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42話 模試終わり

 8月に入り、セミがこの時を待っていたと言わんばかりに大合唱を始める。


 しかし、外の喧騒に対し、零たちの寮にはふわっとした徒労感が押し寄せていた。


「沙彩、大丈夫でしたか?」

「ま、まあ、な、なんとかなったんじゃないかな~…」

「今から自己採点でもしますか?」

「さすがにパス…。もうくたくただよ…」

「冗談で言ってみただけです…さすがに私も辛いですから」

「冗談言う元気があるだけわたしよりすごいわ…さすが京ちゃん…」


 東大の模試を受け終わったSクラスの一同には、疲労が見える。


「零さんは余裕ですよね?」

「なんか椅子の居心地がいつもより悪い気がした…尻が痛い…」

「私なんか最近運動ばっかしてたから、一日中椅子の上でしんどかった~!」


 普通の模試は二日にわたって行われるのだが、Sクラスの面子は何の嫌がらせなのか、1日で解かされていた。


「なんか高宮は元気そうに見えるんだけど…」

「疲れていましたが、零さんの顔を見て癒されました」

「っ…」


 直球で好意を表す高宮に対し、零は冷静を装うことができず、顔を背けてしまう。


「ふふっ、照れてる零さんもかわいいですよ?」

「男にかわいいって言うのは悪口だぞ」

「零さんも私を見て癒されてください♪」


 高宮が零の目の前にぴょこんと現れて目をキラキラさせる。


「すまん高宮、マジで今はお前に構う余裕がない」

「じゃあ何されても抵抗しないってことですね♪ 夜這いにでもいきましょう♪」

「貞操の危機は守らせていただきます」


 と、くだらない話をしている零と高宮の横で、音宮が机でだらっと脱力している。


「音宮、大丈夫そうか?」

「う~ん、A判定はいったんじゃないかな~」


 後日談であるが、一週間後に帰ってきた個票と最上位者のランキングを見ると、音宮はぎりぎりA判定だった。どれくらいぎりぎりかと言うと、A判定のボーダーである偏差値60をコンマ2点で上回ったレベルである。


 ちなみに大宮は難なく65くらいをとり、高宮は70強。零も高宮と同じくらいで、雨宮は4位。生徒会副会長の伊勢静が3位、伏見薙会長が2位だ。こうも上位を霞北学園が独占していると、事前に答えを配布していたのではないかと疑いたくなるレベルだ。


 また、1位は1年生の女の子だそうだ。1年生で1位になるとか、年齢詐称か留年して1年生になっているのではないかと疑いたくなる。そんな良い成績で留年する輩などいないはずだが。


 というか、雨宮にしろその1年生にしろ、――実際には零や高宮、大宮に音宮もそうなのだが――受験まで一体何をして過ごすのだろう。もうすでに合格しますと保証されている彼ら、彼女らがしなければならないことは恋人を作ることくらいだろう。1年生の子に至っては2年もの間、暇である。


 そんなことを雨宮に聞けば、「合格すると決まったわけではないので勉強しなければいけません」と逆にお叱りを受けるようなことだが。


「そういえば、お盆はみなさん実家の方に帰るのですか?」


 音宮もだいぶ疲れが抜けてきたのを見て、雨宮が空気を和ませようと質問をする。


「私は残るかな~、部活の練習もしたいし」

「自分は家の方に顔を出さないといけないので一週間ほど帰ろうと思っています」

「私はここから動きたくないからひきこもる~」

「そうですか。零くんはどうするのですか」


 一通り聞いたところで、何の気なしに零にも尋ねる。


「そうだな、一日だけ帰ろうかな」


 それに対し、とても涼しい顔で、先ほどの疲れだけでなく感情を失った、ニヒルな表情で零は淡々と言葉を返すだけだった。


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