54話 いつもの日常
体育祭が終わった後、まだ生徒は興奮が冷めずに体育祭の話をしていたり、「あいつが後夜祭であいつに告ったんだよ~」などという浮かれ話も聞こえる中、授業はいつも通りに行われていた。
変わったことと言えば、放課後に生徒会の仕事が始まったことだ。
会計の精査、部活の活動報告の確認、それに体育祭関係の後始末は生徒会が担っていた。
時間はたっぷりあるため、激務というわけでもなかったため、零もきちんと参加していた。大宮は部活があって参加できない日もあったが、そこは全員が了解していて誰も文句を言わなかった。
「そろそろ文化祭についても考えていかないといけないですね。生徒主導なので生徒会としてやることはあまりないですが、体育祭ライブの管理やクラスごとの出店の管理はしないといけないので、早めに準備しておいた方がいいですね」
「まあ、そうですね。新しい企画なんてやったら面白いと思うのですが…」
「はーい、わたしライブやりたーい!」
「沙彩は普通の歌ならいいですけど…」
「バンド組みたいよね!」
「却下します」
音宮はクラシックな曲や普通のJPOPの曲なら、とても良い曲でCDにしたら売れそうなものが書けるが、ロックに関しては絶望的なセンスを働かせてしまうことを知っている雨宮は全力で拒否していた。
「でも音宮、歌は上手いんじゃないのか? 人気の曲歌えばいいんじゃないのか?」
「私は自分の作った曲が歌いたい! むしろそうじゃなきゃやだ~」
活き活きしていたのが一変、いつものように萎れていく音宮を見て、これはダメそうだなと零も諦めた。
「雨宮、いや、ここは会長って呼んだ方がいいのか?」
「やめてください! 会長なんて身分不相応な役職に就いているだけでも恥ずかしいんですから!」
「いや、少なくともこの学校にはそんなこと思っている奴お前以外いないけどな」
「そんなことないです…いつか内閣不信任案でも出されてしまいそうです…」
「じゃあ、会長って呼ぼうか」
「何が『じゃあ』なんなんですか! やめてくださいって!」
「わ~い、京ちゃんかいちょ~だ!」
「会長って呼ばないで! あと長いから!」
「では会長、こっちの書類にも目を…」
「玲奈さんまで! あなたまでボケてしまったら私はどうしたらいいんですか!」
全てにツッコんだ雨宮は、はぁはぁと息を上げている。
「とにかく私のことを会長と呼ぶのは禁止です! 会長命令です!」
「よっ! 会長!」
「沙彩っ!!」
後でたっぷりお叱りを受けた音宮であった。
「大丈夫か…雨宮? 疲れてるんじゃないのか? 休むか? これから勉強会は休むか?」
「ええ、疲れているのは零くんたちのせいですし…そして他人を気遣っているように見せて自分が休みたいだけなのは分かっていますから」
「あれ、バレてたか。雨宮も成長したな」
「残念な成長ですが…零くんに鍛えられたと思います」
「勉強会の成果じゃないか」
「そんな勉強したくありません!」
生徒会が新たに発足した後も、変わることなく毎日8時から9時の間の1時間、零と雨宮は勉強会を開いていた。
体育祭の一件の後、特に何事もなかったかのように彼らは会話を交わしていた。
「あ、そういえば…体育祭のときはありがとうございました…」
「ん? 何のことだ?」
「リレーのときです…私緊張してしまったみたいで…」
「ああ、それくらい気にすんな。俺は気にしてない」
「いえいえ…と、というか!あの時の零くん凄く速かったですよね! あれは一体…」
「ああ、あれは、正直に言ってしまえば練習の時に手を抜いて走ってたからな。結果的に丁度良いくらいになったな」
「え、そうなんですか!? それでもだいぶ早く走り始めちゃったと思ったんですけど…」
「いや、雨宮が迷ってるときに結構追いつけたからな、そうでもないぞ」
「そ、そうでしたっけ…?」
淀みなく話される零の嘘に、雨宮は不思議と「そうだったかも…?」と思ってしまう。雨宮は素直ですぐ信じてしまうからあっさり納得させられてしまう。今回の会話から得られる雨宮の教訓は、零の「正直に言えば」という言葉は信じてはいけないということだろう。
こうやって、非常にあっさりと体育祭関連のことは消化されていく。
体育祭を通じて雨宮達が分かったことは、零は思ったより足が速いということくらいであった。
あまりネタバレは好きではないのですが、ここから少しの間はイチャイチャ回になると思います。
もちろん音宮をおざなりにはしませんので!!むしろ私は音宮大好きですし!!




