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57話 高宮の暴走

 霞北学園Sクラスの授業は以前説明した通り、基本的には放任的な面が強く、個々人で自分を顧みて苦手なところを自発的に伸ばしていくことを基本としている。


 それは国語や数学などの勉強に関することだけではない。家庭科、体育などの実技分野についても同様なのだ。


 だが、実技分野は教師も遠くで見ているだけで、有事の際にしか動かないほど緩い授業のため、生徒の中には手を抜きたがる者もいる。音宮なんかがいい例だろう。


 だが、ごくたまに、違うベクトルに力を入れている輩がいる。


 それが高宮なのだ。


「零さん。私が零さんのために作った特製チャーハンですよ」

「なんだ、とても良く出来てるじゃないか」


 高宮が皿に乗せて持ってきたのは、米粒がキラキラと光っているチャーハン。香ばしい匂いが漂ってきて、零も食欲をそそられる。


「お前って料理も出来たのか」

「もちろんです♪ 零さんの将来の妻ですから!」

「誰が奥さんだ。お前と許嫁の関係になった覚えはない」


 隣で雨宮が「お、奥さんなんて…! そ、そこまで…!」と顔を赤くして抗議していたが、零に言わせればひどいとばっちりである。


「でもなんでお前、料理が出来るんだ? 家で作ってくれる人が絶対に居るだろ。それ専用の人が」

「いえいえ、それはもちろん私の料理を零さんに食べていただいて、私のご飯無しでは生きられないようにするためですよ♪」

「怖すぎるだろ! こんなに美味しそうなチャーハンだったのに、食欲が一気になくなったわ!」

「そのために超一流の料理人に手ほどきを受けました!」


 料理人の無駄遣いも甚だしいが、もはやそれを突っ込む気にすらならない零だった。


「食欲が湧かないのでしたら、私が食べさせてあげましょうか? はい、あーん」

「しれっとあーんとかやるな!」

「口移し方がよろしいですか?」

「お前はどこまで暴走すれば気が済むんだよ!」


 と、このような感じで、ストーカーの被害者と加害者のようなコントが終わるが、これがいつもの家庭科である。


 次は体育の方を紹介していこう。


「零さん、ストレッチしませんか?」

「いやいや、人数が奇数なんだから、俺が余るべきだろ」

「大丈夫ですよ。 沙彩さんが自主的に降りてくれましたから」


 音宮の方を見ると、木の下でぐっすりしてて、眠気を含んだ声で「がんばえ~」と言ったとき、零の中で殺意がふっと湧いた。


「ほらほら、そこで長座してください。私が押してますので」

「はぁ、まあ分かった」


 高宮に言われる通り、運動場の日陰のところに座って足を伸ばす。


「じゃあ、押しますよー。うーん」


 だが、零の体はあまり動かなかったので、零は自分から体を前に倒した。


「すみません…力が足りないみたいなので、もう少し体重をかけさせてもらいます」

「ああ」


 零が返事をした次の瞬間、高宮はにやっと笑って、首に手をまわして後ろから抱きついて体重をかけた。できるだけ胸の感触が伝わるように。


「ちょっ! お前!」

「んー? どうしましたか?」

「なんで急に抱きついてくるんだよ!」

「えー、体重で押さないと動かないみたいでしたので」


 と、さらに力をかける。弾力が、潰れたところを弾き返そうとする弾性力が、零の背中に直接伝わる。


 そして、零は新たなことに気が付く。


「あ、ちなみに私いま――ノーブラです♪」


 最後のところを甘い声で零の耳元で囁いた。


「っ!」


 緊張感が高まる。零も男の子。高宮との勝負であるとともに本能との勝負でもある。


「と、とりあえず離してくれ」

「えーなんでですかー?」

「あ、当たってるから…!」

「当たってる? 何がですか?」

「む、むねが」

「胸ってなんですかー? 別の言葉じゃないとわかんないです♪」

「そんなとぼけ方が許されると思ってるのか!」


 零は必死に考える。抱きつかれていて、その上高宮は恋人つなぎのような形で自分の手をがっちりホールドしているため、引きはがすことは難しい。この中で離そうとしてしまえば高宮にけがをさせてしまう恐れがある。


「ほら、零さん。言えば離してあげますよ…。ついでに触らせてあげますし」

「――ぐっ!」


 ぶっちゃけ、零にとっては女性と交流を持つことが少なかったこともあり、あの言葉を発することが恥ずかしい。だが、今は背に腹は代えられない状態。零の背中と高宮の腹、というか胸が入れ替わったら万事解決だが、まあそれはともかく、今は緊急事態なので言うしかない。


 だが、ここで言うのはまずい。この会話の流れで言ってしまえば、零が高宮の胸を触りたいみたいになってしまう。


 ちなみに、零としては触りたい欲求よりも、触った後の脅しの類の方が怖い。


「ふぅ…仕方ないな…」

「諦めましたか? では、ほら言ってください!」

「雨宮ー!!」

「あっ!」


 零が大きい声で呼ぶと、雨宮がこっちの姿を認め、そして飛ぶ鳥に追いつく勢いで飛んできた。


「な、なにやってるんですかー! た、体育の時間ですよー!!」


 雨宮はすぐさま高宮の腕を掴んで、零の体から引き剥がそうとする。


「やーめーてーくーだーさーいー! 私は零くんと離れたくありません!」

「そんな玲奈さん見たことありませんよ!?」


 足を雨宮に引っ張られるが、腕の方で零に抱きついたまま離れない。


「本当に早く離れろよ!?」

「いーやーでーす!」

「仕方ないですね…」


 雨宮は高宮の足をゆっくりと離す。そして


「んっ、いやっ、きゃっ、ちょっ、な、なにするんです、きゃっ」


 高宮の脇腹をくすぐり始めた。


「いいですか零くん、玲奈さんは脇腹とか脇がとても弱いです。覚えておいてください」

「それ俺が覚えておいても意味ないよな!?」

「きゃー、や、やめてください! ほ、ほんとに…」


 高宮の握る力がどんどん弱くなっていく。そして、ついに手が離れた。


 それを確認して零はゆっくりと高宮の手を片手ずつとって、退かす。


「あー!」

「当たり前だ! いつまでも捕まってるわけないだろ!」

「零さんが手を握ってくれた…」

「喜んでるのかよ!」


 顔を上気させている高宮に、零はため息をこぼすしかなかった。

なんか最近雨宮が取締警察みたいになっていますが、次は雨宮のイチャイチャ回です。

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