落ちてきた出会い
村から出発した俺は、街に向かって順調に進んで……いなかった。
俺の華々しい出発の出鼻を見事にくじいてくれたのは、まさかのローキンスがくれたアイテムの一つだった。
そのせいで俺は今、今までの人生で二番目ぐらいの恐怖を味わっている。そして、同じくらいの勇気を振り絞っていた……。
村から三キロぐらい歩いた所でローキンスが言っていた背の高い大きな木を見つけた俺は、あくまでも!これからのことを考えて休憩を取る事にした。
ーーふぅ、街まで三日か……考えてみると意外に途方も無いよな。思えば、三日って表現は雑だと思うんだよ。俺のペースだと、もしかしたら五日かかる可能性もあるんじゃ無いのか?まあ、焦ってもしょうがないし、少し休んだら出発しよう。
……ポロッ
ん?なんだこれ?
そう言えばローキンスが使ってくださいって俺にくれたやつだっけ?
開けてみるか。
パカッ
なんだ……これ。
中には蓋のついた小さな容器が二つ入っていた。蓋にはそれぞれにRとLの記載がしてあって、中は液体で満たされていた。
容器と一緒に紙も入っていたので、取りあえず開いてみると、どうやら取り扱い説明書のようだ。
ん〜なになに?
コンタクトレンズの使用方法……、コンタクトレンズ?なんじゃそりゃ?聞いたこともないな。
取り敢えず続きを読んでみる……。
①手を清潔にし、蓋をあける。
手を清潔に……って事は洗うって事か?でもこんな所に水場なんてないし、取り敢えず持ってきた水筒の水で手を洗えばいいかな?えっと、次が、。
②液体の中に透明のレンズが入っているので、利き手の人差し指の上に取り出します。
ふむふむ、これだな。
案外小さい、落とすとヤバイかも。
それで、次が?
③乾かないうちに、Rは右眼に、Lは左眼に入れます。
なるほど、じゃあこれを、左眼に…………。
左眼に……入れます…………?
えええええぇぇぇぇぇ???!!!
……。
……ええええぇぇぇぇぇ???!!!
なんじゃこりゃぁ!あっぶね!
後もうちょっとで、ノリで入れちまう所だった。
これを作ったやつ…ノウチ?なんて言ったっけ?
アホか?アホなのか?アホなんだな!
俺は焦ったんだ。
砂埃がちょっと目に入っただけであんだけ痛いのに、こんな大きいものを目に入れて痛くないわけ、、ない!
断言できる。ふざけやがって。
こんなもの捨ててやろうと思った時に、ふと説明書にまだ続きが書いてあることに気づいて読んでみることにしたのが、いけなかった、いや…良かったのか。
コンタクトレンズの使用効果について
①視力の回復、又は軽度上昇。
②使用主のレベル表示。
③使用主以外のレベル表示。(生命体のみ)
※記載されているレベルとは、その個体の強さを表す数値である。
ん?て事はこれを付ければ俺の強さや、相手の強さが一瞬で分かるって事なのか?
じゃあ、強い相手は極力避けて、自分と同レベルもしくは低レベルの相手と戦えば生き残れる確率もあがるんじゃないのか?
もしかして、これってすごいんじゃね?
理屈は分からないけど作ったやつ、天才なんじゃね?
物事を深く考えるのが苦手な俺は、あっという間に説明書に丸め込まれて、レンズを付けることにした。
しかし、普段案外ビビリな俺はレンズを眼球の数ミリ手前まで近づけては、遠ざけてをひたすら繰り返すことになった。
そんなこんなで、一時間近く奮闘しているわけだ。
いゃ、でもね、普通痛いって分かってて自分から進んでやりに行くやつ、あんまいないよね?
横で食ってた奴が不味くて吐いた料理を、次食べろって言われたら戸惑うよね?
要は、それと一緒なんだよ。
そして、Lと書いた容器の液体が徐々に減っていった頃、俺はようやく覚悟を決めた。
結論、全く痛くありませんでした。
そして両方つけ終わった俺は、改めて自分の視界を確認してみる。
うーん。特に変わった様子はない。
しばらくすると視界の中央に文字が浮かび上がってきた。
〈コンタクトレンズ(試供品)が完全に使用主の神経と結合しました。〉
ーおおぉ!なるほど、少し馴染むまでに時間がかかるのか。
続けて、
〈使用主のレベルを表示しますか?〉
勿論、”はい”だ。
〈続けて、使用主以外の適応する生命体のレベルを表示しますか?〉
こちらも、”はい”。
すると視界の左端に、
チエル:Lv5と文字が浮かび上がってきた。
うおおおおぉぉぉぉ!!すげぇ!
Lv5かぁ。これって、どうなんだ?
俺は弱いのか?強いのか?
まぁ、これから分かっていく事だ。
時間もくってしまったことだし、俺は荷物をまとめて再び街に向かって歩き始めた。
ちょうど荷物をまとめている時に、薬草探しにきたミーナさんとミザリーが前を通った。
ミザリーは、村を出てから随分時間が経つのにこんな所にいた俺をゴミを見るような眼で見ていたが俺は気にしない事にした。
**
今のところ順調に歩き続けて二日。
予定通りなら後一日ぐらいで街に着くはずだ。
ちなみに今から向かう街の名前はローラリン。
昔から村に引きこもっていた俺は、村の外の事なんて興味もなかったから知らなかったけど、ローキンスの話によると、この白界には大樹の根で区切られた四つの大国と、三つの小国、計七つの国からできているらしい。
俺の村やローラリンは小国の一つ、カイラスにある事になる。
それと、歩いてる途中で分かった事がある。
このコンタクトレンズ、自分よりレベルの高い相手に対しては、不明表示で出てくるんだ。
悲しい事に鳥や、小動物意外の獣では殆どがレベル不明だった。
俺は……獣以下だったのか。
まぁ、でもしょうがない。
実際、桑ぐらいしか持った事ないし。
これから訓練して強くなればいいだけの事だ。
それに俺は一つ気づいてしまった事がある。
思い返してみると、この前トロールの気を引くために手当たり次第に投げてた物が、殆ど命中してたんだよ。
と言うことは、俺は遠距離系の武器とかが向いてるんじゃないか?
