ローラリン
天気が良い。風も気持ちいい。
道沿いに咲いた背の高い黄色い花は満開でとても美しい。
でも、俺の心は病んでいた。
原因なんて一つしかない。
俺のリュックに引っ付いて離れないこの芋虫のせいだ。
結局剥がそうにも剥がれず、置いてこうにもコイツは意外と敏感で、そして俺よりも速かった。
俺は芋虫から逃げる事すら出来ないのか…。
そんな俺とは対照的にコイツ……ダチュラはルンルンで鼻歌を歌っている。
「なぁ、お前俺なんかに付いてきていいのか?」
これだけずっと引っ付かれてると、流石にコイツに対する免疫もできてきた。
「大丈夫デシ!そう言えば、チエルは何をしに行くデシ?」
「あ、言ってなかったっけ?神都に行くんだよ。」
「神都!!俺様も行ってみたかったんデシ。」
「って言っても、遊びに行くんじゃないんだけどな。悪魔が攻めてきてるから、国を守るために行くんだよ。」
「チエル……こんなに弱いのに行くんデシ?」
「弱いは余計だろ!てか、レベル的にはお前の方が下なんだからな!人手も足りないし、しょうがないんだよ。」
「まぁ、俺様がいるから安心するデシ!」
「鳥に食われかけてたくせに、その自信はどこからくるんだよ、まったく。」
はぁ、と溜息が出るが、実際なんだかんだ話し相手がいる方が俺も退屈せずに街に向かえている。
しばらく行くと、ようやく街を囲う塀が見えてきた。
初めて自分の村以外の街をみる。
思っていた以上に大きい。外からでは高い塀の中までは見る事ができないけど、立派な城や、背の高い教会らしき建物も見える。
正面にある大きな門は開いているけど、通っているのは装飾の綺麗に施された鳥馬車ばかりで、その他の人は皆横にある小さな門からチェックを受けて出入りしている様だ。
とりあえず俺も小さな門の方に向かう。
前に並んでいるのは五人ぐらいだから、そんなに時間はかからないはずだ。
流石に芋虫を連れてるやつはいないけど、
鳥や犬、小さな……ドラゴン?!の子供の様なのを連れてる人もいるから、とりあえずダチュラをリュックに引っ付けたまま順番を待つことにした。
思った通り、そんなに待つことなく順番がまわってきた。
「こんにちは。中身を軽く確認するから、リュックをこちらにおいてくれるかい?」
と、警備兵のおじさんが台を指差した。
荷物を置いていると、
「お兄さん、初めて見る顔だね。もしかして、これから神都に向かうのかい?」
と聞いできた。
「はい、これから神都に。俺村から出たのも初めてで、すごく大きな街ですね。」
「……まぁ、カイラスじゃここは一番大きな街だからな。今丁度、神都に向かう連中を送り出すための祭りを街総出でやってるんだ。村にやってきた使者様に小さなバッチもらわなかったか?それを見せると屋台や宿代が安くなるから見せるといい。頑張って来いよ。」
そういえば、貰った物の中にバッチらしき物があった。
「それと、オトモの登録は一匹でいいんだよな?」
「オトモ?」
「まぁ、簡単に言えば自分が使役している獣や、モンスター、奴隷なんかがそうだ。ビーストマスターなんかの称号がなければ二匹目以降は通行料がかかるんだよ。」
コイツは関係ありませんーーと言おうと思ったが、それを察したのか目をウルウルさせ始めたので、しょうがなく一匹で登録をした。
チョックを終え門をくぐると、俺は見たこともない光景にテンションが上がった。
正門から城まで一直線に道が続いていて、その道に沿ってたくさんの屋台小屋が並んでいた。街のあちこちから音楽と歌声が聞こえる。立ってる家はオレージー村の様な木の家じゃなくって、レンガを基本とした綺麗な家ばかりだ。道もレンガで全て舗装されている。大通りの中心には綺麗に手入れされた花がより街を煌びやかに見せていた。
「うおおおお!すっげえ〜!」
「いい匂いがするデシ!チエル早く行くデシ!」
俺たちは、はやる気持ちを抑えられず人が混み合う大通りに飛び込んでいった。
屋台には、これまた初めて見る食べのもや、装飾品、武器、アイテムが並んでいた。
「きっと魔法で作ったりしてるんだろうな。こんなの見たことないよ。」
俺は真っ赤なガラスの玉が棒に刺さっているような物を手にとって言った。
なんだかすごく甘い香りがする。
「ふふふ。これは魔法で作ったものではないよ。リゴンアメと言ってね、植物から取れる甘い蜜をリゴンに纏わせて固めたものだよ。とても美味しいから一つどうだい。」
今ならその虫さんの分もつけとくよ。と言って小さいリゴンアメを出してきたので、俺はリゴンアメを買うことにした。
「ありがとね。」
と言っておばさんはリゴンアメを渡してくれた。
受け取ったリゴンアメを少し舐める。
ーーーー美味すぎる!!!!
