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デート(大宮)その3

 借り物競走の後の日程はつつがなく消化されていった。


 クラス対抗リレーでは教員のチームに大宮が混ざって走り、姉妹で熱戦を繰り広げ一番の盛り上がりを見せるなど、大宮は大活躍だった。


「いやー、楽しかったねー!」


 日も暮れてきて、中学生たちがテントを片したりグラウンドの整備をしたりなど運動会の片付けをしている様子を、零と大宮はぼんやりと眺めていた。


 んーっ、と背伸びをしている大宮からは、疲れが見えているが、それ以上にもう少し運動したかったように見えた。


「なんだ、まだ動き足りないのか?」

「あはは……まあそうとも言う」

「今回は戦うというよりは楽しむというものだからな。日頃から勝負の世界に置いている大宮では物足りないのも無理はない」

「そんなんじゃないと思うけど……」


 こういうのは理屈ではないのだ、と大宮は思ったが、零の自分への評価が思ったよりも嬉しいものだったので言わなかった。


「そういえば、なんで妹の体育祭に俺を連れてきたんだ? 家族と見に来た方が楽しいだろうに」


 思いついたように零が大宮に尋ねると、彼女はぽかんと呆けたような顔をする。


「……そういえば、なんでだろ。デートっていうならもうちょっと雰囲気のあるところに行けばいいのにね」


 自嘲気味に言ったあと、でも、と続ける。


「たぶん零くんとはそういうのになりたいんじゃないんだ。2人で歩き回るのも楽しいけど、こうして2人でのんびりするのが好きなんだ」


 その言葉は零にとって意外なことのように思われた。


 普段から活発で動くのが好きな大宮が、ゆったりしているのが好きと言うのが。


 そんなことを言うと、大宮は恥ずかしそうにはにかみながら、


「いやまあ、意外って思われるのも分かるし、自分でもこんなことあるんだ、って感じなんだけど」


 それでも真剣な顔つきで


「こんな気持ちになるの、零くんだけだよ」


 と言い放つ。そして、


「だから零くんーーわたしと付き合ってください」


 顔を真っ赤にしながらも、真っ直ぐ零を見て。


 決定的な言葉を口にした。


 だから、零も逃げない。大宮の好意を正面から受け止めて、


「ーー悪い、大宮」


 そして答えを出す。


「ーーうん……」


 震えるような声で、絞り出すように大宮は返

 事をする。


 そしてから俯いてから、嗚咽が漏れた。




「わたしね、アメリカに行こうと思ってるの」

「え?」


 それからしばらくして、大宮が落ち着きを取り戻したところでこんなことを口にした。


 目の周りはまだ腫れており、ところどころ髪が汗で濡れてしまっているが、それが妙に色っぽい。


 その大宮が遠い目をして、ぼんやりと呟いた。


「アメリカってやっぱ広いから、たくさん練習場もあって施設も良くて。実はアメリカの大学から声をかけてもらってたりするんだ」

「それは……凄いじゃないか」


 先ほどの告白の一件で気を遣っている零が言葉を慎重に選んで発するが、それがまた大宮にとっては辛かった。


 だからそんな遠慮をさせないように理由を付ける。


「いや、別に零くんのこととは無関係だよ? 元から行こうかなと思ってて!」


 ただどうしても空元気だということが分かってしまい、零は返事に窮する。


 ただ、一つ疑問になることがあった。


「あの、一ついいか?」

「うん? なに?」

「アメリカに行くんだったら……なんでこのタイミングで、その……あんなこと言ったんだ?」


 アメリカに行くのだったらここで告白する意味は薄い。零が大宮に恋心を抱いていなかったのは大宮にも分かっていたはずである。


 なのにこのタイミングで、この時期で告白する意味。


「なんだろう……たしかにどうしてだろうね。こんなタイミングで言わなくてもいいのにね……。ーーでも、ここで言わないって選択肢は初めからなかったかな」


 思案したあと、自分で納得するように頷きながら口にする大宮。


「ここで言わなかったらそのままなあなあな関係になるし、後悔するとも思った。あとは……焦りと欲、かな」


 詳しいことを零は聞かなかった。自分には聞く資格もないし、話すだけ大宮には悲しい思いをさせるだけだと思ったから。


 ーー夕暮れの中、大宮飛鳥は人生で初めての失恋をした。

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