100話 決闘開始
「では、そろそろ準備は良いですかね」
席に着いて姿勢を正している零と美月を見て高宮は進行を始める。
「今回は様々な事情を考慮して室内での対決とさせていただきます。あらかじめご了承ください」
二人は淡々と高宮からされる説明を相槌を打ちながら丁寧に一言一句聞き逃さないように聞く。まるでルールの穴を探すように、そしてその穴を塞ごうとするために。
「そして肝心な対決の内容ですが…」
そういって高宮が出したのは分厚い2つのプリント群。両手に持って零と美月に見えるように胸の位置まで持ってくる。
「それは?」
零が説明を促すと、その言葉を待っていたかのように説明を再開する。
「これはこれからお二人に解いていただく問題です」
そう言うと高宮は二人の机に持っていた問題を置いた。
「むむ…」
表紙にある注意事項、もといルールを見ながら美月が少しの戸惑いを浮かべながらつぶやく。
それもそのはず。
「シンプル…だな」
ルールとして表記されていることは3行。
1、これから100問の頭脳試験を解いてもらいます
2、100問解ききった時点での時間を測ります。
3、採点時、回答が空欄、あるいは誤答であった場合は回答時間に2分足されます。
「シンプルでいいのですよ。むしろ純粋な実力を測りたいのでこれくらいが丁度いいです」
「なるほど」
たしかに余計なルールを設定してしまっても、ただ複雑にするだけで今回は蛇足でしかない。
「ちなみに今回の試験は前日にそこに座っていらっしゃる京華さん、飛鳥さん、沙彩さんに解いてもらっています。それをもとに誤答時のペナルティを決めておりますのでその点は安心してください」
つまり、全て空欄にして提出するよりはきちんと考えて正答を出す方が早い、ということである。言い換えればそれぞれの問題を平均2分以内で正解しなければいけない。
だが。
(相手は美月。雨宮達の実力をもとにどれくらいの設定をしたのか分からないが、美月なら半分の一分くらいで解いてくるだろう…平均一分か…」
一分と言うのはすこし考え込んでしまった時点で訪れる。
「またもちろんですがカンニングは禁止です。ですが試験中に言葉を交わすのは自由としますので、相手の集中を邪魔することは不問とします」
「そうですか」
一瞬口角が上がった美月を見逃さなかった零だが、美月が何を考えているかはわかったものではない。
「やめろよ美月、お前の兄貴は大好きな妹に悪口とか言われたら寝込んでテストじゃなくなるから」
「じゃあ愛を囁けばよろしいですか?」
「それはそれでだめだ。天に逝ってしまう」
暗に要らないことを喋るなよ、という意味を込めた零だったがはたして美月に届いただろうか。
「ふふふ…仲のよろしいご兄弟で…。――では何か質問はありますか?」
「特に」「ないですね」
そう言うや否や纏っていた雰囲気が変わる二人。
別に見た目が変わるわけでもないのに、ピリピリとした空気が近くにいる高宮だけでなく遠くで座っている雨宮達にも伝わって、思わず姿勢を正してしまう。
その二人を見た高宮は満足そうに笑って、開始の合図を告げる。
「それでは、始めてください」
二名のページをめくる小気味いい音が、静かな部屋の中に響き渡った。
記念すべき100話目ですが、気の利いたことができなくてすみません…。
ここまで書いてこれたのも読んでくださる皆さんが居てくださったおかげです!本当にありがとうございます!
これからも精いっぱい書かせていただきますので、どうかこれからもよろしくお願いします!




