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123話 学校の放課後で

 一方、雨宮たちの方では、放課後になったところで4人で集まっていた。


 号令をかけたのは高宮。


「今日集まってもらったのは他でもありません。ニーナさんのことです」


 教室で机を4つくっつけたところで、高宮が姿勢を良くしてから話す。


 そのまま話し続ける前に、大宮が質問。


「はーい。それって今日、零くんが学校休んだことと関係があったりする?」

「はい、おそらく関係あるでしょう」


 その言葉で大宮はもちろん、他の二人にも緊張感が強まる。


 雨宮はニーナのことを元から不審に思っていたし、音宮も今日零が休んだことはとても意外なことだった。あの零がまさか病欠であるはずはない。


 彼女たちの様子を少し俯瞰的に見ていた高宮は、上々だと思うと本題に入る。


「実は、零さんはアメリカに来ないか、とニーナに誘われています」

「えっ……!」


 思わず声を漏らしてしまったのは雨宮。心の準備はしていたが、全く想像していなかったことに驚きを隠せなかった。


「それって……ずっとってことだよね?」

「はい。アメリカで働かないか、と言われています」


 自分で質問をしながら絶句する音宮。


「えっと、うん? よく分からないから、もう少し説明してほしいな」


 大宮も状況を受け止め切れていないのか、混乱気味だ。


「分かりました。詳しく説明させていただきます」


 それから高宮は今回あったことを時系列順に話し、そこからニーナが零に言ったことを具体的に説明した。


 高校卒業後、零はニーナの父親の下で働くこと。ニーナの父親のこと。行く時には美月が付いていくこと。それに……高宮だけ同伴すること。


 ただ、具体的なことを言ってもどうやら現実感はないようで、高宮以外の3人は内容が頭に入ってきても理解できていない、という状況だった。


「わたしたちは……どうすればいいの?」

「それどころか、何かできるのかな〜……」


 今回の話に途方のなさを感じて、すっかり精も根も尽き果ててしまう大宮と音宮。


 雨宮も、今回の話が決定事項のように思えて、どこか諦めが見える。


「止める権利なんてありませんもんね……。零くん自身にとっても良い話ですし、美月さんのことを考えたら断る理由なんて……」


 項垂れる3人に対して、だがしかし、高宮は次のように言った。


「みなさんに集まってもらったのは、こうして零さんがアメリカに行くという報告をするだけではありません」


 3人は、更なる悪い知らせだと思って悲観的になったが、高宮は「みなさん、顔をあげて下さい」と言う。


 雨宮たちが自然と下がっていた目線を上げると、そこには彼女たちがよく知っている悪いことを企んでいる少女の顔があった。


 そして、口角をやや上げると、


「私たち4人、零さんとデートをしませんか?」


 と言った。




「デート?」

「はい、デートです」


 何故だか喜色に満ちた高宮に、3人は顔を見合わせて、それから、


「「「デート?」」」


 ともう一回。


「はいはい。デートです。デートですよ」


 何故だか嬉しそうな高宮に、雨宮が質問する。


「どうしてこのタイミングで、で、デートですか?」


 デートという言葉を言うのにいまだ慣れない雨宮に対し、高宮は即答する。


「むしろこのタイミングしかないじゃないですか。零さんがアメリカに行ってしまう前の、このタイミングしか」


 そう言われたらそうなのかもしれないが、でもこのタイミングでやることではないようにも思える。


 だがしかし、高宮はそんな雨宮の心を読むように続ける。


「いいんですか? このまま行ったら私だけが零さんの隣にいるわけですから、もう私と零さんが付き合うのも時間の問題ですよ」

「「ーーっ!」」


 雨宮と大宮がその言葉に反応。


「アメリカという異邦の地で私と零さんは毎日のように遊ぶのです。西海岸に行ってみたり、一緒にブロードウェイを観たり」


 ぎりぎり、と歯軋りが聞こえそうなほどに、雨宮と大宮の2人の交感神経を刺激する。


「時にはニューヨークの夜景を見ながらお酒を酌み交わすのでしょうね。その後あんなことやこんなことを……」

「あーもーいい! やってやろうじゃないの、デート!」

「や、やりましょう、玲奈さん!」


 簡単に挑発に乗った。


 だが2人とも分かっている。


 この中で1番負けず嫌いなのは高宮だ。


 意気消沈している彼女達を傍目に置いてアメリカに行けば、零と付き合える可能性が格段に上がるのに、わざわざ雨宮と大宮を土俵に引きずり出してくるのだから。


 そして同時にそれが、雨宮達への最大の敬意を示してもいる。


 だからこそ、このデートは引き下がることができない。


「はい、では決まりですね」

「あの〜……」


 とそこへ、おずおずと音宮が手を上げた。


「どうしましたか、沙彩さん?」

「私もその、零っちとデートをしても、よろしいのか〜?」

「えっ」「おっ」「あら」


 雨宮、大宮、高宮が意外そうに口を開ける。


 音宮も立候補したことが恥ずかしいのか、しどろもどろなく口調で言い訳みたく返事をする。


「せ、せっかくだし、零っちとも思い出を残しておきたいな~って……。ほ、ほら、もうすぐいなくなっちゃうわけだしさ?」

「どうして疑問形なんですか……」


 雨宮が冷静に半眼でツッコミを入れるが、音宮は「ほんとなんだって~」と嘆いている。


「まあ、いいじゃないですか。零さんに色目を使ったりなんてことはないのでしょう? 沙彩さん?」

「ここでちゃんと釘をさしてくるあたりがれいちゃんだよね……。大丈夫だって~」

「というか、もし零くんがアメリカに行くとしても卒業なんだから、その時期にすればいいのに」

「その時期に零っちに彼女が居たら、2人きりで遊びに行くとか無理でしょ~! れいちゃんが彼女とかだったらまず許されないし」


 たしかに、と大宮も納得する。


「じゃあ細かな計画を練りましょうか」


 かくして、夏休みの初めに4人がそれぞれデートをすることに決まったのだ。


 ーー零の意思とは無関係に。

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[一言] 誤字報告 どうしてるこのタイミングで→どうしてこのタイミングで 雨宮、大宮、音宮が意外そうに口を開ける。 → 雨宮、大宮、高宮が意外そうに口を開ける。
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