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109話 雨宮の中の無意識の葛藤

 その日からすぐに玲奈さんと玲くんを恋仲に発展させる手伝いをすることに……とはならなかった。


 玲奈さんもそこまで積極的にアピールすることを逆効果と考えたのか、はたまた人目を気にしたのかは分からないけど、とりあえず今までと同じように接してくださいということだったので、何もする必要はなかった。


 だけど……どうしても意識してしまい、2人のことをちらちらと見てしまう。


 それと同時にどこかもやもやするところがあった。


 これは今に始まったことでもないのだけど、零くんが飛鳥や玲奈さん、それに沙彩と楽しげにしているとそういう気分になる。


 なぜだろう、零くんが笑っていることは嬉しいはずなのに。


「……雨宮、どうかしたのか? 体調不良か?」

「い、いえっ! なんでもっ!」


 とそこへ、不安な、というよりは不審な顔をした零くんが私に声をかけてきたので、びっくりして素っ頓狂な声をあげてしまった。


 さすがにちょっと恥ずかしい。


 それにしても……体調不良、なんてさすが零くん。人の心の機微を掴むのは苦手みたい。というか、鈍感?


 そういうところが零くんらしくていいのだけど。


「なによー京華ちゃんー! らしくないぞー⁉︎」


 そこへ飛鳥が乱入。頬をこねくりまわすのはやめて。


 それでも温かい。気遣ってくれているのだと思うと、ありがたい。


 と、同時に気付いてしまう。


 飛鳥も零くんのことが好きなはず。


 つまり私が玲奈さんを応援するということは、飛鳥と敵対するということだ。


 ふっと、罪悪感が心の内に湧いた。


 何も飛鳥は悪いことをしていないのに、戦ってしまうことに。


「……」


 玲奈さんと話をしておかなければならない、そう強く感じた。


 そうだ。飛鳥と敵対することは避けたい、そう思うのは()()()()()ことのはず、だから。




「玲奈さん」


 前回とは違い、今度は私から玲奈さんの部屋を訪ねた。まあ、同じように夜遅くにお邪魔したのだけど。


「それで何ですか、お話とは」


 言われるがままに席に着いた私は、玲奈さんからの質問に正面から答えることにした。


「この前言った、玲奈さんと零くんが、こ、恋仲になるのにあたってお手伝いをするという件ですが、水に流しては頂けないでしょうか?」


 未だに恋仲という言葉にどもらせてしまう私を子供だと微笑ましそうに見る玲奈さんの表情が曇った。


「それは……京華さん応援したくない、ということでしょうか?」

「そ、それは、ち、違います! そうじゃないんです!」


 玲奈さんの懸念は違う、と私は強く否定した。いや、しなければならないと思った。


「では、どうして……」


 どうして、と言いながら疑問の表情よりも悲しげな表情を浮かべる玲奈さん。それだけ零くんのことを想っているのだと思うと、無責任な罪悪感が玲奈さんに対して生まれてしまう。


 だが、それでも。


「決して玲奈さんの恋路を邪魔するつもりはありません。……ただ、私としては」

「私としては?」


 どうにも心が逸っているのか、玲奈さんは食い気味に尋ねてくる。


 だから、私は自分の心を落ち着かせるために一拍おいて、静かに言葉の続きを発する。


「同じように零くんに恋愛感情を抱いている飛鳥に……飛鳥に対して卑怯になってしまう。そのことが嫌なんです」


 そうだ。飛鳥は私を頼らないだけで、本当は零くんのことを玲奈さんと同じように強く想っているはず。


 玲奈さんのことを卑怯というつもりは決してない。ただ、私が玲奈さんに加担してしまうのはどことなくアンフェアな気がしてしまうのだ。


 だから、私は不干渉を貫きたい。そう思っての発現だったのだが。


「……そうですか。あくまで飛鳥さんのため、とおっしゃるのですね……」


 なにやら独り言をつぶやいて考え込むように俯くと、やがて姿勢を正してこっちをじっと見詰める。


「それならば、問題ありません。私としても飛鳥さんを蹴落としたいわけではありませんから。京華さんの中で私に塩を送りすぎていると思うなら、飛鳥さんの方にもフォローを入れてくだされば問題ありません」


 玲奈さんの返事は私にとってかなり意外なものだった。


 玲奈さんなら私に頼むのを諦める、つまり協力関係をなかったことにすると思ったのに……。


 ふと玲奈さんの方を見ると、その純粋な目に私は咄嗟に目を逸らしてしまった。何か後ろめたいことでもあるように……。何かを見透かされているかのように。


「そ、それなら……確かにそれでもいいですね」


 それでも玲奈さんの意見には賛成した。


 玲奈さんに肩入れしすぎている、と自分で感じたら同じくらい飛鳥にもフォローを入れてあげればいい。それなら罪悪感を感じずに済む、というのは合理的な意見だ。断る理由もない。


 そうは納得していても、どこかで満足していない自分がいた。

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