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21話 屋上

 放課後は否応なしにやってくる。授業の終わりを知らせる鐘が鳴る。


 恐怖が込み上げてくる。怖い、辛い。


「飛鳥ちゃーん、部活行こ!」

「ごめん…今日は用事あるから遅れていくね」

「飛鳥ちゃんが遅れてくるなんて珍しいね~なんかあった?」

「い、いや、なんでもないの。大丈夫…」


 大丈夫。この言葉は人を励ますことはあっても、自分に嘘をつくようなことは今までなかった。今ではこの言葉は逆に自分の不安を煽る。自分に嘘をつかせるほど今の状況が自分にとって耐えられない者だということを教えてくれる。


 怖い、辛い。



 ――少し日が暮れた屋上で、扉が開く。


 目の前には3人の女子が立っている。


「あら、ようやく来たようね」


 3人の真ん中に立っている金髪の女子が声を出す。


「あなたたちが…?」

「あら、あの下駄箱の()()()()()は気に入ってもらえた?」

「あなたたちがあんなことをしたのね…」


 3人の顔に見覚えはない。


「わ、私があなたたちに何かした…?何か悪いことをした…?もし、したのなら謝るから…」

「何かした、か。したかどうかと言えば、あなたは何もしていませんわね」

「じゃあなんで…!?」

「なぜか…?」


 金髪の子が少し前に出て、後ろの二人に視線を配る。


「――気に入らないんですよ。大宮飛鳥、あなたが。」


「……!?」

「運動がすごくできて、それでいて勉強もできて、人当たりもよくて、それで…モテて…」

「……」

「あなたは何もかもうまくいっているじゃないですか!何もかも…!じゃあ、なんでそんなにうまくいっているあなたが、あたしから幸せを奪っていくのですか!?なんで…?わざわざあたしから奪わなくてもいいじゃないの!」

「……」

「私は入学して1か月ほどである男の子と付き合い始めました。出会ってすぐに話が合うと打ち解けて…それから何回か一緒に帰って、彼の方から告白してきたんです。すごく嬉しくて、そこから毎日が楽しかったです。一緒に遊んで、一緒に喧嘩して…運命の人に出会ったと思うほどでした。」

「そうなの…」

「でも、先月に入ってから…あんまり話さなくなって、彼がどんどんそっけなくなってきたの。それで彼の方から別れようと言われました…。あたしは彼にいろいろ言った。なんでそんなこと言うの、今はちょうど倦怠期ってだけだって、別れたくないって。そうしたら彼は言ったの。他に好きな子ができたから付き合えないって」

「……」

「そのとき無性に怒りが込み上げてきた…彼と、その相手に。で、そこから少し彼の様子を観察してみた。誰のことが好きなのか…簡単だったわ。だって、彼わかりやすいもの。

 これで話は分かったわよね?後ろの2人も同じようなものよ。」

「そんなの…あたしにはどうすれば…」

「そうよ、あなたはそんなことをしようとお思っていたわけじゃない。でも、しようと思っていなくてもそういうことをしてしまう。だからね、良いアイデアを思い付いたの!」

「…良い、アイデア…?」

「そう。あなたが誰かと付き合っていれば、そんなことにはならないでしょ?だから、あなたのことを好きな人を連れてきたから、そいつと付き合いなさい。そうしたらあの写真も消してあげるわよ」

「いやよ!なんで付き合う相手を決められないといけないの!?それにあたしに好きな人なんかいないし…」

「じゃあ、あの写真が全校生徒の目に入ってもいいの?」

「――っ!」

「安心しなさい。相手はあなたのこと本当に好きだから。――入ってきなさい」


 すると屋上の扉が再度開く。そこから現れたのは、かなりぽっちゃりした、眼鏡をかけた男だった。



「紹介するわね。この子は2年の太田くんよ」

「飛鳥ちゃぁん、僕のものになってくれるんだねぇ」

「あはははは!!どう?とってもあなたを愛しているでしょ?」

「なにこの人…」

「今日からのあなたの彼氏よ。たくさん遊んであげてね?」


 いや。絶対にいや。こんな人とは付き合いたくない。いやだ…


「ほら、太田くん?彼氏になったわよ、あなたの大好きな大宮さんの。好きなことしていいわよ?」

「え、ほんと?飛鳥ちゃぁん、嬉しいよ!!じゃあ、恋人の証として、キスしよぉ!」

「待って、まだあたしはこの人と付き合うなんて決めてない…!」

「あら、往生際が悪いのね。じゃあ、この写真を、うん、まずは1階の掲示板にでも貼っておこうかしら」

「で、でも、そんなことをしたら、盗撮であなたたちもちゃんとした人生歩めないわよ?」

「いいわよ、あなたの人生がめちゃくちゃになるなら。まあ、その男と付き合ってもめちゃくちゃにできるんだけどね!」


 ……そうか、もう私にはどうしようもないんだ。どうすることも。こんなことになってしまった時点で。どうしようもなかったんだ。もう何も考えたくない、見たくない。


「好きにして……」

「あははは!とうとう折れたわね!その顔が見たかったのよ!絶望、絶望に堕ちる顔が!これであたしたちが味わった苦しみがあなたにもわかるでしょう!!じゃあ、太田くん、あとはお好きに♡」

