2話 中間テストの結果
5月の中旬。学校はざわざわしていた。
「誰だあの名前」
「知らねえ」
「あのBクラスのおたくじゃないか?」
「はあ?誰だよそれ。なんでそんな奴があの雨宮さんよりも上なんだよ」
教室に入るとやたら視線を感じる。なにこれ、居づらい。零のラノベを読むスピードが格段に落ちる。そんなに不動の一位だったのか、なんて思いを巡らせる。
雨宮京華(あめみやきょうか)。生粋のエリート。学年一位にして運動もトップレベル。美貌まで兼ね備えて、やれやれ、って感じだな。ちなみに零のタイプの女の子である。黒髪ロングで冷静。完全無欠っていう感じ、悪くない。
まあ、怖すぎて誰も告白してないらしいけど。
ーーちなみに零もモテる、というよりモテた。入学当初はそのイケメンさからモテたが、ある日告白をした女の子を、ゲームやラノベに時間を当てたいという理由で断ったため、一気に人気を失った。
というか、Sクラスには何点で入れるか分からなかったからとりあえず満点取ってみたが…どうやら悪目立ちしてしまったらしい
この日、零は授業中、現実逃避も兼ねて寮での生活を想像しながら過ごした。
その日の放課後、零は進路指導室に呼ばれていた。
「お前、カンニングとかしてないだろうな」
担任がこう言ってくる。酒臭い。口から酒の匂いがプンプンする。
しかし零も人のことを言えないくらい臭い。なぜなら、水道もガスも止められてお風呂入れなかった。まあ、銭湯に2日に一回行ってたし、寮に入ってすぐ風呂いけばいいか。
「もちろんしていません。自分の実力でとりました」
疑うこと自体ナンセンスだけど、まあ言い分もわかる。今まで平均点しかとってこなかったもんな。比喩じゃなくほんとに。平均が53点なら自分も53点。きっちりとってきた。
零はいつもテストでは平均点を狙っていた。そのためにあらゆることに気を回す。この問題はここの生徒ならこれくらいの人数が解けるだろうとか、この問題はこういう引っかかり方する奴が多いだろうなとか。テスト中ひたすらそういうことを考えて、自分が解く問題数を決める。
この霞北学園の偏差値は約65で、一般的な進学校である。また度重なるテストでこの学校の生徒の学力を把握し、平均点をデータの面からも予測する。そうして、平均点を目指して取ってきた。
それに比べて満点を取ることは簡単だ。全部答えを当てるだけでいい。自分のみに思考を回せばいい。
まあ今回は数学の最後の問題が楽しめたからよかった。まさか数学オリンピックレベルの問題を出すとは。多分2位の子はあれでちょっと点数引かれちゃったのかな。まあいいか。
「…疑ってすまない。まあせいぜい次のテストもSクラスに居れるといいな」
明らかにすまないなんて思ってないよな、と零は思いながら、失礼しました、と言って進路指導室から出た。
家についてすぐ、寮に向かった。一年過ごした我が家には多少愛着があって、寂しさを感じた。しかし、それよりネットが使える寮への期待のほうが大きい。
かけがえのないわが子たちを丁寧に。あとでもう一回読み直すか。かわいいラノベたち。
――入江零は軽い足取りで寮に向かう。そして寮の門を叩いて、入っていった。