こんなに甘くて美味しいものを食べたのは生まれて初めてだ。
ダチュラもむしゃむしゃと食べている。
俺たちはその後も食いつく様にいろんな店を見て回った。
夕日が傾いてきた頃、いろんなものを食べ漁ってお腹が膨れた俺たちは宿屋に向かっていた。
「確か、さっき聞いた話じゃこっちの道を行くと良いはずなんだけど。」
「チエル、もしかして迷子デシ?泣いちゃうデシ?」
なんて、うるさい芋虫はほっておく。
大通り以外の中道は意外と複雑で自分が今どの辺にいるのかも、なかなか怪しかった。描いてもらった地図を頼りに行くが、なかなか見つからない。
その時後ろから声をかけられた。
「よぉ、にいちゃん。」
振り返ってみると、ん?コイツら、たしか門の所で俺たちの後ろに並んでた三人組か?
「な、何か用ですか?」
「まぁ、まぁそんな硬くなんなって。」
「俺たち初めて村から出るお兄さんが困ってるんじゃないかと思ってね。」
「宿まで案内してあげよっか?もちろん、三人分の宿代と案内料はきちんともらうがな!ついでにその喋る芋虫も金になりそうだからよこせよ。」
是非お願いします。ーーと言ってしまう所だったが、別に頼んでるわけでもないし、コイツらに払ってやるお金なんてない。
「遠慮しときます。急いでるんで。」
もちろん相手のレベルは不明表示だし、相手にしないように、その場を去ろうとすると男の一人が肩を組んできて動きを止められる。残りの二人も、俺を挟んで前後に立って逃げられないようにしているみたいだ。
「初めてのお使いがてらに教えてやるよ。世の中には聞いておいた方がいい注告があるんだ、ぜっ!!」
と言って、いきなり俺の鳩尾を殴ってきた。
「か、がはっ。」
あまりの痛さに、その場に倒れこむ。
「何をするデシ!!」
ダチュラがそいつに向かって飛びついて腕に噛み付いた。
「いっ、痛ってーー!畜生、このクソ虫が!殺してやる!」
男がダチュラを引き剥がして地面に叩きつけた。
「ダチュラ!痛って、ちくしょう、また、」
ーー守れないのかーー
ダチュラに手を伸ばすが男はすでにナイフを振り上げていた。
その時、
バアァン!!
「グヘッ!」
「ホガッ!」
いきなり男の横にあった扉が開いて、一人のおっさんが扉からぶっ飛んできた。
その勢いで男も一緒に吹っ飛ばされる。
吹っ飛んできたおっさんは酔っ払っているようで、顔が真っ赤っかだ。
すると開いた扉から、ごつい身体、ツルツルの頭にエプロンをしたおっさんが腕を組んで出てきた。
「テメエ、金が払えねえんならとっとと出て行きやがれ!飲みたきゃ金持ってくるんだな!」
「あ゛ぁ〝〜、?常連ぐらい大事にしろよ!クソ親父!こっちは飲んでやってるんだぞ!」
「そんなの関係ねえな!」
いきなりで呆気に取られる俺たち四人と一匹。
すると酔っ払いオヤジが、一緒に吹っ飛ばされた男を見て、ニヤッと笑った。
「おい、クソガキ、お前金もってんだろ?俺が飲んでやるから出せよ。」
「は?何言ってんだよ?酔っ払いが、調子にのってんなよ!」
そう言って男は酔っ払いに殴りかかった。が、その拳は当たる事なく、逆に腕をとられて壁に叩きつけるように投げられた。
仲間のもう一人も向かってくるが、酔っ払いとは思えない動きでスッーとよけ、地面につく直前の足をスパンッと払っただけで男は後頭部を打ち付け気絶した。
「たくっ、なんなんだよお前!!」
最後の一人がナイフを取り出して酔っ払いの顔面に向けて突き刺したーーが、やはりそれも当たらず、酔っ払いの右手が掴んだ男の顎ごと後頭部を地面に真後ろに叩きつけた。
「ガキが……素直に注告を聞かねえからこうなるんだよ。」
っつ、つえぇぇーーー!!!
そしてかっけーー!!
人としては終わってるけど。
そして酔っ払いは気絶した三人の懐から財布を取り出し、その中の現金をエプロンのおっさんに渡した。
「おらよ。これで飲んでもいいんだろ?」
「払えりゃ、こっちは文句ないからな!入んな!そこの兄ちゃんも入ってこい。運が良かったな!今日はコイツに奢ってもらえ!」
そう言って店の中に消えていった。
三人には気の毒だか、自分達だって同じ事をしようとしてたのだ。とりあえず俺はダチュラをリュックにくっつけて店の中に入ることにした。