111話 思わぬ機会
11時過ぎに目的地へ着いた私たちは、一旦荷物を整理してから飯盒炊爨をすべく集まっていた。
余談だけど、寝床は部屋の数の都合から男女で別になっていて、女子はロッジの中に、男子はテントを建てて寝ることになっている。
Sクラスも当然そのようになっており、私たち女子4人は同じ部屋で寝るが、零くんは1人でテントである。
さすがに建てるのは先生が手伝ってくれるそうだけど…夜に友達と話すのはこういう行事の大きな楽しみの一つのはずだから、かわいそう。
私たちのところに来ればいいのになぁ……って何考えてるのっ⁉ 駄目駄目、男子と女子なんだから!
「はぁ……」
「お疲れ様です、零くん」
「ああ、もう疲れた」
先程テントを建設してきたようで、早くも零くんの顔には疲れが見える。汗をかいていないからそこまで本当に疲れているわけではないだろうが、精神的に疲れているに違いない。
「零さん、何を言っているんですか。ここからが本番ですよ」
玲奈さんが励ましに零くんの元へ声をかける。
玲奈さんも零くんの疲労が心からくるもので、体からくるものではないと分かっているのだろう。
「こらー、零くん! もう音を上げるとはどういうことだー!」
同じく零くんのところへ駆け寄るのは飛鳥だ。
同じくと言っても、彼女は励ますというよりは叱っているが。
「いや〜あすっち…。それ疲れてる時にやられると余計疲れるやつ……」
遅れてくること沙彩が辿り着いた。彼女はもう本気で疲れているようで、布団に包まれたいと顔に書いてある。
「いいのだー! 沙彩ちゃんはともかく、零くんはまだやれるー!」
「わたしはもう諦められたのか……」
「俺もギブアップしたいんだけど」
がくっと倒れそうな沙彩を零くんが片手で支えながら、零くんが静かにフェードアウトしようとする。
だが、それをしようと足を一歩踏み出したところで、
「零さん? どこへ行かれるのですか?」
と、先に釘を刺されてしまっていた。
「い、いや、ちょっとトイレでも」
「トイレでしたら逆側ですよ? 案内いたしましょうか?」
「うっ……」
零くんにしてはお粗末な言い訳を即座に論破する玲奈さん。さすがとしか言いようがない。
退路を塞がれてしょんぼりと戻ってくる零くん。
「じゃあ、役割分担をしよっか!」
そんな零くんとは対照的にやる気に満ち溢れている飛鳥が提案する。
「役割分担って具体的に何が必要なの~?」
「そうだねー。今回作るのはカレーだから、火を見るのが一人、野菜やお肉を切るのに2人、それに野菜やお米を洗うのに二人。こんな感じでどうかな?」
こういう行事に慣れているのか、飛鳥がテキパキと役割と人数を決める。
「じゃあわたしは火を見るね~」
沙彩は役割を聞くや否やすぐに一番楽そうな火の仕事を取って逃げていく。あとの片づけはうんと手伝ってもらおう。
それはともかく、このメンバーで二つに分かれる。そうなれば……。
「じゃ、じゃあ!」
「では私と飛鳥さんで洗う方をしましょう。切る方は料理に慣れている京華さんと、力のある零さんでやってもらった方がいいでしょうし」
私が提案をする前に、玲奈さんがきっぱりと言った。
「京華さんもそれでいいですね?」
そして私にこう聞いてきた。
それはこっちが聞きたいことなのに……。
そう聞きたい気持ちはあったが、決まったことを無理して変える必要性もなかったので口には出さなかった。
いま私は零くんと二人でまな板に向かっている。
てっきり零くんは料理が出来なくて私が教える形になると思っていたが、零くんは普通に、というか普通以上に料理が出来ている。
包丁を慣れた手つきで扱って、にんじんや玉ねぎを素早く切っていく。
だから私はすごい困っていた。
――何を話せばいいんだー!
零くんは私のこんな困惑にも気づかない様子で次々と野菜を捌いている。さすが零くん、ひどい。
こんな人のどこがいいんだか! もっと優しい男の子だったらここで気を利かせて話題を振ってくれるものでしょう⁉
全く飛鳥も玲奈さんも物好きだ。
本当に。
「――おい、手が止まってるぞ。ちゃんと仕事しろ」
ほら、これだよ! 酷くない⁉
まったく、もう……。
……。
「零くんって好きな人はいるんですか?」
気付いたら私はこんなことを聞いていた。




