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49話 紅白弾丸リレー

自分にしては長いものを、こんな遅くに投稿してしまってすみません…

 午後は主に組一丸となって行う競技が多く、玉入れや綱引きなどの典型的な競技や、障害物リレーなどのお楽しみ競技などから始まった。


 零は足の速さを買われて二人三脚に出場することになっていた。相手は大宮。紅組屈指のペアである。


「いやー楽しみだね零くん!」

「なぜ足をひもで結んで走らないといけないんだ…」

「まーまーいいじゃん! JKの生足に触れられるチャンスだぞー?」

「別に、触りたくないけど…」

「えーそんなこと言っちゃっていいのかなー?」


 そういって大宮はまだ縛られていない足に手を当てて太ももを強調する。


 陸上で鍛えられていて肉の引き締まったその足。ふくらはぎは細く、でも筋肉質で、まあいわゆる美脚というやつである。そして美脚には人の視線を吸い込むという特殊スキルがあり、零もそのスキルに対抗する術をもっておらず、不覚にも足を凝視してしまった。


「あはは! やっぱり零くんも興味あるんじゃん!」

「うるさい! 今のは不可抗力というか、生理現象だ!」

「珍しく零くんが躍起になってるねー」


 もう一度「あはは」といって笑われたので、零は少し腹が立ちながら、絶対に視線を上に上げないように靴のところで固定してひもで二人の足も固定する。


「ほらほら、今とかチャンスですよー、上を見たら半パンの間から何か見えるかもね?」

「男のプライドにかけて絶対に見ない」

「そうかー、零くんは下よりも上の方が好みなんだね?」

「そういう問題じゃないわ!」


 零は脚フェチなので、正直もっと太ももを見たいしあわよくばその上の半パンの隙間から見えるかもしれないパンツ的なやつを拝みたいと思っているが、さすがに尊厳にも関わるのでしない。


「あ、でもいいのか! 結んだあとは足が触れ合うから!」

「それを期待しているわけじゃないんだが!」

「でも、いくら私の足を長く味わいたいからって言っても、ペース落としちゃダメだよ? そこはちゃんと私についてきてもらわないと」

「分かってるから要らん確認をするな!」


 そんな話をしながら、そのあとはアンカーとして同じ組の調子を見ながら、バトンをもらうとあっという間に白組のチームも紅組のチームもすべてを抜き去って1位でゴールしてしまった。


 やはり二人三脚は遅い方のスピードが重要で、最低水準が高い方が勝てる競技なのだ。



 ここでMVPの話をしておくと、今のところ、競技で1位を連続で獲ったのは零などを含めて30人ほど。だが、例年の様子ではMVPに選ばれるのは最後の紅白弾丸リレーの出場者になっている。


 そう考えると、すでに候補は、紅組白組それぞれ4人ずつ、合計8人に絞られている。


 その中でリレーの勝敗に一番貢献した者にMVPの称号が与えられる。


 既に零はそこまでMVPに固執しているわけでもないので、無駄な解説だったかもしれないが。



 障害物リレーが終わった後も、祭りを盛り上げるためのプログラムは続き、部活動対抗リレーがあったり、そこに先生チームが混じるという大人たちにとっては公開処刑のようなイベントがあったが、順調にうまくいった。


 ちなみに、Sクラス担任の三日月先生は…どうしようもなく遅かった。ひーひー言いながら死にそうに走る姿は全校生徒の笑いを取っていて、あの無気力系の音宮でさえ、「頑張ってください…」と応援をするほどであった。


