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29話 勝負の結果

「ちょっと沙彩さん…?これは一体どういうことなのかしら?」


 高宮が音宮から奪った紙をひらひらさせながら蔑むような、それとも怒りを含んでいるのか、そんな目を音宮に向けている。


「こ、これは…その…理由が…」

「あら、理由があるのですか?聞かせていただきましょう」

「あ…その…」


 高宮が言葉とは真逆の有無を言わせない声で音宮を見る。


 ――こうなったのは音宮がテスト結果を高宮に教えたことから始まった。


 前に4人と零の間で生まれた対決は「引き分け以上だった場合、修学旅行で1時間の自由時間をもらえる」というものだった。そして、高宮は音宮に、「勝った時は沙彩さんの時間をください」と言ってあった。


 音宮が勝負する科目は社会。音宮の暗記力でいけば、満点を取るのは確実。だから、高宮は自分に2時間の自由時間が与えられるはずだった。


「勉強しなかったのですね?そうなのですよね?」


 音宮には返す言葉がない。まさに図星である。


「まあまあ、玲奈さんも落ち着いてください。満点を取るのは当たり前ではありませんよ」

「あら?相手は普通の人ではなく、沙彩さんなのですよ?」

「沙彩にもたまにはミスをしますよ」


 ()()()()が聞いたら暴動が起きるような会話だ、そう零は思っていたが、多分そのことに気が付いている人はいないと思いあえて突っ込むことはしなかった。


 ――なんで音宮が勝たなきゃいけないんだ?まさか4人で何かを企んでいたのか?何を考えていたのは分からないが、とりあえず最悪の事態は防げたようだ。


 零のとんちんかんな発想はもちろん誰にも気が付かれなかったが、さすがにここまで鈍いのは零の頭を考えれば異常なのは間違いない。


 ちなみに期末テストによりSクラスのメンバーの変更はなかった。


 音宮458点、大宮467点、高宮475点、雨宮497点、零500点。(各教科100点)


 各担当教科、音宮97点、その他100点。


 結局、音宮以外は勝負に勝ったことになる。


 雨宮はほっとして肩をなでおろしている様子。大宮は喜んでいる様子。高宮は音宮に怒りを隠せておらず、その音宮は高宮に怯えている。


「はい、では席についてくださいね~。これから修学旅行についての説明をしますから~」


 幼い声に威厳はないが、全員席に戻る。


「みなさん知ってると思うけど、来週から2泊3日で京都にいきます~いえ~い!」


 誰も盛り上がらない。音宮が頭の痛そうな顔をしてこめかみのあたりを押さえている。


「おっほん、ともかく修学旅行です。他のクラスもですが、それぞれクラスの中で班を作って行動してもらいます。というわけで、このクラスは5人で班を組んでもらいます。」


 零の横で手が上がる。


 ――なんだ?なんだ?なぜか知らないが嫌な予感がする。恐る恐る横を見ると、そこには高宮の手が。


「部屋の方はどうなるのでしょうか?」


 何を聞いている?なんだ?最高級のホテルじゃないと寝れないのか?


「ええと、一応ちゃんとしたホテルを取りましたが…他のクラスと別のホテルの方がいいですか?」


 三日月先生もさすがに困惑した様子だな。


「ええ、もちろん他のクラスとは別にしてほしいですが…それより」


 それより…それより…?


「――零さんはどうするのですか?」

「……は?」

「ええと…もちろん男女別の部屋ですよ?そこは安心してください、というか当たり前ですが…」

「それでは零さんは一人ということでしょうか?」


 そう言った高宮は雨宮に目を向ける。雨宮ははっと何かに気が付いた様に手を口に当てる。


「そ、それはちょっと零くんがかわいそうに思います…先生。せっかく楽しい修学旅行なのに楽しみの一つである夜に一人というのは…」


 おい!ちょっと待て!なんだその流れは!なぜ雨宮が高宮に便乗する!?


「た、たしかに!それはあたしも反対かも!零くんを一人にするのはかわいそう!」


 なんで大宮まで!お前はさっきまで静かだっただろうが!


「私も二人の意見に賛成です。沙彩さんもそうよね?」

「そ、そうですね…」


 お前は今絶対に音宮に遠慮して言っただろ!


「そこで提案なのですが…私たちの部屋に彼を泊めてはどうでしょうか?」


 で、ですよね……知ってましたわ。これは知ってました。


「ええ……でもさすがに年頃の男女が同じ部屋というのは…」


 ここまで来たら三日月先生が最後の砦。あれが最後の砦か…。


「大丈夫ですよ。間違いが起こらないように、私がちゃんと24時間見張っておきますので」


 なぜ24時間を強調した?なぜにこっとした?


「あ…!それなら私も見張っておきますので…」

「それとも、三日月紅葉先生は私たちのことを疑っておいでですか?」


 あえてフルネームで呼んで相手を威圧する、恐ろしい女…高宮…。


「そ、それなら…ま、まあ仕方ないですね…」


 やっぱりあっさり引いたー!これが教師のすることか!


「お、おい、まだ俺はいいと言ってないぞ!」


 さすがにここで流されてしまってはダメだ。許すわけにはいかない。


「俺は一人の部屋でいいから!」


 高宮の方を軽くにらむ。


 しかし、高宮は微笑んで、立ち上がり零のの方がへ近づいて耳に顔を寄せて小声で囁く。


「あら、忘れたのですか?勝負の内容には『修学旅行中は勝った人の言うことに従わなければいけない』という条件が含まれていましたよ。」


 小声の甘い囁きに不覚にも少しドキッとしてしまう。


「私が修学旅行中に『私の部屋に来て♡』と申し上げれば零さんは来るしかないのですよ?」


 高宮のとろっとした妖艶な声に何故か変な気持ちにされる。こ、このままじゃまずい…!


 俺も立ち上がって距離を取る。


「わ、分かったから、その代わりちゃんとベッドは分けてください」

「わかりました、ベッドを5つ準備させておきますね」


 三日月先生はほっとした顔だ、どうやら一刻も早く高宮のプレッシャーから逃れたいようだ。


「はぁ…もうどうにでもなれ……」



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