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19話 Sクラス交流会の一幕

「結構人がいるんだな」


 率直な意見を言ってみる。


「今日はSクラスの生徒だけじゃなくて、政府のご要人がたくさん来ていますからね」

「え!?そんな偉い人とか来てるの!?」

「はい。この霞北高校のSクラスにはそれだけの価値があるのですよ?」


 高宮が笑って答える。そんな高宮は慣れた様子でお客人たちに対応している。いや、高宮だけだはない。雨宮も、大宮も、そしていつも眠そうな音宮さえも。まるでどこかの財閥の令嬢のようだ。


 ――いや、本当に令嬢なのだろうか?


「なあ、お前らってどこか偉いところのお嬢様だったりしないよな?」

「えっと…」

「私たちは、うーん、割とお金持ち、なのかな~?」

「割とって、どれくらいだ?」

「うーん、まあ想像に任せます!」


 大宮も、さすがに自分の家がお金持ちであることをひけらかしたりはしない。よくある、ラノベで出てくるお嬢様は、お金持ちであることを存分に発揮して、金の力を使って主人公やそのヒロインたちに嫌がらせをしてくるものだが。もちろん、大宮同様、雨宮も音宮も高宮もそんな様子は全くない。いや、まあしいて言うなら、高宮は令嬢感を出してきているが、それでも嫌な感じをさせない、本当に高貴な雰囲気を出す。


「すみません、お待たせしました」


 今日は要人が多数来ることもあって、どっかの漫画出版社の忘年会をしそうなのところで集まっている。そして、その壇上に、金色のくせっ毛の顔立ちの良い、霞北のブレザーに身を包んだ男が立った。その横には紫色の長い髪をした、端正なプロポ―シャンの高潔な女子生徒が控えており、壇上の端には胸を張った3人の生徒がまっすぐ前を見ている。


「霞北学園生徒会長の伏見薙ふしみなぎです。今日はお集りいただいてありがとうございます。今日は霞北学園Sクラスの交流会となっています。ぜひ、お楽しみください」


 伏見会長は終始笑顔でさわやかに無難な挨拶をした。


 なるほど、さすがはこの学校の生徒会長だ。人を惹きつける、カリスマ性のようなものを感じる。あまり好きなタイプではないが、悪い感じもしない。


「なあ雨宮、あの生徒会長の隣にいる人は?」

「あの方は副会長の伊勢静いせしずかさんですね。会長の伏見さんに次いで、3年生の次席にいらっしゃる方です。あの方が会長を慕っている…というか、好意を抱いていることは有名な話です…」

「そうか……」


 なんだその情報。まあ、そうだとしたら、その副会長も苦労しているだろうな。あの会長、すごくモテそうだし、どの女性にもさわやかな顔をしているだろう。そう、今みたいに。――ってこっちに近づいてきてないか!?


「あら、生徒会長さん、お久しぶりですねー!」

「ああ、音宮くん。今日は眠ったりしないよね?」

「さすがにこの状況では寝れませんよ…あはは…」


 音宮がやりづらそうにしているのは初めて見る。


 伏見は音宮を軽くあしらった後、こっちに視線をやる。


「君が入江くんかい?」

「そうですけど…」

「君があの雨宮くんに勝ったっていうのは本当かい?」

「会長、ご本人がいますけど…」

「ああ、そうだね、すまない雨宮くん。悪い意味ではなかったんだ」

「いえ、私は大丈夫です。入江くんに負けたというのも紛れもない事実ですし」

「ほう…君があっさり負けを認めてしまうほどか…驚いたな…」

「いや、たまたまですよ。雨宮は運とか信じてないみたいですけど、本当にたまたまです」


 そろそろ口を挟んでおかないと、過大評価になってしまいそうだと思ってそろそろ首を突っ込む。


「はっはっは。君は面白いね。雨宮くんが負けを認めているのに、たまたまなわけないじゃないか」

「なんでどいつもこいつも信用してくれないんだろうな…」

「ふむ」


 急に伏見の目が変わる。その雰囲気の変化にSクラスの1年、2年、3年全員がこちらを見る。オーラがさっきのものとはまるで違う。さっきはただの爽やかなイケメンだったが…今は――ただの獣だ。獲物を見る目をしている。さすがの零でも少しおののく。


 しっかり観察し終わった後、俺の耳元に顔を近づける。


「君の実力の底が見えないな…君は一体どんな人生を歩んできた?どんな生き方をすればその領域にいける?」


 この伏見という男は正直、今まで見てきた中でも相当できる男の分類に入るだろう。見ただけで、隠していたものを察してしまう。


 それと同時にわくわくもした。この男は、あの4人さえもしのぐほどの人物だろう。


「俺は人の道を歩まなかった。それだけだ」


 少し間が空いた後、伏見は笑った。そして、さっきの生徒会長の顔に戻る。


「会長、何を話されていたのですか?」

「うん?ただの痴話話だよ?」


「入江くん、何を話していてのですか?」

「雨宮か…ただの世間話だ」

「そうですか」


 雨宮は釈然としない顔をしているが、まあさすがに話せるようなこともない。


 大宮も高宮も音宮も不安そうにこちらを見ている。


「というか、本当に人が多いな。大宮の後ろにでも隠れていたら、平穏に済ませられるかな?」

「うーん、さすがに首席となればそれは無理かな?ほら、皆さん、こっちを見てるよ?入江くんの嫌いな、視線を浴び続けてるねぇ」


 大宮は何故か楽しそうだ。なんだこいつも高宮化が進んできたか?いよいよ俺を守ってくれるのは雨宮だけ…か。悲しいものだ。


 そのあと、みっちりたくさんの人に話しかけられて、卒業後はうちに来ないか、とかうちの娘を紹介したいのだが、とかそんなのばっかりだった。いつの時代だよ。ヘッドハンティングは高校生のうちにするようなことでもないだろうし、政略結婚とか古すぎ。


 それにしてもやっぱり問題なのはドSの高宮だ。あいつ、俺が大人たちに「たまたまですよ」とか言っても全部否定してきて、しかもあろうことか大人たちをたくさん呼んでくる始末だし。あんにゃろ、絶対楽しんでやがる。


 もうへとへとだ。人づきあいが苦手な俺がこんなことをしたのだから当たり前だ。


 ――しかし、伏見薙、か。なんか俺の平穏を崩しそうな、そんな嫌な予感がする。


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