35話 一日目終わり
大宮と1時間行動を共にした零はそのまま学校が呼んだバスが来るという駐車場まで向かった。
そしてバスに戻ると高宮が顔に怒りマークを浮かべて恐ろしい勢いで大宮を問い詰めた。
「飛鳥さん! どこに行っていたんですか! 2分もオーバーしてますよ!」
「ごめんごめん、ちょっと楽しかったからつい」
そう言って大宮は自分のバッグについているストラップを高宮に見せる。
高宮はそのストラップを不思議そうに見ていたが、大宮の視線に誘導されて零のリュックを目にした途端血相を変えた。
「ちょっとこれは一体どういうことですか!? 説明してください零さん!」
「え、俺なの!? てかなんか怒られてない?」
「早く!!」
怒りのあまり怒涛の剣幕を浴びせる高宮。そんな普段見ない姿に零は困惑し動揺するばかりで、高宮の知りたい情報は何一つ出てこない。
そんな零にしびれを切らしたのは高宮ではなく雨宮だった。
「ま、まさか、二人とも、こ、恋仲になってしまったのですか!?」
「こ、恋仲!?」
恋仲などというワードが出ることを予期していなかった零は突然のことに驚いてしまったが、これが雨宮には逆効果だったようで
「その驚きよう…本当に二人は…」
「ま、待ってくれ雨宮。なにか誤解している。俺は大宮と付き合ってなど」
「きゃー零くん! それ以上は言わないで? 恥ずかしいよぉ…!」
そして大宮は零の腕に抱きつく。しかも大胆に自らの膨らんでいる双丘を押し付けながら。
「ちょ、大宮、やめろって」
と言って腕を少し振ってみるが全く大宮は離れない。それどころか胸の柔らかさにどんどん意識が集中してしまい顔が上気していく。
「れ、零くん! なんで離そうとしないんですか!」
「い、いや、離そうとはしてるんだが…」
「え~でも零くん、さっきからどんどん力弱くなってるよ~? 満更でもないんじゃない~?」
雨宮の怒りに対しても大宮は臆することなくどんどん雨宮を煽っていく。怒りが零に向いていくことを知っているからである。
ここでようやく目を覚ました音宮が絡まりあっている零と大宮を見てとどめの一言。
「あ、すごい。二人ともこんなに仲良くなったんだね。おめでと~。結婚式は呼んでね」
この何気ない寝起きの一言に一同の空気は凍り付く。
雨宮は動揺しすぎて失神しかけ、大宮は結婚のワードに恥ずかしくなって腕をほどいて、自分の顔に両手を当て「れ、零くんと結婚…」とつぶやきだし、高宮は半分八つ当たり気味に音宮を睨み、零はようやく離れたやわらかい感触に安堵している。
「はい、では全員そろったようですので、これからちょっと早いですが泊まる旅館の方に向かいたいと思います~」
この三日月先生の一言でようやく一行は席に着き、落ち着きを取り戻していった。
旅館に到着した零たちは、旅館の女将によって真っ先に泊まる部屋へと案内させられた。
「これは…広いな…」
零たちが案内されたのは、布団が50枚は敷き詰められそうな和室が手前にあり、奥には窓側に大きな壁がある。
そして話によるとその先にはなんと部屋専用の露天風呂がある。
これはまあとんでもない部屋に宿泊することになってしまったな、と零は感じていたが、他の女子四人はお嬢様のため、さして気にする点ではなかった。
それより、露天風呂という言葉を聞いて真っ先に高宮が「一緒に入りましょうか」と笑顔で誘ってきたが、零は全力で断った。やはり高宮には冗談だとわかっていても何をしてくるのかわからない節があるので、少しでも不安がある場合は全力で断るべきというのが、2か月高宮と過ごして得られた教訓であるらしい。
結局夜は、とても豪華な海鮮料理を、いつもの寮での食事のように部屋で5人そろって食べ、何事もなかったようにお風呂に入った。大宮と高宮が「一緒に入らなくてもいいので、露天風呂に入ればいいじゃないか」ということを言ったのだが、美少女の残り湯に入ると背徳感に襲われそうだと考えた零はおとなしく旅館についているお風呂場で入浴を済ませた。
大浴場から帰ってくると、先にお風呂を済ませていた4人が仲良くトランプをしながら遊んでいた。
(変なところで怒ったりするけど、やっぱり仲がいいんだな)
何故かあの4人の団欒の中に邪魔をするのは気が乗らなかったため、零は携帯にイヤホンを差して、ベッドに横になりながら自分の好きなアニメを見返してそのまま寝てしまった。




