130話 デート(高宮)その1
石の階段が登る先にいつまでも続いていて、零は途方に暮れていた。
「ほら、零さん。もうちょっとですよ。頑張ってください」
「もうちょっとですって、お前からは前が見えてねえだろうがぁ! つーかその御輿みたいなやつから早く降りろ!」
「あらあら、レディーに対してこんな辛いことをしろとおっしゃるんですか?」
「辛いことだと分かってるだけでもう十分だ。今度覚えとけよ」
ぶつぶつと文句を言いながらもきちんと登っているのを見て、高宮から思わず笑みが溢れる。そしてそれがまた零の怒りを買い憎まれ口を叩く。
「大体なんでここを選ぶんだよ。もっと手ごろな神社とかあっただろ」
「神田明神の方がオタクの零さんにとっては良いのかなと思いましたが、最近行ったばかりでしたので違う神社にさせていただきました」
「むっ、たしかに神田明神の方が良かったかもしれんな。まあそちらはまた今度行くことにしよう」
相変わらずのオタクっぷりであるが、もう高宮も慣れてきたもので苦笑いで済んでいた。
ただ本気で行きたそうにしている零を見て、心配にもなるが。
「……零さんは、らいばーの方なのですか?」
ふと聞いたことのある単語を思い出して聞いてみると、零の目の色が変わった。
「俺がライバーと言うのは、それはライバーの方々に失礼だ。あの人たちはまだアニメ化もしていない初期という初期の頃から応援していて、大変だった初めの頃を声優さん達と一緒に支えていった存在なのだ。そんな方々に比べたら、俺はただのオタクでしかないのだ」
「そ、そうでしたか……」
「ぜひともファイナルライブに行きたかった。それが唯一の心残りと言ってもいいかもしれない。最後の感動を俺もあの会場で一緒に味わいたかった。ただ、今年は復活するらしいから絶対に見に行く」
「ど、どうぞ……」
先ほどまであれだけ文句を垂れて疲れたと言っていたのに、自分の好きな話題になると急に元気を取り戻して喋るあたり、オタクは馬鹿にできない。まあそもそも零の体力を考えれば、いくら階段が長いとはいえ軽々と登れるのだが。
「おい、そろそろ頂上だぞ。お前もそれから降りろ」
「ええ、そのようですね」
ありがとうございましたと言って、乗せてきてくれた側付きの人に礼を言ってから御輿から降りる。
改めて見ても異様な光景なのだが、零もつっこむことより階段を登り切る方を優先する。
「もうここまで来ると軽い山だな」
「そうですね。周りには自然がいっぱいありますし」
1000段以上あろうかという階段を登り終え、2人は鳥居の前に立つ。
「これはなんというか……質素、だな」
そこにあったのは、小さな石の鳥居。赤色に装飾されることすらなく、ひっそりと立っていた。
「高宮が行きたいというから、もう少し豪華なものかと思ってたが」
「そうですね。久しぶりに見ましたが、以前見た時よりもさらに風化してしまっている気がしますね」
懐かしそうに鳥居や賽銭箱を触りながら呟く高宮。不思議と寂しそうな感じはせず、むしろ楽しそうですらあった。
「前に来たことがあったのか?」
「そうですね。以前に何度か」
普段は体が弱いということでおとなしめの行動をしていた高宮が、ここに来て元気が出ているように見えた。
「ここはですね……。お爺さまとの思い出の場所なんです」
ここからは幼き日の高宮の話。高宮玲奈の話。




