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20話 灰色の空、灰色の世界

 もし、あの日に戻れるなら、私は戻りたいと思うだろうか。あんなに辛いことがあったあの日。そういう意味では二度と思い出したくない。二度と。


 しかし、あの日がなかったら、と思うとそれは嫌だ。あの顔が見れないから。それは嫌だ。あんなかっこいい姿を見れないから、それは嫌だ。


 …あれは何にもないような普通の日だった。



 ――最近、梅雨に入ってからというもの、雨が多くてやだなー。湿気で髪がうまくまとまらないし、蒸しっとしていて、なんとなく気分は落ち込む。


 今日はたしか3限体育があったっけな。これを今日の生きる糧にするしかないな。でも、空もどんよりしていて、鉛色の雲ってやつが空にたなびいておるな。なんとか体育まではもってくれないとなー。私、これで体育もなくなって部活も出来なかったら死んじゃう!!うーー、頼むよ神様、もう雨は嫌だよ~。


 そんなことを考えながら下駄箱を開けると、仲から一枚のピンク色の手紙が出てきた。


 ――なんだろう?私は手紙を開けてみる。


 そこには、一枚の紙と5枚の写真が出てきた。なんだろうか。以前に友達と撮った写真とかだろうか?でも、そんなことあったかな?とりあえず写真を見てみよっか。


 ――バサっ


 手から写真が落ちる。意識が消えるような感覚。何が起きているのかわからない。


 その写真に焼き付いていたのは、私――大宮飛鳥――の写真だ。それも、顔を写すような普通の写真ではない。


 盗撮写真。トイレでスカートを下したあとの写真、更衣室での下着の状態を前から撮った写真…


 全身から血の気が引いていくのが感じられた。体の表面の温度が一気に下がる。寒くて、鳥肌がたってくる。


 ――どうしてこんな写真が。なんで?一体誰が?周りを見渡す。


 誰もが怪しく見える。みんなこっちを見ている。冷たい目。他意のある視線。腹黒い視線。怖い。怖い。みんな違う。いや、自分の意識のせいだとは分かっている。でも恐怖を感じてしまう。恐ろしい。


「…はよう、おはよう飛鳥」

「え!?」

「ど、どうしたの、そんなに驚いて」

「い、いや、な、何でもないの!」

「そう…」


 こんな写真、見せられるわけがない。親友の京華ちゃん、それにれ-ちゃんやさーちゃんにも。


 手紙の中に入っていた紙にはこう書いてある。


「――これをバラまかれたくなかったら放課後、屋上に来なさい――」


 どうしたらいいんだろう。




 教室に入っても、授業が始まっても、何も気がまぎれない。むしろ、思考がどんどん進んでいまう。震えが止まらない。感情が定まらない。上下左右、いや、もっと立体的な揺さぶり、ぐにゃぐにゃする。


 どうしたらいいの私。相談するべき?相談するとして誰に?誰に相談、誰に相談したらいいの。京華ちゃん?れーちゃん?さーちゃん?いや、無理だ。無理だよ。


 心配かけられない、そんな綺麗な理由じゃない。単純に怖い。こんなことをされた私にも何か彼女たちに知られたくような何かいけないことをしてしまったのではないか、そう思うと相談することはできない。


 じゃあ入江くんに?それはできない。まだ会って1か月も経たない子にそんなに信用できない。彼にあんな写真を見られたくないし、そんな写真があることさえ教えたくない。男の子だし、入江くんに言って何か変わるわけでもない。


 そもそも誰が、何のためにこんなことを?恨みを買うことをした覚えは…私にはない。もしかして、振った男の子が?それとも別の何か?もう全くわからない。全く頭が働かない。放課後になればわかることだ。それでも、放課後になる前にある程度気持ちの準備をしていないと恐ろしく、それが私の思考を推し進める。


 もうだめだ…何も考えたくないよう…


 窓の外から見る景色は、最悪。色が無い。鮮やかな世界が灰色に染まっていく。いや、世界から色が抜けていく。


 ――狼狽する大宮を零はじっと眺めていた。



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