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107話 雨宮の様子が…?

 4月と言えば新緑の季節と言うのが、日本人には馴染みが深い。


 花粉で有名な「アイツ」や、七草粥として有名な春の七草なんかがあり、そのためか4月から5月にかけて遠足に行くところが多い。


「さあ! 5月は遠足です! 遠足と言いつつ1泊しますが、それでも遠足です!」


 昨年の修学旅行に引き続き、生徒の誰よりも盛り上がってテンションが高くなってしまっているのは、零たちの担任である三日月だ。


「いや、先生の言うとおり! 修学旅行の代わりとかなんとか言われてるけど、楽しまなきゃもったいない! ほら、零くんたちももっとテンション上げてこっ!」


 今にも虫取り網と麦わら帽子を被って飛び出しそうな調子の大宮。三日月に負けず劣らずの高揚に、零を始め他のクラスメイトは苦笑いをするしかない。


 なぜなら、


「まだ半月以上あるんだが…。盛り上がるにしても早くないか?」


 ということである。


「何を言ってるのだね、零くん! 高校生なんだからそんなやる気がなくて大丈夫か!」

「高校生だから、むしろもう少し落ち着きを持ってほしいんだよ…」


 零自身も、楽しみではないわけではなかった。


 今回の遠足は林間学校のような様相を呈していて、夜の肝試しや飯盒炊爨などの体験したことのないイベントが多いからだ。


 美月はその間、修学旅行に行っていて会えないのがたまに傷ではあるが(美月もおそらく同じことを考えている)、総合的には楽しみなイベントが沢山ある。


「ま〜、私はれーちゃんが変なことしないことを祈るだけだな〜」


 音宮が遠回しに高宮へ釘を刺すが、本人はいつものような微笑みを顔に貼り付けて、


「大丈夫です。変なことは、特に何もしませんから」


 変なことは、にアクセントがあるような錯覚を全員が感じていたが、有無を言わせない高宮の圧力に誰も何も言わなかった。


「それはともかく、授業が始まりますから準備しましょう」


 いつもより大人しかった雨宮を零は不審に思ったが、この場では口に出さなかった。




 新しく1年生が入ってきたこともあり、その目新しさゆえか多くの生徒が食堂に集まってきていた。


「この時期は使いづらいな。寮の方に言って弁当を作ってもらったほうが良いかもな」

「違いますよ、このような雰囲気が楽しいんじゃありませんか」


 零たちがいつものように5人で食堂へやってくると注目を浴びてしまう。


 そこを零は指摘したのだが、高宮にはこの賑やかな空気のことだと思われたらしい。


 ーーと言うのは建前で、実際に食堂を利用した理由は「零にはこんなレベルの高い取り巻きがいるんだぞ」的なことを下級生に示しておきたかったところにある。


 もちろんこれだけでは零を狙う女子は無くならないが、多少の抑止力になると踏んで高宮と大宮が画策したのだ。


「じゃあ私が先に席とっておくから、あすっちたちは先にごはん頼んできな〜」


 音宮に促されて4人は食券を買いに向かった。



 やがて音宮が自分の分の食事を持ってくるのを待って、それぞれが食事にありつく。


「それにしても、遠足で長野とは豪華だよね〜」

「5月の始めならちょうど涼しそうだし最高だねっ!」


 遠足トークで盛り上がる中、どうも雨宮は浮かない顔をしている。何か迷いがあるような顔。


 何を迷っているのかまでは分からないが、どうにももやもやしているようで現に食事の手が止まっている。


「雨宮、どうかしたのか? 体調不良か?」

「い、いえっ! なんでもっ」


 零に言われて自分が呆けていたのに気が付いたのか、びくっと体を震わせる。


 だが、体調が悪いようでもないので、それ以上は雨宮の問題だろう。


「なによー京華ちゃんー! らしくないぞー⁉」


 俯く雨宮に大宮がウザ絡みをしていたので、一先ずは大丈夫だ。


 一先ずは。




 コンコン。


 夜も深くなろうとしている時間帯に、部屋の扉が鳴らされる。


 雨宮としても、もう就寝しようとしていた時間だったので手早く済ませようと小走りに出る。


「はい、どちらさまですかって……えっ⁉ どうしたんですか…」


 玄関の前に立っていたその人は、


「玲奈さん」


 高宮だった。

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