオタクだし~」
修学旅行、体育祭、生徒会、テスト、これらを通して彼らはより絆を深めた。
「でも頼りになる人です」
高校生活も折り返し地点を迎えた。復路は一緒に走り切る5人。
人生の中で一生関わりをもつ彼らからしたら、まだ始まったばかりとも言えるくらいだが、その中でも濃い時間を過ごした。
「変な奴らだな。まだ半年しか過ごしてないのに」
零自身、人生の中でも特に楽しい時間を過ごしたと思う。
これまでの生活に比べたらずいぶん彩りがある。
実際、こんなことを言っている零にも笑みが零れた。
(なんからしくないな)
少し感傷的な気分になっていた零は、羞恥心が沸き上がってきた。
「そろそろ買い出しの続きしよう」
もういい時間だ、と零は席を立った。
「そうですね、また別の機会にしましょう」
零の気持ちを汲み取ったのか、はたまた満足したのか、雨宮に続いて大宮たちもごちそうさまと店員に言って零に従った。
「たくさん買ったなー!」
「お菓子が多いけどな…」
飾りつけ用のものも買った零たちは帰路についていた。
「さすがに疲れた~」
「沙彩さんは途中からずっと疲れてましたけどね」
「汗もかきましたし、お風呂に入りたいですね」
仲良く談笑する4人と、零。
だが寮の近くまで来たとき、異変に気が付く。
「寮の方が騒がしいな…」
「そうですね、何があったのでしょう…?」
恐る恐る寮の門を通って玄関まで行くと、騒ぎの原因が分かった。
――伏見とスーツ姿の男たちが揉めているのだ。
「何してるんですか、元会長…?」
雨宮があまりの見慣れない光景に戸惑いながら質問する。
「あっ、入江! どこ行ってたんだ!」
「生徒会の仕事で少し」
「大変なことになってるぞ!」
「大変なこと…?」
零は何か陰謀が渦巻いているような、そんな嫌な予感がした。




