106話 3年生。スタート
私立霞北学園。
各学年AクラスからDクラスに40人ずつ、計160人にSクラスの5人を足した165人が在籍している。
指導方針は完全な実力主義で、Sクラスに入れば待遇も破格のものとなり、専用の寮までついてくる。
そのため各生徒はSクラスを目指して、より上のクラスを目指して勉学に励む。
そんな中でも、毎年3年生は受験生ということもあり一層気合と張りつめた空気が増すのが例年。
もちろんこれは今年もその例から漏れないが。
今年の3年生は別格の人間が5人もいるせいで、肝心のSクラスだけその毎年恒例の空気がなかった。
「それでは、今年も1年間よろしくお願いします~。担任の三日月紅葉です。気を抜かずに頑張りましょうね~」
去年に引き続きSクラスを担任する教師の三日月。140センチあるのかどうかも怪しい、背の小さい零たちの担任は4月の始まりだというのにいつもの緩い挨拶をした。
「はい、私はとても嬉しいですよ~。またこのメンバーで教鞭をとることが出来て。と言っても教えられることなんて何もないんですけどね」
いきなり諦めている三日月だが、てへっと可愛げに舌を出している幼女のような面立ちに、零たちのツッコむ気力は削がれた。
「じゃあ一応、年度の始めですし自己紹介をしてもらいましょうかね。じゃあ零ちゃんから」
零ちゃん、という呼び方に怪訝そうな顔を示しながら零は気だるげに立ち上がる。
「入江零です。1年間よろしくお願いします」
ひゅーひゅー、と大宮や音宮が冷やかしてくるのを睨みつけると、彼女たちは零が反応したことを喜んでもっと盛り上がっていた。
そんな彼女たちを呆れながらに見ながら零の隣の女生徒が立ち上がる。
「では次に私ですね。雨宮京華です。今年も1年よろしくお願いします」
品行方正な所作にすらっと伸びる黒い長髪。目尻が少し上がっているところに威圧感を感じるが美人の代表格と言っても良い程の顔立ちだろう。
「よっ! 生徒会長!」
「飛鳥、いい加減にしないと怒りますよ」
きりっと雨宮が睨むと、ピンクの髪をした女の子は引っ込む。だが、彼女が言ったように雨宮はこの霞北学園で生徒会長を務めている。
「相変わらず飛鳥さんは元気がいいですね」
大人びた口調で淑やかに話した彼女は、物音を立てることなく立ち上がる。
「私は高宮玲奈です。今年もよろしくお願いしますね」
そう言うと高宮は零の方ににっこりと微笑みを向ける。
零にはその視線だけで、この1年が波乱にまみれるだろうことが簡単に分かってしまう。何とも悲しい現実である。
「はい、じゃあわたし! 大宮飛鳥です! 3年生も1年、よろしく!」
その視線の間に割り込むように挙手をしながら元気よく椅子から立ち上がるピンク髪の女生徒。
ショートの髪と学校の規定よりかなり短いスカートからすらっと伸びる細くて筋肉質な脚。
その朗らかな性格から多くの生徒に人気があり、零と同じかそれ以上にモテている。
そんなモテる彼女が。
「ふふ、飛鳥さん。1年間よろしくお願いしますね」
「れいにゃん、よろしく!」
お互い笑っているが、笑っていない。前者が顔で、後者が目。
そう、彼女たちは零を狙う上での恋敵。
友達同士なので露骨な足の引っ張り合いはないが、適度にけん制しあっている。
「ちょっと、2人とも何やってるんですか!」
火花を散らしている二人を雨宮が何とか抑えるが、「れいにゃんって言わないでください…」「ぐぬぬ、このれいにゃんめ…」などと言っており落ち着かない。
零としては自分を取り合っているという状況にとても気まずさを感じているのだが、いかんせんどうすることもできないので窓の外を見ている。
「まあ、じゃあ2人が争っている間に~。音宮沙彩です~。よろしく~。あと、零っちがんば~」
最後に自己紹介したのは音宮は芸術家の家系に生まれた天才。
数多ある音楽、絵画、その他もろもろの賞を総なめにしている。
瑠璃色のセミロングの髪の毛をなびかせているが、性格はずぼらの一言に尽きるほど大雑把。
天才というのはどの時代も分からないものである。
「そ、それでは、この1年、このメンバーで頑張りましょうね!」
苦笑い気味に三日月が締めた。
大波乱の1年。開幕。
投稿が遅れてしまいすみませんでした。
これからこの作品の終わりまでよろしくお願いします!




