27話 テスト週間入り
「あと2週間で期末試験です。みなさん頑張ってくださいね!」
6月中旬、テスト週間が始まったことを担任が告げる。
霞北学園はテストによってクラスが決まるという特別な高校であるので、部活をしている生徒に配慮して2週間前からテスト週間(実際には2週間あるので週間ではないが)が始まる。
1つでも上に上がろうというのはBからDクラスの生徒だけ。Aクラスの生徒はSクラスに上がれないことを悟っているのが大半、というか、以前零にちょっかい、というか八つ当たりをかました花田以外はAクラスを維持するように保守派となっている。
そしてSクラスは自分の地位を守ろうと考えて…いない。彼ら、彼女らはSクラスにいることが半ば当たり前のようになっており、特段意識するようなこともない。
それは先週返された模試の結果からも明らかだ。
音宮はかろうじて偏差値70をキープ(かろうじて、と言っても努力をしているわけではないが)、高宮はお得意の頭の回転の速さで理系科目では10番以内、大宮は堅実に音宮と高宮の間くらいにいる。
そして…雨宮は今回3位。全国で、しかも3年生に混じって3位だというのだから化け物っぷりにもはやため息しか出ない。各教科それぞれまんべんなく出来ており、苦手を感じさせない。まさに完璧なのだ。
だがこの模試を返却されたときの雨宮の顔は曇っていた。今年の最初の模試は2位だったので順位を一つ下げたのだが、それくらいは誤差だと普通なら思うだろう。
だが今回の場合は勝手が違う。新たに1位になったのは零なのだ。
2位の現生徒会長の伏見に圧倒的な差で勝ってしまったのだ。各教科満点。文句のない1位だった。
いや、逆だ。全教科満点を不審に思う人は多いだろう。彼らの常識ではそんなことを成し遂げることなど不可能なのだから。
しかし、零を知っている人からしたら認めざるを得ない。それはSクラスにいる面々だったり、生徒会長であるのだが。彼なら満点でもおかしくない…と思わせる程度には彼がすごいことを知っているのはまだ多くない。
もちろん零はこの結果を誰にも見せていない。なので一応雨宮達から見たら1位が零であるかはわからないのだが……当たり前のように1位は零だと皆が認識していた。
ちなみにこの模試は自分の成績の下に得点分布図があり、そこにあまりにも飛び出た位置にあったことで雨宮達も1位、つまり零の点数を把握した。
「なぜ今回の模試はしっかり解いたのですか?零くんならSクラスから落ちないよう、つまり偏差値70を狙って取ることは可能なのではないですか?」
模試が返されたときに雨宮は当然のように聞いた。雨宮の言うように、順位が上の方にならないとSクラスから落ちるわけではない。偏差値を取ればよいのだ。
「先生方に自分がちゃんと実力でSクラスにいることを認めさせるためだ」
零の狙いはそこにあった。
いくら他人の目をあまり気にしない性質の零でも、先生に疑われ続けるのはあまり好ましいこととは言えなかった。だから実力形式の模試で点数を取ることに意味を見出した。
――とまあこのような感じからSクラスにいる5人に、Aクラス以下は無縁(零は1年間縁があったが)なのである。
なので今回のテストもみんな自分のやるべきように勉強をする……とはいかなかった。
「私たち4人と勝負してください!」
三日月先生が出て行った直後、4人が俺のもとに駆け寄ってきて、代表するかのように雨宮が勝負を申し込んできた。
「勝負…とは?」
テストのことだろう。そんなことは零にもわかる。だが、突飛なものであるため、あまり受け入れやすいものとはいえない。
「教科ごとに私たち一人ずつ、具体的には、私とは国語、玲奈さんとは数学、飛鳥とは英語、沙彩とは社会、それぞれ勝負してくれませんか?」
それぞれ彼女たちの得意科目であることがわかるくらいには零と4人は仲良くなっている。へりくだった態度で雨宮が言い切る。
「そのテストの点数で勝負しましょう。点数が引き分け以上だったら私たちの勝ちでお願いします」
引き分け以上、と言ったのは俺が満点を取ることを見越してのことだろう。
「ということはお前たちが満点を取ったら、自動的にお前たちの勝ちってことか?」
「そうです」
雨宮が即答する。それくらい零ならすぐわかると思っていたらしく返答に迷いがない。
雨宮を除いた3人がにやりとこちらを見る。どうやら自信がある様子だ。
「それで…勝負というからには何かあるのか?」
「もちろんです」
何をかけさせられるのか。もの?お金?時間?
いや、お金という線は薄い。彼女たちがお金に困っている様子は見ない。お金がありすぎて困っている、ということがもしかしたらあるのかもしれないが…
この答えは雨宮の口から明かされる。回りくどく。
「来月、修学旅行があることはしってますよね?京都で2泊3日の」
「ああ、知っているが」
急に話が飛んだように見えるが、どうやら何かつながりがあるようなので、とりあえず返事をする。
「そのときに自由時間があって…もちろん修学旅行の班はこの5人なので、基本はここで行動することになるのですが…」
なんか聞き逃せないようなことがあった気がする。
修学旅行の班ってこの5人なのか!?初めて聞いたぞ、というかこいつはなぜそんなことを知っているんだ。
まあ、知らないやつと組まされるよりはましだが…アウェーである感じは否めない。
とりあえずその話は置いといて、続きを聞くことにした。
「勝った人は、1時間零くんと回れる、というのはどうでしょう?あとは、勝った人の言うことを修学旅行中は従わなければならない、という条件もお願いします」
そうか、なるほど、ようやく何がしたいのかわかってきた。
ようは…俺に荷物持ちをさせたいのだろう。
修学旅行といえば、お土産を買うのは必須だろう。俺はよく知らないが、多分、相当な量のお土産を買うことになるはずだ。そのことを見越して彼女たちは早めにパシリを見つけておきたいのだ。間違いない。
――零はやはりこういうところが鈍い。鈍感である。そんな理由なら1時間一緒に回るなどという制約を付ける意味がないし、例えば高宮などはお金持ちなのだから、わざわざ普通の高校生に荷物持ちをさせる必要など存在しない。零のお得意の論理的思考に基づけば、零の結論が間違いであることは明らかなのだ。
しかし、ある意味ではしかたのないことかもしれない。なぜなら、こういう鈍感な主人公はそもそも自分が好かれる、という選択肢を除外してしまっているからだ。現に零が読んだラノベに出てくる主人公はそういうタイプだった。それを読んでいてなお、現実と切り離しているがために自分のことを棚に上げているようになってしまっているのはとても皮肉なことだ。
「それなら良いだろう。そっちの方が勝利条件が有利であるかわりにチップは少ない、ということだな」
「はい」
「ではこっちが勝った場合は…そうだな、一か月間、俺の部屋に入ることを禁止しよう」
これは言うまでもなく自分のプライベートゾーンを守るためだが、正直に言って、この勝負は負けてもいいと思っていた。
勝てば御の字、負けてもあまり痛くない。
彼女たちがそこまで高望みをしていないのだから、無理にこっちも掛け金を上げて、負けた時の損害を大きくするのは得策ではない。
「…わかりました。ではそのような条件でお願いします」
一度3人に目で了承を得たのち、交渉成立となった。
零が彼女たちの目的に気が付いて、この勝負を受け入れなければあのような修学旅行にはならなかったのだが…
たくさんのブックマーク、評価、ありがとうございます!
まだまだ物語は長くなりそうですが…付き合ってあげてください…




