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47話 体育祭の練習

 寮に戻った零は、電光石火の勢いでパソコンを開きサイン本の在庫チェックをした。


 だが、零の期待とは裏腹に、というか見透かしたように、目当ての本はどれも昨日の時点で売り切れていた。言うまでもなく高宮の仕業だろう。


 これは高宮からの「さっさと全力を出してMVPくらい獲って下さい」というメッセージなのだろうが、今の零にはその手は通用しない。サイン本は諦めてしまうか、どこか棚から牡丹餅のようなパターンを期待するだけにしておく。いくら喉から手が出るほど欲しいサインでも、運動能力を出してまで手に入れるものではないからだ。


 まあ、全力を出さずとも1位を取れるので、出る競技で1位を取り続けるだけでMVPになれるのなら、ぎりぎり1位を取り続ければ運動能力も晒すことなく目当てのものもゲットという一番良いくらいの意気込みである。なんとも舐めた気合である。




 次の日から本格的に体育祭に向けての練習が始まった。体育祭の実行委員会になった者は運営の準備やら競技の準備を、競技に出る者はバトンを渡す練習やスタートダッシュの練習を、応援団に入った者は発声やダンスの振り付けを考えるなど、個々がそれぞれ自分のできる形で行事に向かっていた。


 その運動場。


「零くん、これくらいでいいかな」

「あー大丈夫だと思う」


 バトンの受け渡しの練習をしているのは雨宮と零だ。


 具体的に言えば、零が雨宮にバトンを渡している。


 今行われているのは、雨宮が一番スピードに乗ってスタートが切れるように、雨宮の走り出すタイミングを調整している。零がここまで来たらスタートを切る、の「ここまで」を決める作業だ。


 ここでいかにスピードに乗れるかがリレーの勝負のカギである。リレーが単純な100m走のタイムの合計ではないのはこの要素があるからだ。


 ちなみに、なぜ体力テストで平凡な結果にある零が、体育祭の花形である紅白弾丸リレーといういかにも強者が揃いそうな競技に出るのかといえば、運動においてこの学校で最も権威のある大宮が推薦したからだ。


 この競技は女子2人男子2人の、本当に選ばれた者のみが走ることを許されるレースで、大宮は第一走者で、その後に零、雨宮、そして陸上部の3年とバトンが繋がっていく。


 そのため、零は大宮とのバトン練習もあったのだが、零は難なくそれらしいスタートが切れるラインを早々に決めて練習を終えていた。相手が大宮ということもあり、特に心配することもなかった。


 だが、雨宮は運動神経抜群とはいえ、陸上というスポーツに慣れていないため、入念に練習したいという本人の希望から何回も練習をしている。


 ちなみに、ここにはいない高宮は木陰からさらに日傘をしてニヤニヤと零を見ており、音宮は行事の盛り上がりにも我関せずといった感じで高宮の近くですやすや寝ていた。


 このような形を繰り返しながら、日は過ぎ去った。


 その間にいわゆる「体育祭マジック」なる、体育祭の盛り上がる気持ちに、恋愛感情が吊り上げられあちらこちらでカップルが誕生するという現象が見られた。


 この現象は同級生ではなく、むしろ先輩後輩の間によくあることで、例えば競技の練習の時に走り方を教えたりするとそれだけでメロっとなるみたいである。


 これは、Sクラスの中では大宮によく見られ、後輩に教えれば惚れられてしまい、先輩にアドバイスを送れば惚れられた。ただ、大宮は今のところ零一筋なので全員玉砕したが。


 ちなみに、零は特に指導をしたりなど後輩や先輩に関わりを持つことはなかったが、持ち前のルックスと走る姿を見て新たにファンが増えていた。だが、そんな目線に気付いた大宮がしっかりガードもといマーキングめいたことをしていたため、告白するものはついぞいなかった。


 雨宮は…あまりにも零に恋する乙女の雰囲気が出ていたため、見蕩(みと)れる者はいても狙おうとする者さえいなかった。



 そんなこんなで零たちは体育祭当日を迎えた。

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