36話 2日目前半
2日目の朝、太陽の光が襖の間から零に降り注ぐ。
(ん? もう朝か?)
半分寝ぼけながら零は体を起こして朝のルーティーンをこなす。
「あ、おはようございます、零くん。ようやく起きたんですね」
「ああ、雨宮か、おはよう」
零の視界に映る雨宮はすでに外に出る服装になっていて、髪も整え目もしっかり開いている。
「あ、零くん、ここ寝ぐせついてますよ」
不意に雨宮が零の顔に急接近する。もちろん雨宮はただ寝ぐせを直そうとしただけだが、至近距離にある雨宮の顔と、鼻をくすぐるような甘い香りに思わず零はたじろいでしまう。
「? どうしたんですか零くん」
「い、いやその、なんでもない」
歯切れの悪い零の回答に対し、雨宮は不思議そうに零の顔を下から覗き込む。
「あの、か、顔が近くて、だな」
「あっ!」
雨宮もようやく自分のしたこと、していることに気が付いたのか、パッと零から距離をとる。
「あの、その、寝ぐせを直そうとしただけですから…」
「分かってる、分かってる、分かってるぞ」
「…後ろ向いてください」
「う、後ろ?」
「いいから!」
「はいっ!」
いつも敬語の雨宮が命令するように言い、いつもため口の零がかしこまるという、日常とは逆の光景がそこにあった。
「寝ぐせは一度指摘した以上、見過ごせません。直してあげますから後ろ向いてください」
「い、いやそれくらい自分で直すぞ?」
「でも学校でも零くんはたまに寝ぐせついてますから信用できません」
「は、はい…」
雨宮は零をくるくると少しずつ回すと、持っていたくしで丁寧に梳かし始めた。
(零くんの髪の毛、さらさらしてていつまでも触っていたい……って何を考えてるんだ私!?)
(あー。雨宮に髪の毛を触られると、くすぐったいんだが、どこか落ち着くな……ってあほみたいなこと考えてるな俺)
などと二人は頭の中ではイチャイチャしていたが決して表に出ることはなかった。
そしてその後、二人のいい感じのムードを見かねた高宮が二人の邪魔に入った。
ちなみにその時大宮はお風呂に入っていて、音宮はまだ寝ていた。
観光ばかりしていては飽きるだろうという高宮の提案と、大宮音宮の強い支持により、二日目は大阪の街を見て回ることになった。
「たこ焼き、お好み焼き、それにまだまだいっぱい食べないと~!」
「昨日と違って今日は最初から元気なんだな、音宮」
「だって、いっぱい回らないといけないのに体調なんか悪くしてる場合じゃないでしょ」
「お前にそこまでの健康管理能力があったことに驚きだぞ」
「どや~」
と小さくサムズアップする音宮を零は軽く無視して歩みを進める。
「ひどいな~零っちは」
「なぜ修学旅行に来てまでバカの相手をしないといけないんだ」
「バカとはなんだ、一応これでもSクラスにいるんだぞ!」
「お前はバカじゃないがバカだな」
「なにそれ、意味わかんないよ~」
と、適当にあしらったところで、零たちは今日の昼飯をお世話になるお好み焼き店にやって来た。
「いらっしゃいま、せ~」
昨日のうなぎ屋と同じような店員の迎えを聞きながら、6人座れるテーブル席へと案内される。
この店は、音宮の要望により自分でお好み焼きを焼く店になっている。
「すいません、豚玉5つください」
全員、最初は王道のものが食べたいということで全員豚玉になった。
待っている間は昨日の夜の女子トークの続きや、この後どこにまわるかなどの話で盛り上がったが、注文が届いた瞬間、音宮の目が肉食動物のそれになったため、話は中断された。
「いっただきま~す」
音宮の大きな声に続いて、全員が所狭しと熱い鉄板に自分の生地を乗せていった。




