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25話 休日!休日…

 今日は久しぶりの休日。体感的には、Sクラスに入ってから初めてなんじゃないか?


 この一か月、あまりにもドタバタしていたように感じる。馬鹿みたいに豪華な寮に入ったと思ったら、雨宮に勉強しようと言われて、了承したことがこうなった原因か。そうするとあそこがターニングポイントだったのか。


 そこから週末になっても部屋に押しかけてくる奴がいるせいでおちおちと横になることさえできなかった。大宮がくっついてきたり音宮が変なものを持ち込んできたり、高宮がからかいに来たり。おお、思い返すだけで散々な目に合ってるな俺。


 だが今日は違う。俺は今日という日を守るためにあらゆる工夫を施した。


 まずは俺の部屋。完全に窓という窓をロックし、玄関のカギを閉めた。そして、玄関で騒がれても困るので、一定時間騒いでいる奴がいたらちゃんとメイドさんが捕まえて自分の部屋に戻すように言ってある。


 だがそれだけで済むのなら俺はこんな目にはあっていない。やつらはいとも簡単にメイドさんを言いくるめ、俺が油断した隙に邪魔しに来た。メイドさんに用事があると言わせて俺が部屋を開けた瞬間に飛び込んで来たり、あるいはピッキングして来たり。


 だから俺は部屋を出ることにした。これが第一の策。部屋にいると見せかけて時間を稼ぐ、いやあわよくばこれで乗り切れる…訳はないが役に立つだろう。


 そして俺が向かった先は近くのネットカフェ。完全に個室のところ。そう、完全に個室。これが第二の策。まず奴らは俺がどこに向かったのか探すことに苦労をするだろう。あちらこちら探し回っても俺は特徴のない根暗な男だ。だから俺の目撃情報は出てこない。


 それでも何らかの方法で見つけたとしても俺は偽名を使っているため簡単に俺の場所は見つからない。個室で外からは多少しか見えないため俺だと確定するのは難しい。もし違う人のところに入ったりしたらさらに個室に入ることへのハードルが高くなる。


 ということで今俺はネカフェにいるのだ。極楽にラノベを読みながら、時折アニメも挟んで。


 ……最高だ。こんなに有意義な時間、久しぶりだ。ああ楽しい。これまで読めてこなかった分、大量に読むものがある。そして見るべきアニメがたくさんある。無限に続くかのような至福。読み終わっても読み終わっても読み終わらない。


 え?雨宮達を見くびっているって?まさか。そんな簡単に隠れられるとは俺ももちろん思ってない。


 もう30分ほどでこのカフェを発つ。次に向かう先は映画館。なんと俺の大好きなラノベ原作の映画がやっている。


 このことを知っていた俺は今回の作戦にもってこいだと思った。


 理由は二つ。


 一つは、一つの場所にとどまらなくていいということ。もちろんさっき言ったようにここまで来るのは大変だと思うが、奴らは普通の高校生ではない。半日もしたら見つかってしまう。だから、念のためにこのカフェを3時間、つまり10時には出て、昼を避ける。昼にはこの場所は見つかってしまい、最悪映画館に向かうところで鉢合わせしかねない。だからゆとりをもってここを出ることによって、奴らがここを発見してもいいようにしておく。


 二つ目の理由は、映画館に入ってさえしまえば、2時間はこっちのものだということ。2時間の間は俺の時間になって誰にも邪魔することはできない。これも映画館に行く理由だ。


 もちろん映画館に入る前にぐだぐだしていては危ないということで、先に座席も取っておいた。完璧なまでの用意。


 そして、映画を見終わったあとはメイドカフェに行ってご飯を食べて、そしてもう一度この根城に帰ってくる、という算段だ。


 決して高望みはしない。5時くらいまで俺の自由時間が確保されたら儲けもの、4時でも満足だな。


 じゃあ、映画館に向かうか。



 映画の上映時刻の15分前に座席に座った。俺は映画の前にある予告も好きで見ておきたいタイプなので、この時間がベスト。ここまで怖いくらいに順調だな。俺は右隣にあるポップコーンに手を伸ばす。


 ぎゅっ。


 ん?気のせいか?なんか手を握られたような……


 背筋が凍る。零のその皮肉にも優れた頭は何かを悟ってしまう。


 恐る恐る自分の右側に目を向ける。


「――あら、偶然ですわね。零さん?」


 高宮は笑った。


 ……やられた。完全に読まれていた。俺の計画、全て…。


「な、なぜ…ここが分かった…」

「あら?あんな簡単な小細工しかしていかなかったのは私に会いたいからだと思いましたが?」

「そんなわけないだろ…」


 やはりこの女、恐ろしい。どうしてこんなことをしてくる。俺の休日、俺の休日なんだぞぉぉぉ。


「高宮、お前だけなのか?」

「ええ、みなさん、この映画にはあまり興味がないと言ってしまわれたので…二人きりですね?零さん」

「お前らみんな、俺がここにいること気づいてるのかよ…」

「もちろんです」


 これがこいつらの実力か。俺の想像の遥か上をいく早さだ。俺はこいつらをなめていたようだな…。


「なんだ、お前はこの映画に興味があったのか?」

「いえ、私も特になかったですが、零さんと二人っきりになれると思い、来てしまいました♡」

「白々しい。要件を言え、要件を」

「冷たいですね~」

「お前がそんな無意味なことで来るはずがないだろう」

「さすが零さんですね!でも、私から要件がないのも事実ですよ?」

「というと?」

「零さんが私に聴きたいことがあるのじゃないかと思ってわざわざこういう場を作ってみたのです」

「いらんお世話だ。帰れ」

「そんなに冷たくあしらわれるのでは、私も知っている情報をみんなにばらすしかなくなりますが?」

「勝手にしろ」


 どうせ高宮も本気で言う気が無いことくらい俺が見ればわかる。そして、同時にまだ何か言いたいことも…。


「何が言いたいのかはっきりしろ」

「うーん、どうしましょうか?」

「早く言え」

「じゃあ、言いますけど…


 ――3年前のあの事件、詳しく聞いてもいいですか?」


 そう高宮が言った途端、零の目の色が変わる。目つきも。冷めた目、見るもの全てに畏怖の念を抱かせるような支配者の目。その視線の全てを高宮に向ける。


 さっきまで余裕でいた高宮も思わず震えてしまう。体が冷静を保つことを本能が許さない。


「そこまで調べていいなんて誰が許可したんだ?高宮」

「――っ!」


 有無を言わせない零。有無を言えない高宮。高宮の顔にもう笑顔はない。あるのは目の前の人に対する恐怖の顔だけ。じっと自分を睨みつけてくる、その男に。


 だが、その一方で高宮の胸は高鳴っていた。


 ――今までこのような目をした人がいただろうか…?このような目を私に向けた人がいただろうか…?


 生まれてこの方人を見下してきた。他人をおもちゃだと思ってきた。


 対等になれたのはあの3人だけ。友人と呼べるのはあの3人だけ。


 人生なんて面白くないと思っていた。単調な日常。単調な生活。


 そんな私を…あなたはそのように見てくださるのね……


 その、暗い目で、私の人生に光を見せるのね……


 ――私の初めて(はつこい)……あなたに捧げます。




更新遅くなってしまって申し訳ありません。

毎日投稿を意識していたら、気が付いた時には話が面白くない…という状況が続いていたように思ったので、自分のペースでまったりと更新していこうと思います。

本当に身勝手な話ですが、どうかこの拙作を読んであげてください!

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