 そして、体育祭も終盤、クライマックス。リレーの時がやって来た。


 この時になると、会場の雰囲気は異様なものとなる。実質この種目が紅組と白組の勝敗を分ける戦いになるからだ。


 応援席の方では

「絶対に負けんなよー!」

「期待してるぞー!」

 というプレッシャー。


 観戦部隊の方では

「きゃーかっこいいー頑張ってー!」

「こっち向いてー!」

 という黄色い声援。


 そして、入場した選手8人はそれぞれ集中している。


 グラウンドのレーンの外はすごく盛り上がっているのに対し、中は審判以外は誰もいない。だだっ広い空間にポツンと選手たちが取り残される。


 とてつもない緊張感と、気迫。


 こんな状況はさすがに経験したことがあまりないのか、陸上部のメンバーでさえ緊張しているのか顔が強張っている。


「いやー懐かしいなー1年前もこんな感じだったわー」

「なんだお前、去年も出てたのか」

「まーねー」


 そんな中、リラックスできているものがここに2人。


 大宮と零だ。


 大宮は場数を踏んできているし、零はこういう状況に慣れている、というか何も感じなくなっている。


 それに一番大きいのは自分の実力への自信。


 スタートである第一走者を任された大宮だが、隣のレーンに負けるなどということは少しも考えていない


 零は白組と同じペースで走ろうと決めている。


 だから別に緊張する要素もないのだ。


 だが、その隣。緊張しているのか言葉数が明らかに少ないのは雨宮だ。


 顔に力が入っているし、全身に力みが感じられる。


 大宮が「頑張ろう!」と言ったことが逆にプレッシャーになっているのかもしれない。


 まあ、始まったら何とかなるだろう、と零は思っていた。


 と、ここで競技の説明をしよう。


 この競技は男子も女子も200m、つまりトラック1周する。半周では相手を抜くのが難しいとのことからだ。


 そして、女子からスタートして、男子、女子、最後にまた男子とバトンが繋がっていく。


 零が所属する紅組は大宮から始まって零、雨宮とバトンが繋がる。


 対する白組は、始めの3人を陸上部で固めて、最後は生徒会長の伏見となっている。



 まもなくレースが始まる。


 審判のコールで、大宮ともう一人の白組の女子がスタート位置につく。


 この時、会場は静かになる。学生の体育祭だろうか、というくらいに、もたらされる静寂、これは、スタートの審判の声が聞き取りやすいようにという配慮というより、トラック内の緊張が外に伝播したことによるものだ。


 審判が高く右手の拳銃を空に向け、左手で自分の耳を塞ぐ。


 パーン。


 拳銃の合図とともに二人が一斉にスタートを切る。


 スタートして早々、大宮が内側のレーンだが外側のレーンの白組を抜かす。


 そして半分過ぎたあたりでオープンレーンとなり、二人ともがコースの内側に沿って走る。この時になってようやくどれくらいの差がついているのかわかるのだが……とても大きな差ができていた。


 最後の零にバトンを渡すときにようやくもう片方の子がカーブを曲がり切るくらいだった。


(やっぱりこうなるのか……)


 心の中で大きなため息を吐いて幸せを逃がしたところで零もスピードを出す。


 幸いにも相手の男は100m走で一緒に走ったばかりの選手。どのくらいのスピードで走ればよいのか、下調べがついていた。


 そして、相手にもバトンが渡ったところで、カーブ越しに相手の走力を見てペースを確認する。


 観客席から


「零くんがんばってー!って私零くんとか呼んじゃった!」

「きゃーかっこいいー!」


 という声援が聞こえる。


 Sクラスのテントに目をやると、高宮はなんだか退屈そうにぼーっと見ていたし、音宮は寝っ転がりながら紅組の旗を振っていた。零は、白旗じゃなくて良かったと心底安心した。


 そんなこんなで無難に走る抜けようと最後にカーブを曲がった後、アクシデントが起きた。


 ――雨宮がいつもの練習より明らかに早いタイミングでスタートを切ってしまったのだ。


 緊張が出てしまったのだろう。それに陸上という種目、リレーという競技に対する経験不足かもしれない。


 零は瞬時にそのミスが、ミスであること、つまり雨宮がわざとやったわけではないことを認識した。


 雨宮の足がスタートを切った後、硬直した。そのまま走るべきなのか、遅くしてなし崩し的にバトンをもらうべきなのか。


 顔には、わずか一瞬の逡巡に対し、失敗による自責の念が表れていた。


 まずい、そう零が思った瞬間。


「京華ちゃん! そのまま走って!!」


 大宮が大きな声を上げた。


 そうしてから、零の方を見た。零と目が合った。


 その顔からこう読み取れる。


(零くんならできるよね?)


 その大宮のどこから来たのかわからない()信、いやこの場合は()信と言うべきなのだろうか。


 零はその信用に、軽く辟易しつつ、内心では少し嬉しかった。


 零の足にエンジンがかかる。


 さっきまででも十分に速かったのに、そこから先ははっきり言って異次元だった。


 とてつもない加速と共に、あっという間にトップスピードに乗り、雨宮に瞬時に近づく。


 そして、雨宮の伸ばす左手にバトンを乗せた。


 一番驚いたのはもらった張本人である雨宮。


(え、もう?)


 次いで驚いたのは、すぐ近くで見ていた大宮、そして生徒会長の伏見。


(なに…今の速さ…)


 あとは紅組のアンカーくらいだろうか。


 遠目で高宮が充実した表情で笑っていて、音宮は目が飛び出そうになっていたが。


 バトンをもらった雨宮はぐんぐんと白組との距離を離していき、アンカーで少し差を詰められたものの、紅組が勝って終わった。


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