55話 大宮との一日
「おっはよー!」
「お前は1か月、出禁だ!」
零の一日はこの会話から始まった。
「ったく…お前はなんで朝から俺のベッドに居るんだ…」
「やっぱり夜の方が良かった?」
「そういう話じゃねえ!」
勝手に夜のお供をしようとするな!と零は怒った。
「でもでも、零くんも反応悪かったよ!」
「は? すぐに反応しただろ。何が不満なんだ」
「そうじゃなくてー。普通は『むにゃむにゃ…マシュマロ…』ってなるところでしょ! おかしい!」
「おかしいのはお前だ!」
「でももう少し弱った零くんが見たかったなー」
何か悔しそうにしている大宮だったが、零は無視した。
――言い忘れていた。急に零の部屋に押しかけたのは大宮だ。
「つーか朝から何の用だったんだ?」
「いやー零くんの寝顔が見たくなってねー」
「どれだけ気まぐれで生きてるんだお前は!」
そんな気ままに人間が生きていたら、この世界は滅んでしまう。
「いやいや、まあそういうのは冗談で」
「さすがに冗談か。良かった」
「もう少し距離を縮めておこうかなーと。あわよくば既成事実作っちゃおーって感じ?」
「それも冗談と言ってくれ…」
「でも、れいにゃんも最近特に積極的だし、京華ちゃんもそのうち…」
「よく分からんこと言ってないで早く俺の部屋から出ていけ」
ちなみにれいにゃんとは高宮玲奈のことを指す。
朝から突撃されて疲れている零は大宮に退室を命じる。
「でも出禁って言ったよね? あれって、出るの禁止ってことでしょ? きゃっ、一か月も零くんと同棲っ? どうしよう着替えもないし、あでも夜は零くんが温めてくれるか…?」
「出入り禁止に決まってるだろ! やかましいから早く出ていけ!」
ひと悶着、ふた悶着と争っていたが、悲しいことに雨宮は助けに来てくれず、なんだかんだ大宮は零の部屋に居座った。
「そういえば、零くんの部屋って前はもっと本がいっぱいあったよね? なんかえっちな感じの本とか漫画が」
「えっちな本じゃねえ! ラノベとか健全な漫画しかなかったわ!」
「でもなんか減ってない?」
大宮は自分の推論を確認するように部屋を歩き回って、やっぱり、と言う。
「お前が何故その些細な違いに気付くのか聞きたいところだが、まあ正解だな」
「どうしたの? 捨てたの?」
「いや、定期的に高宮に人質に取られたり、雨宮に没収されたり、音宮に貸しているだけだ」
「ふーん」
零の説明に不満気な反応をした大宮は、零のベッドにダイブする。
「やっぱみんなと大分仲良くなったんだ」
そう言い終えた後、いじけた様子で布団を被って丸まっている。
「どうした大宮。そこは俺のベッドなんだが」
零はベッドを取られてしまっているため、勉強用の椅子に座っている。
「ふーんだ。どうせ私のいない生徒会室でイチャイチャしてたんでしょ」
「は?」
急に突拍子もない批判を受けた零は、とっさに理解ができなかった。
「最近やけに仲良くなってると思ったら…ふんっ」
「訳のわからないところで拗ねるな…。それに別にいちゃいちゃなんかしてないぞ。普通に事務仕事をこなしているだけだ」
「うそだうそだーもう信じないもんっ!」
駄々をこねたような、幼い仕草をしている大宮は、実のところとてもかわいかったのだが、そんなことはおくびにも出さず零は言葉を漏らす。
「信じないと言われても、事実なんだがな…」
「うそうそうそー」
何を言っても頑なに否定する大宮に対し、どうしたものかと零は思案する。
零には乙女心と俗に呼ばれているものについてはよく分からなかったため、得意の論理だてて説明する方法に出た。
「第一、雨宮がいる中で遊んでいられるわけないだろ」
「……」
「お前も別に全く顔を出さないわけじゃないし、そんな雰囲気じゃないってわかってるだろ」
「……」
「図星だろ! 今お前納得しただろ!」
効果は抜群だったようだ。
そしてそれは、さっきまで零を困らせることが出来ていたと思っていた大宮にとっては、とても悔しいことだった。
「……とにかくひどいことをした零くんには罰ゲーム!!」
「おいなんだ、そんな雑なごまかし方見たことないぞ! ひどいことってなんだおい言ってみろ!」
「…女の子を泣かせた」
「ダウト。顔見せろおら!」
「きゃ、やめて!」
布団を無理やり剥がすとそこには涙の跡など微塵も感じられない綺麗な顔の大宮がいた。
「おい、もっかい言ってみろ。誰が泣かせたって?」
「女の子に乱暴した」
「はあ? 何が乱暴だ! っていうかさっきからその『女の子』のステータスを利用しすぎだ!」
「じゃあ、今から大声で叫んで京華ちゃん呼んじゃう」
「そしたら、俺の部屋にいるお前の方が疑われると思うが?」
「じゃあ簡単なことでいいから! とにかく私のお願い聞くの!!」
「なんでそっちが譲歩してくるんだ!」
しかし、これ以上話していても一向に部屋を出ていく気配がない大宮に、零はとうとう折れて大宮の要望を呑むことにした。
「簡単なことなんだな? 早く聞かせてくれ」
「うん! 今日一日、一緒に過ごそっ!」
「夕飯まで、な」
「くそー、あとちょっとで同衾だったのに!」
「そのテンションでいくつもりなら今から外に出すけど?」
「誠に申し訳ありませんでした」
「分かればよろしい」
「じゃあまずはゲームだー!」
そういって嬉しそうに走っていく姿に、意外と無邪気なところもあるじゃないかと大宮の評価を正す零であった。
そして、無事大宮は「零と一日一緒に居る」という、当初の目標を達成したのだった。
最初は
大宮に乱暴(?)したときに後ろに雨宮が立っている
という話にしていましたが、よく考えたらそれに気が付かない零ではないので却下しました。うーん、凄すぎて逆に難しいですね、零くん。




