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44話 寮へ帰ると…

 零が美月に会ったその日、寮に戻り、夕食のために食堂にやってきた零に対し音宮が一言。


「女の匂いがする」


 これは音宮が零のそばを横切った時に感じたものをふと、喋っただけだ。


 音宮が言葉を口にした瞬間、静かになった。静かになったのは零たちがいるテーブルだけだが、零にはそれが食堂全体のことのように思えた。


 だが、その言葉に雨宮、大宮、高宮の感情が追いついたとき、噴火した。


「零くんどういうことですか一体! 家に帰ると言っていたのに!」

「彼女がいたなんて一度も聞いたことなかったけどなんで言ってくれなかったのかな~?」

「零さん、その人は一体誰ですか名前は住所は高校は」


 矢継ぎ早に聞いてくる3人に対し、零は、しかし逆に、怒った。俗に言う逆切れだ。


「お前ら……うるせぇ!!」


 珍しく怒った零に対し、それでも彼女たちは怯まなかった。


「嘘まで言って女子に会うなんて浮気ですか!?」

「私たちはキープだったってわけ?」

「早くその人の素性を教えてください、はやくはやくはやくはやく」


「だからうるさいって言ってるだろうが! 妹に会っただけだわ!」


「「「妹…?」」」


「そうだよ、妹だ。美月っていう妹に会ったんだ。女の匂いがするのも当然だろうが。だいたいなあ…」


 と一度話を区切ってから、大きく息を吸ってマシンガンを放つ。


「雨宮、何が浮気だ! お前と俺は別に付き合ってもなんでもないだろうが! それにキープとか言ったけどなあ大宮。別にお前らなんかキープしようとか思ってねえわ。妹の方がかわいいし、お前らをキープするような度胸のある男はこの世に存在しない! あと高宮は物騒だから何も教えん!」


 零は自分の言葉を言い終えると、3人が落ち着いたのを見てようやくゆっくりご飯が食べられると安堵した。


 というか、非難に遭っている間ものうのうとご飯を食べていた、火付け役の音宮に零はやりきれない苛立ちを覚えた。


 だが、どうやら零の言葉は彼女たちの別のスイッチを押してしまったようで、


「だ、誰があなたとお付き合いするもんですか! この変態!」

「そうか…キープじゃなくてもっと深い関係になりたかったのか…」

「零さんが妹さんと…?」


 零一人ではツッコミが足りないと感じ音宮の方を見るが、呑気にハンバーグを丸ごと口に入れている姿を見て殴りかかりそうになった。


 零が、自分の世界に入りつつある3人をこっちの世界に引き戻す手伝いをしていると、ハンバーグをもぐもぐさせながら音宮が思い出したように言った。


「あ~そういえば夏休み明けたらすぐに体育祭あるけど、零っちって運動とかどうなの?」


 その話題には雨宮や大宮も反応して、こっちの世界に戻ってきてくれたようで、零はさっきまで殴りかかろうとしていた女の子に謝罪と感謝の念を心の中で送った。


「運動か? まあ、普段の俺を見てくれれば分かるけど俺はがり勉タイプで勉強ばっかりしてきたから、運動はからっきしかな」

「普段の零っちからがり勉タイプだと分かる人は相当頭がおかしいか全く勉強しないタイプだと思うけど~…」


 音宮が零のボケにツッコミを入れる。零がボケたのは、音宮にツッコミの苦労を知れとのある種の意趣返しだ。


「でも、零くんが運動できないのってなんか意外だな~、運動もめっちゃできるのかと思ってたよ」

「大宮。俺を何でもできる超人みたいな言い方をするな」

「そうだね、零くんって意外に鈍感だもんね」

「鈍感? どこがだよ」

「そういうとこ」


 鈍感で乙女の恋心に気づかない、あるいはその程度を把握できていない零に対し大宮は鈍感だと言ったのだが、鈍感の男に変化球を投げてもキャッチしてもらえないため、鈍感男は現実でもアニメやラノベの世界でも、乙女の天敵である。


「とはいえ、零さんが運動をできないというのは嘘だと思いますよ?」


 零が自分の嘘をユーモアと共に真実に仕立てようとしていたが高宮には通じない。いい感じにまとまりつつある空気に冷や水をかけるのは大体高宮だ。


「そうですね、多分大宮さんが男になっても勝てないくらいじゃないでしょうか?」

「え、それってインターハイ優勝しちゃうくらいってこと~?」


 高宮の伝わり辛いような伝わり易いような例えに音宮が質問をする。だが、返ってきた言葉は予想をさらに超えてくるものであった。


「インターハイならどの種目でも優勝しちゃうんじゃないでしょうか?」

「あは、はは…相変わらず規格外だな~零っちは」

「高宮の言うことを鵜呑みにするんじゃない!」

「いや、でも零くんならそれくらいできるって言われても不自然じゃないです…」

「雨宮! お前はもう少し常識というものを知れ!」

「常識知らずなのは零さんでは?」

「お前は要らんことを言うな!」


 結局ツッコミ役に回ってしまう零だが、なんとなく零がツッコミをしている方が据わりがよく感じる。


「零くん…そこまで化け物だったの…?」


 大宮が本気で震えている。インターハイを制覇したことがある大宮は、雨宮達以上に零の凄さが分かってしまう。


 だが高宮の言っていた言葉は、実際に合っていた。


 零にはそれだけの身体能力があったし、どんなスポーツでも順応してしまう器用さも持ち合わせていた。


 零は自分の体の使い方を知っているし、あらゆるスポーツを知っている。


 だが、零は身体能力の方は絶対に隠す。学力の方が知られてしまった以上、運動能力まで晒すわけにはいかない。これは一種のプライドなのかもしれない。


「零さんの運動神経の良さは体育祭で分かりますよ」


 だから、高宮が不敵に言ったこの言葉に対し、零は「ありえない」と心の中で思っていた。

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[一言] この話、 (余分な『、』を削除。誤字報告内容は空欄にできないためカッコ書きで説明を挿入) という文字がありますので、削除必要があります。
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