60話 文化祭の予感
テストが終わった11月の初め、生徒会は慌ただしく活動していた。
「3年A組ですね。わかりました。申請書はそちらの箱に入れてください」
「ライブの申請ですね。では少し確認させていただきますのでこちらに座ってください」
「飛鳥と沙彩は実行委員会の方に行ってください」
基本的には生徒会長の雨宮が受付をして、零たちは事務仕事に追われている。
「さすがにこの量は多いですね…」
「ああ、しかも最近ずっとこれだしな…」
11月に入るとすぐに文化祭に向かって学校全体が活動を始めた。
AからDクラスは着々とクラスの出し物を計画していて、制作に向かって動いている。
Sクラスは人数の関係で出店などはできないが、通例として体育祭で行われるライブに参加する。もちろんそちらも強制ではないが。
生徒会の活動は、出し物が危険であったりルールを順守しているかのチェックなど、実行委員会よりも裏方の役を担っている。
では、生徒会は文化祭で日の目を見ることはないかと言われたら、そんなことはない。
生徒会はなんと……文化祭にお悩み相談室を開くのだ。しかもかなりアクティブな。
普通のお悩み相談だと
「かくかくさんに告白したいんですけど、どうしたらいいですか?」
「そうですね、まずは彼をデートに誘ってみたらどうだい?」
というものが想像されると思うが、生徒会はそんなしょぼいところではない。
「しかじかさんに告白したいんですけど、どうしたらいいですか?」
「よし、告白大会を開こう。場所は屋上でどうだい? おい書記、パンフレットを10分で作ってくれ」
のようになる。
悩みに100%答えるのではなくて、悩みを元にさらに祭りを盛り上げる企画を提供するのが生徒会流だ。
もちろん、告白は毎年のように相談が入るので、事前に告白大会の段取りが出来ている。
「今年はどんなお悩みがくるのでしょうか」
「もしかしたら0かもしれないけどな」
「そしたらミスコンでも開きますか。楽しそうですし」
「去年はクラス単位でミスコンを開いたようだしな。伏見前会長も大変だっただろうに…」
しかし、今大変なのは零たちである。
「ただいま戻りましたー!」
「飛鳥、沙彩、お疲れ様です」
「ふう~、さすがに疲れたよ~」
「何かありましたか?」
「テンション高くてノリがよくわかんなくて疲れた~」
「あははっ、まあさーちゃんは体育会系のノリとかわかんないよね」
「なぜ文化祭を体育会系が支配するんだ~」
ぐぬぬ、と頭を抱えている音宮に雨宮が労いの意味を込めてお茶を渡す。
「あ、そういえば、キャンプファイヤーを後夜祭でやりたいってなったけど、大丈夫かな?」
「うーん、そうですね。この学校は敷地が広いので問題ないとは思いますが、一応消防署や近隣の住民の方々に話をしておいた方がいいでしょう」
もし当日、風が強かったら近くの家まで煙が流れてしまうかもしれない。それで学校にクレームが入ったら、責任は生徒会にある。
「そういえば、文化祭当日のためにこの部屋も飾りつけしなければなりませんね。話をしに行く際に、ついでに買い出しも済ませてしまいましょうか」
「買い出し行く行くー!」
「では私の方で車を用意しましょうか?」
「れーちゃん、買い出しに行くのにベンツはないよ~…」
大宮、高宮、音宮は買い出しにとても乗り気のようである。
「じゃあみんな行くなら俺は留守番するとするか」
「「「「だめです」」」」
一人だけ行く気がなかった零だったが、4人同時の即答にさすがにたじろいだ。
「じゃ、じゃあ俺が話つけとくから、お前らで買い出しな?」
「「「「だめです」」」」
「おっ、おう…」
そんなこんなで、文化祭特有のドキドキイベント「買い出し」に行くことが決定した。




