17話 雨宮の一撃必殺
結局、音宮を退治した後、反動で昼ご飯まで動けなかった。
しかし、昼になっても俺を待つのは災難ばかり。昼ご飯を食べ終わって自分の部屋に戻ろうとしたとき、大宮に捕まりそうになった俺は、とっさに雨宮との勉強会を前倒しすることに決めて、大宮を回避することに成功した。
やはり、外に出て大宮に連れ回されるとなると、視線を集めてしまうし、なにより疲れそうだ。その分、雨宮との勉強なら家でゆっくりできるし、大宮より雨宮の方が一緒にいて疲れない。我ながらグッジョブである。
当の雨宮も、事情を察してくれたのか快諾してくれた。本当に雨宮は勉強熱心だし、大宮についてもよく分かっているから助かる。これからは大宮避けの隠れ蓑にさせてもらおう。
「――お、お邪魔します」
雨宮の声が玄関の方でする。
「おお、上がってくれ」
急いで玄関の方に向かう。雨宮が入ったのを確認して急いで鍵をかける。これ以上面倒な奴に入ってきてもらっては困る。
今日の雨宮はまたいつもに増して綺麗に見えた。雨宮の性格上、寮内にいるときもちゃんとしていたいのか、茶色のスカートに黒色のタイツを履いて、上半身は白と黄色のシンプルなポロシャツだ。もちろんポロシャツのボタンは一番上まで留まっている。
制服では感じられない明るさを受け、こういう一面もいいな、と思わされる。
「急にこの時間にしてすまなかったな」
「い、いえ、どうせ家で勉強する予定でしたので…」
雨宮の落ち着きがない。昨日、無意識にもたれかかってしまったことを気にしているのだろう。
しかし憂慮する必要はない。雨宮という女の子は勉強を始めてしまえば、問題を解くのに脳がフル回転し、それ以外のことに頭が及ばなくなるからである。
――あれ?おかしいな、もう5分は経ったんだけどな。いつもだったらこれくらいで集中するのに。こちらをずいぶん気にしてる様子だ。まあ、昨日のことを自分でもよっぽど驚いているのだろう。もうちょっとすれば集中するはずさ。
――10分は経ったな。さすがに不可解だ。あの雨宮が、まったく集中出来ていない。シャーペンがノートの上を滑らない。飼い主、雨宮がリードをもったまま動かない。
雨宮の頭が全く働いていないようだ。
「どうした、雨宮?あんまり集中できていないようだけど?」
「い、いえ!?そんなことは…」
「ペンが止まってる」
「……」
「休憩するか?」
「すみません…」
そう言って雨宮はペンを離し、両手でコップを持ってゆっくり飲み、深呼吸する。
「珍しいこともあるんだな、雨宮がここまで集中しないなんて」
「私も…ここまで集中できないのは初めてなんですけれど…」
「なんかあったのか?」
「思い当たることはありますけど…」
そう言って雨宮は零の方をちらっと見るが…
「え?なんて言った?」
零はそういう才能があるのだ。雨宮もすぐに頬を赤くして否定する。
「い、いえ!別になんでもありません!」
「それならいいけど…」零は雨宮の方を見る。
明らかにここまで雨宮が集中できないのは異常だ。もしかしたら、昨日のことで睡眠がうまく取れなかったのかもしれない。なんとかしないと。
「――気晴らしにゲームでもするか?一応、リモコンは2台あるぞ?」
そういってテレビの下の引き出しからリモコンを2つ取り出した。
「あ、あの…」
「どうした?」
「なぜ2つあるのですか…?家に人を呼ぶようなタイプではなかったと思うのですが…」
「まあ、いろいろあるんだよ。そんなことより、やるか?」リモコンを差し出す。
しばらくリモコンを眺めてから、自分の状況を鑑みて、結論を出す。
「こういうことは勉強の邪魔になるのでやってこなかったのですが…今日はやってみようと思います」
「そうこなくっちゃ」
雨宮をテレビの前に呼び、2人で並んで座った。俺は初心者でも楽しく遊べるようにレーシングゲームを選んだ。
「このボタンでブレーキ、このボタンでアクセル。そして、こうやってリモコンを傾ければ、曲がることができる」俺は実際に見せながら説明する。
「なるほど、このボタンでブレーキ…このボタンでアクセル…わかりました」
「じゃあ、慣れるように簡単なところからやっていこうか」
「りょ、了解です…」
なにやら不安そうではあるが、とりあえず走らせてみる。
「――結構簡単ですね!」
「そ、そうだな…」
たしかに、雨宮は初心者の割に上手く、上達も早い。しかし…
曲がるときに体ごと傾けてきて、俺の体にたびたび横たわってくる。すると、当たった部分から沸き立つようにふわっと甘い香りが溢れてくるのだ。
さあ、男子諸君。君は、美少女が定期的に無邪気に体を当ててくる、そんなゲームをどう思う?
――答えは神ゲーだ。神ゲー。ゲーム内容じゃなくて、ゲーム外が神ゲーだ。
「――きゃっ!!」雨宮が思いっきり倒れてくる。
ああ、幸せ。もう人生に悔いなんて残らないんじゃないかな。自分の理性の限り、このゲームを遊びつくすことを誓うよ。
「すごく楽しいですね!ゲームとかやったことなかったですが、ハマりそうになっちゃうくらいです!」
「それはよかった」
1つのコースを終えたが、雨宮はどうやら俺の方に倒れてきたことに気が付いていないらしく、純粋に楽しそうだ。
――俺もはまりそうだよ、このゲーム。今まで気が付かなかった魅力に気が付けたよ、ありがとう雨宮。
しかし、なんだか始まった時より距離が近くなっている気がする。もう肩と肩が触れ合いそうだ。この距離はさすがに近すぎじゃないか?
だが、時に人間というものは、あまりに楽しいことがあると、それ以外のことはどうでもよくなってしまう生き物だ。それは、例えば距離で、例えば恥じらいだ。
――ノってきた雨宮はさらに乗ってくる。どうやら、こうあるべき、という自分への我慢が解き放たれたようだ。異常に甘えてくる。異常に。どれくらいかって?まず、あぐらをかいている俺の足の中にすっぽりはまってくる。まずこれだけでも常人ではK.O.される、
しかし入江零。こいつは前にも雨宮にドキッとさせられたことがあるからか、これくらいでは落ちない。鍛え方がやわじゃないのだ。
だが、雨宮の顔はとろけきっていて、それはまるで5歳児くらいだ。まるで天使のような無邪気な顔。そんな顔を俺の方に向けて言ってくるのだ。
「零くん…もう一回やろ?」
零の意識は100光年先に飛ばされてしまった。
たくさんの評価、ブックマーク、本当にありがとうございます!いつも励みにさせていただいてます!
また、感想で小説の書き方について、多少教えていただきました!おかげ様で、自分の中でしっくりしたものが書けてくるようになりました!この場を借りてお礼を言わせていただきます。本当にありがとうございます!
率直な感想でいいので、たくさんの感想をいただけたら、と思います!(欲張りですね…笑)