10話 初めての勉強会
「楽しかったですね、こうして5人で話すことは」
昼休みの終わる5分前を告げるチャイムが鳴ると、高宮はそのように言った。
「ええ、私も楽しかったです。またこうして集まるのも悪くないですね」
「あたしも楽しかったー!また集まろー!」
「……zzz」
そう言ってそれぞれ席を立って教室に戻ろうとする。そこで周りを見て帰ろうとすると、雰囲気が食べ始める前から少し変わっていることに気が付いた。
「なんかあの入江っていうやつ、ずいぶん4人と仲良くしてたな」
「ええ、なんだかあの4人が彼を自分たちと対等に扱っていたようにすら見えたわ」
「なんなんだ、あの入江ってやつは…」
――なるほど、そういうことか。俺は高宮に声をかけた。
「高宮、この集まりの狙いはこれだったのか?」
「さあ?」
「気に食わんやつだな」
「そう言ってもらえると嬉しいです」と言って高宮は笑う。
別に俺は自分の評価についてあまり気にしていなかったが、それでも前の花田のような奴が現れるかもしれないから、そこは助かるところだ。
「ありがとな、4人とも」
俺がそう言うと高宮は満足そうに笑った。高宮のお眼鏡にかなったようだ。
雨宮は、別にそんなんじゃないですと言って足早に教室に戻る。彼女は他人に貸しを作ったつもりは全くないようだ。
大宮はそういうことは顔に出やすいタイプで、自分でもわかっているのか、隠さずあちゃーと言って教室に戻っていく。
音宮は――雨宮に手を引っ張られている。寝ているようだ。
仲良く帰っていく4人を見て、なんだかほほえましい気持ちになった。
チャイムが鳴り。授業が終わる。するとすぐに雨宮がこっちにやって来た。
「ぼさっとしてないで早く帰りましょう。一時間しかないのですから」
「ああ、そうだな」
そうか、これから毎日、放課後一時間は雨宮の勉強に付き合うっていう約束だったな。俺は急いで荷物をカバンに詰めて教室を出た。
「やっほーお疲れさん!」どうやら大宮はこれから部活のようだ。
お疲れ、と言って零は雨宮と一緒に教室を後にした。
寮に戻って自分の部屋に戻ると雨宮が自分の部屋にやって来た。俺は机の下から折り畳み式の机を取り出して広げた。
「それではよろしくお願いします」
「ち、ち、ちょっと待て」
「なんですか?」
「俺の部屋で勉強するのか?」
「え、私の部屋ですか?」
「い、いや、そうじゃなくて」
さすがに真面目な雨宮だろうと高校生の男女が同じ部屋にいるのはまずいだろ。雨宮はかわいいし、胸もちゃんとあるし、制服姿だときれいな脚が露わになる。はたして俺の理性は持つのだろうか?
「図書館とか談話室とかじゃダメなのか?」
「あ、その、私、恋人関係だと他の人に思われるのが嫌なので..あ、失礼ですね、すみません」
「い、いや、別にいいんだが。まあそうだな。たしかに俺のようなオタクと付き合ってるとなると嫌だよな」
「いえ…そ、そんなことはないのですが…」
「まあそれなら俺の部屋にするか。さすがに女子の部屋に入るのはよくないからな」
「は、はい。そうしましょう」
雨宮は一瞬とても動揺したように見えたがすぐに気を取り直して勉強を始めた。それを確認して俺も勉強をすることにした。ラノベは一人でじっくり読みたいし、ゲームだとかちかち音が出たりしてしまうからだ。
ペンを持ってから数分、俺は雨宮の方を見ていた。雨宮はさすがの集中力でこちらの視線を全く気にすることなく黙々と問題に取り組んでいる。
丁寧な字で、背筋を伸ばしたきれいな姿勢で勉強をしている姿はとても映える。
「何事もなく終わりそうだな」
零はこう思っていたが、これは半分正解で半分不正解である。
「ここの答えはこれで合ってますか?」
「ああ、合ってる。本当はこっちのやり方の方が良いんだがな」
「たしかにそうですね、ありがとうございます」
全く色気も何もないが、嫌な雰囲気ではなかった。1時間は長いが、毎日やることに対して嫌な気持ちはしない。むしろ心地いいくらいかもしれない。
そうしてなんだかんだしているうちに1時間が経った。
俺は冷蔵庫から麦茶を取り出して、コップに注ぎ、雨宮に渡した。
「おい、雨宮、1時間経ったぞ。お疲れさん」
「ありがとうございます…」
「どうした?」
「い、いえ、教えていただいたのに何のお礼も出来てなくて申し訳ないな、と…」
「それくらい気にすんなよ」
「…何かお礼をさせてください。これから毎日お願いしてるので、何かやらなければ気が済みません」そう言って雨宮はこっちを見てくる。
なら毎日お願いするのをやめればいいのに、と思ったがそれは選択肢に無いのだろう。
難しいな、別にお礼をされるほどのことでもないのだが、そこまで言われると、何かお礼をされなければならんな。
「よっぽどのことじゃなければ何でもいいですので…」
「よっぽどのことと言うと?」
「言わせないでください」
「はい、すみません」
雨宮はこちらを睨んでくる。おいおい、感謝の気持ちはどこ行った。
うーんと考えながら伸びをすると
「疲れが溜まっているのですか?マッサージくらいならしますが」
「お、それはいいな、お願いしよう」
「では」
雨宮が自分の後ろに来て肩に手をかける。
小さい手ではあるが、優しく、ほどよい力加減でもみもみと揉んでくれる。
「はあ~気持ちいいな、雨宮のマッサージ」
「ご期待に沿えられて良かったです。ではベッドに寝てください」
「え」
「腰のマッサージをしますから」
「あ、はい」
そうして俺がベッドに俯きに寝ると、雨宮が俺のお尻あたりに乗って腰に手をかける。
ちょちょちょっとまて、これ…いいのか?雨宮のやわらかいお尻が俺のお尻に…。いかんいかん、マッサージだ俺、何も考えるな。あ、でもやっぱやわらかい。だめだこれ。
「雨宮、もういいから…」
「ちょっ、急に動かないでください!」
「うん?」
次の瞬間…雨宮が俺の体に乗りかかった。俺の胸のところになにか柔らかいものが当たる。そして、雨宮の顔が俺の顔にこれ以上ないほど近づく。
今にも触れてしまいそうな距離、俺と雨宮は暫く見つめ合っていた。
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