59話 幾度目かのテスト
今回は短めです。
10月後半。みんな大好きテスト期間である。
「ねえ京華ちゃん。ここはどうやってやるの?」
「ここは数学的帰納法を用いて…」
今日は生徒会の仕事も一時的に休んで、全員でテスト勉強に取り組んでいる。
「高宮が来るって珍しいよな」
「まあそうですね。本当は毎回来たいのですが、何分忙しくて…」
「忙しいって何してるんだ?」
「株の変動を見たり、企業同士の交渉を手伝ったりって感じですね」
「ほんとに高校生かよ…」
高宮は高校生の身でありながら、実は億を超えるお金が口座に入っているがそれは内緒の話である。
「というか何故零さんは勉強をしているのですか?」
「何故と言われても高校生だから、とか?」
「別に勉強しなくても私が一生お世話いたしますから、必要ないですよ?」
「ヒモにはなりたくない…」
「では秘書という形にしましょうか? 零さんがいたら百人力ならぬ、百万馬力です!」
「力が上がりすぎだろ!」
秘書になっても結局仕事をもらえないか、あるいは仕事を称してパワハラをされることは指摘しないでおいた零だった。
「ほら、そこ私語は慎んでください」
雑談をしていた零たちに対し、雨宮が注意をかける。
「ああ、すまん」
高宮との会話はそろそろ雲行きが怪しくなってきたので、いい機会ということで中断して勉強に戻る。
「ねえねえ零っち~。ここのところ、よくわかんないんだけど~」
「ここか? ここは状態方程式を使って…」
最近は雨宮と共に音宮とも勉強会をすることが多々あるので、音宮は零と親しくなっていた。勉強会でこのように気軽に質問をするくらいには。
だが、その様子がお気に召さなかったのか、大宮が間に割り込む。
「あの! あの零くん? ここはどうやってやるのかな!」
「ど、どうした急に…」
「いいから教えてよ!」
「はい…」
零は大人しく従って、大宮が入る分の場所を空ける。必然、音宮との距離は離れる。
「ふふふっ」
大宮は音宮に、してやったりの顔をする。
「むー」
頬をふくらませて抗議の意を示す音宮だったが、大宮は気にすることなく零との勉強にのめり込んでいて、音宮はスルーされた。
「ふふっ、残念でしたね沙彩さん」
「いや~別にいいもん。れーちゃんが代わりに教えてくれるよね」
「あ、そうなるんですね」
高宮は微笑を一つしてから、丁寧に音宮に解説をしていった。
その光景の一歩引いたところから、雨宮が俯瞰している
(みんな仲良くて、この輪の中に零くんがいることも自然になってきましたね)
幸せな光景に思わず心の中で微笑む。
「…なに笑ってるんだ雨宮」
「えっ?」
だがどうやら顔に出てしまっていたらしい。零がそれに気が付いて気味悪がる。
「いえ…特に何もないです」
「そうか、気持ち悪いから一人で笑うのはやめとけよ」
「気持ち悪いとか言わないでください!」
こうやって、雨宮が輪の中に入っていって幸福な団欒が訪れる。
いつもは零が他の女の子と仲良く話しているとそれとなくモヤっとしてしまう雨宮だったが、今日ばかりはとても温かい気持ちになった。
――こんなことを書いてしまうと、誰かがSクラスから落ちるフラグのように見えてしまうが、きちんといつも通りの順位でテストは終わった。




