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30話 新幹線の中

「みなさん、きちんと乗りましたか~。って言っても、見ればすぐ全員がいることはわかりますが。私はすぐそこにいるので何かあったら言ってくださいね」


 新幹線の3人席を向かい合わせにして、窓際に零、その隣に音宮、雨宮。音宮の向かい側に大宮がいて、その隣に高宮が座っている。


「あ、私トランプ持ってきました~。ババ抜きでもやりましょう!」

「いいね~!あたしも賛成~!」

「ではやりましょうか」


 言い出した音宮がカードを配ってゲームが始まる。


 残ったのは雨宮と大宮。高宮が最初にあがって、それに続くように零があがり、それによって音宮もうまくあがった。


「むむむ…。飛鳥、どっちの手がジョーカーなのか教えてください」

「それじゃあ意味ないでしょ?ほらほら、早く選びなよ」


 大宮は余裕を見せて手札をひらひらさせながら笑っている。


「ええい、こっちですか!」


 大宮の手から思い切って抜き取り、自分の手札に差し込む。


 ――ジョーカーの札を。


「へへ、やっぱり京華ちゃんのことだからこっち抜くと思った~」


 ――なぜこんなに盛り上がっているのか、正直なところ零には分からなかった。大宮はもちろんのこと、雨宮や高宮も盛り上がっているのはなんとなく意外な感じを受けるのだ。


 実際は、こういう旅行をあまりしたことがないというだけなのだが。


「じゃあ、私も上がるね~」


 そういって大宮は雨宮の手札の中から綺麗にジョーカーではない方を抜き取り、上がった。


「なぜわかるのですか…」

「それは、京華さんが分かりやすいからですよ」


 高宮が幼い子を見るような目を雨宮に送っている。


 実際、雨宮は、あまりにもわかりやすく、大宮がジョーカーではない方の札を触っているとき手が震えていた。


 1か月過ごして分かったことだが、雨宮は感情に対してうまくコントロールが出来ていない。決して情緒不安定というわけではなく、感情を隠すのが下手なようだ。


 こうしてトランプによる遊びは長く続いた。


 雨宮があまりにも弱くて負けが雨宮ばかりになって来たので、音宮が気を使ったのか、トランプゲームをやめて座談会の形に持ち込んだ。


「零さんは京都に来たことはあるんですか~?」

「いや、無いな。一度もない」

「え、珍しいですね~。最近の小学校はどこも修学旅行は京都と奈良に行くはずですが~」

「俺は小学校のときの修学旅行は風邪をひいてしまって行けなかったんだ」

「それは残念でしたね…」


 実は残念ではなかった、というのは付け足そうともしたが、明らかな蛇足なのでやめた。


「そういえば、4人はとても仲が良く見えるが、高校で知り合ったのか?」


 これは実はずっと疑問だったが、わざわざ聞こう、とも思わなかったので長い間熟成されていた質問だ(熟成とは言ったが何も変わってはいない)。


「私たちは小学校から一緒でしたね。何分、親がとても仲がよいので」


 雨宮が他の3人と顔を見合わせて答える。仲が良いのは本当らしい。


 これだけの天才がそろったのは小学校の時から4人で切磋琢磨してきたのが大きな要因だろうな、と考える。


「しかし4人が同じ学校だったなら、同級生はさぞかし苦労しただろうな」


 何気なく言ったはずの一言だったが、なにやら毒が入っていたのか、高宮がこちらを怪訝そうな顔で見ている。


「いやまあ、みんな仲良くやってたよな~」

「そうですか…?私はあまり居心地はよくなかったですね…特に中学校の時とかは…」


 大宮の言葉に、雨宮がやんわりと否定する。


「やはり嫉妬というのは人間の(さが)なのですよ、()()()()()持つ可能性がありますし、()()()()()向けられる可能性があるものです」


 高宮が寂しい声で話す。


 4人の中で、大宮はSクラス以外の子とも喋っているのは見るが、他の3人は話しかけられたら話すというスタンスをとっているように見えた。大宮も、無意識なのだろうが、3人と話す時と比べて、心の距離を自ら作って、置いているように見えた。これらのことは小学校、中学校を通して身に着けてしまった癖のようなものだろう。


 やはり、力あるものは疎まれる、妬まれるというのはどこにいっても一緒らしい。もちろんある程度は仕方のないことだが、それでも限度はある。


 限度を踏み超えてしまうと、その先にあるのは…暴力でしかない。身体的な暴力、言葉の暴力。


 それが向けられることの怖さはまだ4人には分かっていないようだ。()()()助け合ってきたのだろう。


 俺にはあの時助ける力が無かった。力を持つことを恐れて、必要な力まで手にしていなかった。


 臆病だった俺。


 ――二度と同じことは起こさない。


「零くん、顔が怖いですよ?」


 ふと雨宮の声がした。声に顔を傾けると、雨宮がぽかんとした様子でこっちを見ている。


「ああ、別に何でもないんだ」


 そのとき、零は安堵した気持ちが自分の中にあることを確認していた。



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