4話 二日ぶりのお風呂
零が自分の部屋に入ると丁寧な字でメモが残されていた。
「夜ごはんのご希望の時刻を連絡ください。またご要望があれば部屋に食事を持っていきますのでお申しつけください」
なぜか、メモ一つにメイドさんの愛と思いやりが感じられる。久しぶり、いや初めてかもしれない。こんなに心が温かくなるのは。今までぼっちだったからなあ。零はそんなことを思いながら、食事を後で部屋に持ってきてもらうように頼み、お風呂へ向かった。
「部屋は案外シンプルなもんだな」
正直、部屋も庭みたいにでかいのかと思った。それこそ、リビングがあるんじゃないか、みたいな想像すらしていたが、さすがにそんなことはなかった。もちろん以前住んでたマンションの部屋よりは大きいが、キッチンも少し大きいくらいで、なんとも過ごしやすい空間だった。
まあ、食事を作ってくれるのにキッチンがいるのだろうか、とは思ったが。まあ暇があるときに作ってみるのも悪くないな、そんな暇を作るくらいならゲームするけど、なんてくだらないことを考えていたらお風呂についた。
まだ7時。今日は一刻も早くお風呂に入りたかったので、お風呂を沸かす時間も惜しんで寮に付いているお風呂を利用する。お風呂は誰もいない。零は体を洗って、お風呂に入る。お風呂は大浴場かとツッコミを入れたくなるほどに広かった。寮の男子全員で入ってもこれの半分も埋められないだろう。じゃあ女子全員も入ってきたら、なんてくだらない妄想をしながらお湯につかる。
それにしても、二年のほかのメンバーはどんな人だろうか。雨宮、大宮、あと他には、たしか高宮っていう子と、音宮っていう子だったかな。実際その二人もかなりの有名人だったと思ったが。
たしか、高宮は非常に頭の回転が速くてしかもかなりのお金持ちと聞いた気がする。音宮は…芸術関係だったかな?あとで2人ともちょっと調べておくか。
あいつらは俺のことどう思ってるんだろうな。少なくとも大宮には悪く思われていないようだったが、雨宮はどう思っているのだろう。ずっと一位であったことに多少なりともプライドのようなものはあったはずだ。それが急に現れたどこの馬の骨ともわからんような男に抜かれるというのは面白くない。そこまでできる奴ならたぶん恨んだり怒ったりするようなやつではないと思うが...
ギャルゲーだったら確実に雨宮ルート消滅だな。まあ別に恋をする気なんてないけど、なんて気をまぎらわせつつ、零は次に雨宮に会うとき気まずいだろうなと少し落ちこみながらお風呂を出た。
お風呂が上がりの暑さから逃れるため、うちわでまだ完全に乾いていない髪の毛をあおぎながら部屋に戻ると、そこには自分の見たことのない光景が目に入った。
「こんばんは、入江くん」
……そこには鮮やかに映える長い黒髪の美少女が座っていたのだ。