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114話 邂逅

「すみません、遅れました!」

「おそいぞー!」


 大宮が手を振って雨宮と高宮を呼ぶ。


 元から体の弱い高宮はさすがに無理して疲れているようだった。


「ふぅ……。とても……疲れましたね」


 高宮が零に目で呼びかけている。


「……なんだ?」

「疲れました」

「そうか、これからが本番だ。頑張ろう」

「私はもう走れません。ですが、参加はしたいです」

「何をしろと?」

「私を背負ってください。おんぶです、おんぶ」


 いつも以上に甘えてくる高宮に零は眉をひそめる。


「どうした、どっかで頭でも打ったか?」

「いえ、特に」


 実際には、高宮は雨宮を奮起させることができて嬉しい気持ちと、雨宮に零を取られる危機感から牽制しているだけだったのだが、無論零にそんなことが分かるはずもなかった。


「京華ちゃん、大丈夫?」

「ええ、おかげさまで、大丈夫です! 早く行きましょう! 出遅れている分を取り戻さないと!」

「こっちもこっちでおかしいな〜」

「待てさーちゃん、君はもう少しテンションを上げたまえ!」


 音宮は雨宮の変化に疑問を感じたが、大宮は「それより行くぞー!」と張り切っていているので取り付く島もない。


 そのままのテンションで向かった零たち一行は、もちろんウォークラリーでも3年生のトップに立っていた。




 遠足の日程をほぼ消化し、みんなが寝静まった1日目の夜。


 私はロッジを離れ、外のベンチに座っていた。


 少し夜風に当たりたかった、というのは建前。


 本当は外で一人テントを張って寝ているであろう零くんの様子を見に行きたかったのだが、テントの前まで行ってから何をしているのか気付き逃げてきたのである。


 ーー女子が男子の寝床に行くなんて……。


 とはいえ臆病だった面もあるので少しショックを受け、そのままだと戻ってから飛鳥や沙彩にからかわれそうだったので一旦落ち着いているというわけである。


 少し薄着で来てしまったせいもあり肌寒くなってきたため自動販売機で温かいものを買おうと思い立ったところ、目の前に1人の女の子が立っていた。


 飛鳥だ。


「ほら、これ要る?」


 飛鳥は温かいココアを差し出してきた。自分の分のおしるこも持っているから、わざわざ私のために買ってきてくれたのだろう。


「はい。ありがとうございます」


 そのまま二人でもともと座っていたベンチに横並びになる。


 お互い缶のプルトップを開けて口を付ける。飛鳥はおしるこを選んだようだ。


「ふぅ、ふぅ」


 飛鳥は猫舌なので冷ましている。なんだかかわいらしい仕草だった。


 飛鳥はもう一度口を付けてから、間をおいて言ってきた。


「で、京華ちゃんは零くんのところに行ってきたの?」

「えっ‼」


 思わず大きな声を出してしまったので私は咄嗟に手で口をふさぐ。


「い、いきなりなんですか⁉」

「その反応はやっぱり当たりみたいだね!」

「……会えてはいません。途中で逃げてしまいました」


 私が渋々白状をすると飛鳥はくすくすと笑う。


「もうっ! 飛鳥なんて知りません!」

「ごめんごめん。あまりにも京華ちゃんが可愛くって」

「ふんっ」


 ひどい。私が勇気をもっていったのに笑うなんて。たしかに笑いごとだって分かってるけど、そんなに笑わなくても!


「そういう飛鳥は何してたんですか?」


 これ以上からかわれても面白くないので質問をし返すと、飛鳥は急に白く輝いていた歯をしまう。


「私も……零くんに会いに来たんだよ」

「えっ……」


 零くんに会いに来たということより、急に真面目な顔になったことに驚いた。いつもの飛鳥なら笑って言うところだと思ったのだ。


「ほら、私もれいにゃんから今回のこと聞いたんだよ。京華ちゃんが零くんに何を聞いたのか。京華ちゃんが自分自身の心を自覚したこととか」


 私は申し訳なくなった。ということは私が零くんに飛鳥のことをどう思っているか質問して零くんがどう答えたのか知っているということだ。


「ああ、いいの。別に私も零くんが私のことを普通の友達としてしか見ていないことくらいわかってたから」


 そう言いながら、飛鳥の顔は浮かない。気のせいかいつもの元気もない。


「それでも、やっぱりそういう対象としては見られてないんだなーって思ったらちょっとショック受けちゃって」


 多分私がいない間に玲奈さんから聞いたんだ。沙彩も一緒に。


「だからこの遠足の間にちょっとでも距離を近づけようかなーと思って、それで会いに行こうとしたら京華ちゃんを見つけたってわけ」


 つまり、飛鳥はなかなか零くんとの仲が進展しない現状に危機感を覚えて行動を起こしたというわけだ。


 でも、私には飛鳥がそんなに焦る理由が分からなかった。


 だって。


「飛鳥と零くんは十分仲がいいと思いますよ」


 そうだ。飛鳥は私の知らない零くんの表情をいっぱい引き出している。真剣な顔や笑う顔。


「そんなことを言ったら私なんていつも遊ばれているだけで、下に見られているというわけではないんですけど、どこか遊ばれているという感じで、恋愛って感じじゃないですから……」


 言っていて悲しくなる。それでもこれは伝えなきゃいけないと思った。飛鳥の為に。


 私の言葉を聞いた飛鳥は驚きの表情を見せている。思いもよらない見方だったのかもしれない。それとも。


「……京華ちゃんからそんなことを言われると思わなかったな。一番仲がいい京華ちゃんから……」


 そうしていったん目を伏せたは、もう一度顔を上げた。心なしかその眼には水気があるように見えた。


「やっぱ京華ちゃんには敵わないなー。うん」

「え、何を言ってるんですか飛鳥。今さっき言ったじゃないですか飛鳥の方が」

「こんな純粋な心を持った京華ちゃんに勝つなんて、本当に難しすぎるよ……」


 飛鳥が何を言っているのか分からなかった。それでも、否定してはならない気がした。


 だから、代わりに。


「負けませんから。負けたくないです。いくら相手が飛鳥でも」


 だけど、と続ける。


「飛鳥がもし零くんと付き合ったらすごい応援します。なので、私が付き合えたらいっぱい応援してください!」


 精いっぱい笑って、私は飛鳥にそう言った。


 そうだ、決して飛鳥や玲奈さん、沙彩と敵対したいわけじゃないんだ。大好きな友達と戦いたいわけじゃないんだ。


 私の言葉が正しく伝わったようで、飛鳥も落ち込んでいた顔に笑顔を取り戻し、


「負けないんだから!」


 と言って私と目を合わせて、その後笑いあった。

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