131話 デート(高宮)その2
131話 デート(高宮)その2
私は幼い頃から体が弱い子供でした。
今は随分と良くなってきたのですが、昔は本当に弱くて外出して日光に少し当たるだけで発熱してしまったり、走るとすぐに心臓が止まりかけてしまったりと、なんとも不便な体でした。
そういうわけですから、お母さまもお父さまも私の体を気遣って色々と良くしてくれたのですが、幼い頃の私は、自分の不自由さに絶望をしていたと思います。
病院のベッドで過ごす日々に苛立ちを持ったり失望したり。自分のことをまるで死人ではないかと嘲っていましたね。
そんなある日、私に外へ出ようと提案した人がいました。私の祖父です。
お爺さまはいつも笑っている人で、朗らかなイメージがありました。戦国武将のような白い髭を揺らしていつも愉快そうにしていたのはとても印象的です。
そのお爺さまが笑って言うんです。『外へ出なきゃ体なんか強くならないに決まっとるだろうがぁ!』と。お父さまに喝を入れるほどの勢いで。
お父さまはお爺さまの性格をよく知っていますから苦笑いで済んでいたのですが、私の場合はそんなものではなかったです。
そんなのは体が強いお爺さまだから言えることで、私みたいに体が弱い人間に言っても逆効果。なのに愉快そうに言ってくるお爺さまに苛立ちを覚えました。
「……お爺さまは体がお強いから、そんなことを言えるのです」
思わず口をついて出た言葉でした。そのように言うのは無責任かもしれませんが、本当に言う気のなかったことなのです。
ですがそんな失礼なことを言った私にお爺さまはこう返しました。
『大丈夫だ! お前もいづれわしのように強くなれる!』
今思えばこれはお爺さまが冗談で言ったこと、あるいは本気で信じていたことなのですが、何故か私はその言葉に勇気づけられました。お爺さまの屈託のない笑みに騙されたのでしょうか。
そういうわけで連れてこられたのがこの神社です。
お爺さまにとっては神社よりも、この階段で体力をつけて欲しかったのでしょうが、私は50段も上れば息が切れてすぐにお爺さまの背中に乗せられていました。
あの温かい背中。頼りになる広さ。安心する匂い。どれもいまだに覚えています。
お爺さまは子守唄を歌いながら平然と階段を上って行きました。
私は途中で眠りこけてしまい、目が覚めた頃にはもう頂上。そこでこの小さな鳥居をくぐったのです。
賽銭箱の前で、神様の御前でお爺さまが何を願っていたのかは分かりません。
もう、それを知るすべも無くなってしまいました。
ですが、私はお爺さまのお陰でかなり体も良くなり、今のように外へ気楽に出られるようになりました。
それがなかったらこんな素敵な巡り合わせにたくさん、ではないですが、本当に大事な仲間たちに出会えませんでした。
互いに切磋琢磨して成長できた中学の3年間。
そしてその3年間の頑張りをあろうことか簡単に踏み潰してしまうほどの人にも出会ってしまいました。
入江零さん。
ずっと憧れであり、そして。
ずっと好きでした。
ーー私と付き合ってくださいませんか。




