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26話 楽しい映画

「楽しかったですね!」

「はあ…」


 楽しいとは言いづらかったな。何故か知らないが、映画の予告からずっと俺の右の腕を抱きしめて高宮自身の体に巻き付けてきた。ひじのあたりには柔らかな出っ張りが、手のひらには高宮の素のふとももに当てられた。


 映画の途中で主人公とヒロインのささやかなキスシーンがあった。その時には高宮はひどく興奮した様子で、唇を濡らして、こっちの方をちらと見てきた。


 さあ、どうだ。これが楽しいことか?いや、楽しく映画を見れたと言えるだろうか?


 そりゃ俺だって興奮したさ。あんな美少女がふわふわした様子で俺の方を見てきてあんな態度だったんだから。めっちゃかわいかったし、高宮の知らない一面にドキッとした。


 ……最近こんなことばっかりだったな。最近、と言ってもSクラスに来てから、だが。


「――遅かったですね」

「!?」


 なぜお前がそこに…なぜ映画館を出たすぐのところにいるのだ…


「あら、京華さん、なぜあなたがここにいるのですか?」


 幸い(?)なことに高宮が俺の気持ちを代弁してくれた。


「たしかあなたは映画に興味がないと言っていませんでしたか?」

「…わ、私はこの後の勉強会に零くんが遅刻しないように、と…」

「それなら電話で確認するだけでもよいのでは?」

「そ、それは…玲奈さんが何を考えてるのかわからないからでしょ!?映画を見にいくなんて言うから!あなたは零くんの正体を知っているというし…」

「それで不安だったのですか?」


 高宮がからかうような笑いを雨宮にかける。


「…な、何が!?」

「それは私が聞きたいですね。京華さんは一体何が不安だったのですか?もしかして…零さんが私に取られてしまう、とでも思ったのですか?」

「な、な、何を言っているのですか!?わ、私は零くんを自分のものなどとは思っていませんよ!?」


 雨宮がひどく動揺しているのは誰の目にも明らかだった。


「そうですか~てっきり私は京華さんが零さんに好意を寄せているのかと思ったのですが…」

「こ、好意っ!?そ、そんなことあるはずないでしょ!」


 その言葉を聞いて、高宮の舌にさらに油がのる。


「あら、そうなのですか、では最近の勉強会で零さんの顔を気にして頻繁に見ていたのは何だったのですか?」

「そ、それは…気のせいです!」

「私が『気のせい』なんて起こすとでも?」

「うっ…」

「まあ、京華さんにその気がないのなら私が零さんを奪ってもいいわけですね?惚れさせちゃおうかな~」

「なっ!?ま、まさか、玲奈さん、零くんのこと…」

「それは京華さんに関係ないですよね?別に零さんのことをどうも思っていないようですから…」


 高宮は完全に雨宮に口げんかで勝っている。まあ、半分以上は雨宮が零に恋をしていて心に余裕がないのが原因なのだが…


「また明日、零さんに直接アタックしてみようかしら」


 高宮は小悪魔のような顔で手を自分の口に当てる。


「私の人心掌握術(ちから)さえあれば、零さんでも…ふふ」

「零くんはそんなものには引っかからないですよ!ね?れいく…ってあれ?零くんは?」


 雨宮と高宮がいた位置に零の姿は見えなかった。




「ふう…ここまで来れば大丈夫だろ」


 零は雨宮と高宮が口論を(正確に言えば仲のいい喧嘩だが)をしている隙に気配を消して逃げてきた。


 さすがに俺もこれ以上自分の休日を邪魔されるわけにはいかない。あのままいったら多分雨宮に勉強会にでも駆り出されただろうし、高宮に振り回されてどこかに連れていたかもしれない。


 俺の休日への欲を舐めるなよ。最近は彼女らのかわいさに免じて許していたが、それも、すぐに収まると思っていたからで、ここまで長引くようでは、俺も積極的に自分の休みを手に入れにいかなければならない。


 ――俺だって、なんだかんだと言われているが、高校生なのだ。決して、普通の高校生ではないが、普通の高校生になろうという努力は人一倍してきたつもりだ。少なくとも去年の一年間はいたって並の生活をしてきたつもりだ。



 というわけでオアシスを求めて俺がたどり着いたのは都内の岩盤浴ができるところにやってきた。


 ここは漫画にラノベ、雑誌などが置いてあったり、自分で持ってきたもの、例えばゲームなんかも遊ぶことができる。無論、岩盤浴をした状態で、である。


 服を脱いで軽くなった身で、まずはパソコンを開く。


 ――多分、俺の今日の動きがバレていたのはハッキングかなにかで俺のGPS情報を手に入れることができたからだろう。高宮は、前に大宮の件でコンピュータを使ったハッキングをしていたことから、今回もどうせあいつの仕業だろう。


 だがそれが分かっていれば対処法は簡単だ。


 こっちから情報を流してやればいい。もちろん、嘘の。


 とりあえず…あいつらが信じるためにも、寮に戻っているように動いていることにするか。


 ふう…これで今日のところは大丈夫だな。



「ちょっと、玲奈さん、まだ場所がわからないのですか!」

「――これは無理ですね…多分零さんも私が宇宙(うえ)から見ていることに気が付いたのでしょう。まあ、これくらいあのお方ならなんてこともないのでしょうが…」

「……じゃあ、もう零くんの場所はわからない、ってこと?」

「そうですね…もう少し頑張ればわかるかもしれませんが…零さんはそう簡単には許さないでしょうね…」

「そうですか…」

「まさか、私もこれほど零さんが自由を求めているとは思いませんでした。今日のところはこれくらいにしましょうか」

「私ももう寮に戻ることにします…」


 悲しげな表情の雨宮といつものように満足気な高宮であった。




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