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48話 体育祭午前

 体育祭当日。この日は荷物置きに体育館が使われ校舎は完全に締め切られた。


 生徒は運動場に張られたテントを活動拠点とし、見たい競技があればテントで見るか、近くに行って応援するかという感じだ。


 テントは紅組と白組で分かれていて、大きなテントがそれぞれ6つ、小さなテントが3つずつ張られていた。暗黙の了解で小さなテントはSクラスのメンバーが使っていたが、たまにBクラスの人がSクラスに強引に連れていかれそうになっては全力で拒否していた。


 というわけで、零は小さなテントにこじんまりと、それでも脱力した状態で座っていた。


 頭には赤色のハチマキ。紅組に所属していることを示している。


「零さん、お疲れですか、膝くらいなら貸してあげられますが」

「高宮さんや、それを断る労力を考慮して冗談は言わないでくれないかね?」

「断らないのが一番良いですよ」


 高宮はもちろん理屈的には正しいことを言っているのだが、常識的には反するので零は拒否の意を示す。


「零っちおつかれ~速かったね~」

「ああ、ありがとう音宮。速いって言ってもぎりぎりだったけどな」


 零は100m走から帰ってきたばかりである。もちろん1位だった。


 たかが100mしか走っていないのだが零が疲れたと言っているのは演技ではない。もちろん体力はまだ余裕たっぷりだが、久しぶりの行事の熱にやられたのだろう、精神的に疲れている。


「ふふ、零さんぎりぎりでも十分速いですよ。だってあの2位の子は陸上部のエースですもの」

「なにっ!?」

「これは2年生の中で一番速いことになってしまいましたね」


 高宮は楽しそうに零をからかう。零はこういうところで詰めが甘い。


「まあ、そうなんだよ。俺は実は足が速いんだ」

()()()()()陸上部のエースよりは速いみたいですね」


 しかし、そういうポンコツな部分も仕方ないとは言える。陸上部のエースとやらも、零が拍子抜けしてしまうほどに遅かった。いや、速くなかった。あれで陸上部のエースとはなんとも情けない。


「零くん、今から飛鳥の1500m走ですよ」

「なんだ、大宮って長距離も走れるのか。たしか100m走とか走高跳とかやってた気がするんだが」


 インターハイではその2種目で優勝していたような、という記憶を頼りに言ってみたが、


「飛鳥は大体なんでもできますよ。どれくらいの距離でも、どんな種目でも」

「あらら」

「あ、来ますよ! がんばれ飛鳥ー!」

「ぶっちぎり1位で、全く応援する気にならないのだが」


 珍しく熱のこもった大きな声を張り上げている横で零は苦笑いをしながら大宮を見ていた。



「いやー疲れたー!」

「疲れてないだろお前」

「いやー、走ってスッキリしたっ!」

「こいつ…」

「まあまあ、そんなことよりお昼にしようよ!」

「ああ、そうだな」


 午前最後の種目である大宮の種目が終わったため、お昼ご飯を食べようという段取りになった。


「零くん、お弁当多めに作って来たんだけど…た、食べますか?」

「ん? そうなのか。ありがとう、少しもらうよ」

「や、やった…!」

「何か言ったか?」

「えっ! 別に…」


 ここで雨宮は零にお弁当をあげることに成功した。もちろん、雨宮は高宮ではないので変な薬を盛るために、というわけではなく、純粋に自分の作ったものを食べてほしかったのだ。


 だが、この雨宮の様子を見て高宮、大宮、音宮の3人がひそひそ声で話す。


「あれ、どうみても零くんに気があるよね?」

「ありゃ間違いないな~」

「ええ、間違いありません。ですが、問題なのは」

「京華ちゃんがあれを恋心だって認識してない所だよね…」

「まあ、京ちゃん恋愛とかしたことないもんなぁ~」

「それは仕方のないことなのですが…ひょっとすると天然なだけ、厄介かもしれません…」

「でも時間の問題かもね~、案外すぐに気付いちゃうかも」


 とりあえず、雨宮への対策は別に考えることにして、と保留の形で小さな会議は終わった。


 しかし、ここで大宮と高宮はまた別の可能性を思い付いたのか、目を一度合わせた上で、音宮に詰問する。


「一応聞いておくけど、さーちゃんは零くんに恋とかしてないよね?」

「まさか、沙彩さん、零くんのことが気になるとかありませんよね?」

「ちょ、ちょっと、二人とも、目が怖いんだけど~! 別にわたしは零くんのこととか何も思ってないから~」

「ほんとだよね?」「本当ですよね?」

「ほんとだって~。わたしは恋愛とか人のやつを見てるだけで十分だから~」

「ふーん」「そうですか」


 全く信用されていない音宮は涙ながらに身の潔白(零に恋をしていても罪ではないが)を証明していたが、大宮と高宮は冷たい目を向け続けた。

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