「えへへへへ、本当に飛鳥ちゃんが付き合ってくれるとはっ!!これから毎日楽しみだね!一緒に愛を育んでいこうね!一緒に住んで、おはようのチューして、朝から晩までイチャイチャしようっっ!子供は5人は欲しいよねぇ」


 ああ、私の人生、終わったのかな。何もしてないのに、終わっちゃうのかな。でもしょうがないか。だって、もう私にはどうすることもできないのだから…


「じゃあ、キスしよっか!なんなら、服も脱いで裸でキスしよっか!」

「あはははは!そりゃいいわね!傑作だわ!結婚式のときに流してあげるねっ!」


 太田は大宮の服に手をかける。制服のシャツのボタンが取れていく。一つ一つ、絶望とともに。


 とうとう下着が露わにされて、スカートのファスナーにも指がかかる。それが、半分くらいまで下ろされたとき…


 ――バンッ


 屋上の扉が開く。


「すまん、待たせたな、大宮。」


 涙が溢れる。思わず。これは何の涙なのだろう。絶望の涙。恐怖の涙。


 希望の涙だ。


「ちょっと、なによあんた!――って入江…なぜあなたがここに…」


 その場にいる者の視線が零に集まる。


「クラスメイトが困っているとのことなので、来ただけだ」


 入江くんは長い前髪で目が隠れていて、何を考えているのかわからなかったが、それでも助けに来てくれたことだけは分かった。


「僕と飛鳥ちゃんの愛を邪魔するな!!」太田くんはナイフを持って入江くんに近づく。


「危ないっ!!」


 次の瞬間、零の腕から血が落ちた。


「入江くんっ!!」


 怖くて顔を下にして目をつぶってしまう。今の状況を理解したくない。嫌だ。自分のせいだ。自分のせいで…


「――これくらい傷をつけておけば大丈夫か」


「っ!?」


 その場にいる者全員が耳を疑った。


 私もパッと顔を上げて入江くんを見る。その眼に映る入江くんは、血は出ているものの、大したことはなさそうに見える。まさか…


「わざと避けなかったの?」

「正確には違う。致命傷にならないように避けた」

「な、なんで…」

「いいことを教えてやろう、そこの3人と、キモデブ。今ここにある監視カメラはすべて機能していない。友達のコンピュータに少し強いやつがハッキングしてくれているからな。それで、このケガだ。わかるな。これから俺がお前らをいくら痛めつけようとも、正当防衛だ。()()()傷つけても、な」

「――なっ!」

「あ、あと、盗撮写真。あれは君たちのというかそこの金髪の君のパソコンに入っていたようだが」

「な、なぜそれを!?」

「これまた別の友人が君の家に忍び込んでウイルスを入れておいてくれたからね。今頃君の持っていたすべての写真は、なかなか素敵なロックミュージックにかわっているはずさ」

「ぐぬぬ…!」

「れーちゃんにさーちゃん…ありがとう…」


 涙が溢れてきてしまう。ありがとう…感謝しか出てこない…


 そんな泣いている大宮に零はブレザーを投げる。


「あまり涙を見せるな。あとそれで体も隠しとけ。収まったら自分でボタンをつけろ。そういう姿は見せるものじゃない」

「ありがと…」

「それに、一番感謝するべき相手は雨宮だ。いち早くお前の異常に気付いて俺に教えてくれた」

「き、京華ちゃん…」


 大宮から嗚咽する声が漏れる。まるですべての感情を出すかのように。


 そんな大宮を横目に零は動く。


「そういうわけで、まずはお前からだな、太田」


 次の瞬間、だれの目にも留まらない速さで拳が繰り出される。それが太田の脇腹に直撃する。


「ぐはっ!!」


 巨体が宙を舞う。


「今のでお前の肋骨は何本か折れた。もう少し骨を折ってやろうか?」

「う…うう…やめてくれ…やめてください…」

「そうか、じゃあ次はお前らか」3人の方を見る。3人とも足が震えて動けない。


「女の子に乱暴するの!?」

「女の子か…女の子に暴力をふるう気はないが、お前らは女の子じゃない。……ただのゴミだよ」

「ひっ!!」


 そこには私の知らない入江くんがいた。いや、多分誰も知らない。恐ろしい、今日のどんな恐怖よりも恐ろしい。殺意に満ち溢れている、そんな雰囲気だ。


 誰もが、もうこの子たちは終わりだ、そう思ったとき…


「……二度とこんなことをしないと誓うか?」

「…ふぇ!?」


 私もつい聞き間違えたかと思った。

 いや、べつに私もみんなが殴られることを楽しみにしていたわけじゃない。ただ…なんとなく意外だった。なぜなら…入江くんはもう止まらないような雰囲気だったから。


「誓えるのか?」

「…ち、誓います!誓います!」

「なら失せろ。目障りだ」

「は、はい…!!」


 3人は我先にと屋上を後にする。


 ――こんな入江くんは知らない。かっこよく助けてくれる入江くんも、あんなに恐ろしい入江くんも。


 無言で去っていく入江くんの背中に…私は恋をしてしまった…



ちょっと怖い、というかえげつない話を入れてしまって、うっ、ってなってしまった人がいるかと思います…

申し訳ありません!!でもどうしてもこの話は入れたかったので…許していただけるとありがたいです…

これからもよろしくお願いいたします!

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