弓矢なんか持っちゃって、遠くの敵をバシュンと射抜いていく俺……イケてる。
それで、そのうち任務で守った可愛い女の子なんかと仲良くなって、いつか、いつか、俺も……卒業…なんちゃって!
うおおおおぉぉぉぉ!!
なんかやる気出てきた。
考えてみればそうだよ。せっかく村から出たんだ。
今までは彼女どころか、女の子にも喋りかけたことなかったし、友達もルーチルぐらいしかいなかった。
変に話しかけて引かれるぐらいならって、クール気取ってた結果が今なんだから!
これからはもう少し、積極的に自分を出していっても良いんじゃないか?
と、一人テンションが上がった俺は頭上を飛んでいた鳥に向かってついつい足元にあった石を投げた。
「俺と……友達になって下さーい!」
シュッ……。
誰もいないからって、こんな掛け声、自分で言っておいて恥ずかしい……。
そして、冗談のつもりで投げた石は綺麗な円を描いて、なんと鳥に命中した。
ゴンッーー。ポロッ。
おぉっ、あ、当たった。もしかして俺、やっぱ天才か?
ーーん?なんだアレ?
鳥がくわえていた物が、石に当たった衝撃で落ちたみたいだ、みたい、だけど。
ヒュルルルルルゥゥゥゥーー。
ーーえ?
ゴンッーー。
「いってぇぇぇぇ!!」
まさかの天罰が下ったようにそれは俺の上に落ちてきた。
「な、なんなんだよ。」
モソッ。
ん?モソッ?
「いてててて。なんとか生きてたデシ。もうちょっとで小鳥たちの養分となる所だったデシ。」
そう言いながら、背中に赤と紫のマダラ模様がある三十センチ程の芋虫が体をクネクネさせながら近づいてきた。
「うわぁぁぁ!デカッ、キモイイィ!て、てゆうか、喋った……?やっぱキモィィ。」
「お前、失礼なヤツデシ。この美しい俺様のフォルムをキモいだなんて。マジでセンスないデシ。」
「いやいや、近づかなくていいから。助かったんなら良かったよ。じゃあな。」
あまりの驚愕に俺は急いでその場を離れようとした。
俺は、実は虫が嫌いなんだ。
特にああ言うクネクネ系がもうダメだ。
「待つデシ!」
「いや、俺は急いでるんだ。お前も気をつけろよ。」
そう言って俺は、そいつに背を向けて歩いた。
「だから待つデシ。」
ピトッーー。
ひっ……、ひぎゃぁぁぁぁ!!!
付いてる!付いてる!
あろうことか、意外と早く移動できたそいつは、追いついて俺のふくらはぎに飛びついてきた。
俺は足を思いっきり振って、振って、振りまくった。
引っ付いているところがゾワゾワするーー。
「おいおい、だからちょっと待つデシ。お前じゃ俺は引剥がせないデシ!離れて欲しかったらとりあえず足を止めるデシ!」
それを聞いて、とりあえず足を振るのをやめてみる。
芋虫はポロッと落ちて
「お前、ちょっとは虫の話聞くデシ。」
「な、なんなんだよ。もう助かったんならいいだろ?」
「お前にお礼をしてないデシ!」
「そんなのいいって!気にしなくて良いよ!」
芋虫がお礼って、なんなんだよ。
「それはダメデシ。なので、俺様がお前の友達になってやるデシ!俺様もちょうど一匹が寂しかったんデシ!お前のあの言葉、心に響いたデシ!だからこれからお前の友達になって一緒にいてやるデシ!」
えっへん、と聞こえてきそうな程自身満々にそいつは言ってきた。
いやいやいや!え?何言ってんだコイツ。
心に響いた言葉?……あ、あれか!!
「いやいや、違うんだ。別に俺は友達がほしくて言ったんじゃないんだ。だからわざわざ友達にならなくても良いんだよ!」
まさか、ノリで言った言葉がこんな事になるなんて……。
それに、ついて来られるなんてまっぴらゴメンだ。こんなんが付いてたら女の子と話すどころか、変態の仲間入りだ。
「そうなのか?」
「そ、そうなんだよ。だから分かってくれたか「でも……俺様はお前と友達になりたいデシ。だから付いてく事にするデシ
。」
…………。ノオオオオォォォォ!!
どうしてこうなる?!虫だからか?空気とか雰囲気が分かんねえのか?
そんなこんなで俺が脳内葛藤してるうちにそいつは俺のカバンにしがみついてきた。
「おい、急いでるんだろ?早く行くデシ!」
…………。
こうして俺は唐突に、かつ強引に芋虫と友達になった。
**
ーーーー時は遡り、オレージー村で歓迎会が開かれていた夜。
村の全員が寝静まり、月が怪しく村を照らしていた真夜中、魔物が出てきたマザーホワイトの根の上で、真っ黒なフードを深く被った人影が一つ、村を見下ろしていた。
「うふふふふ。やっと、やっと見つけたわ。」
その手には黒く濁った水晶が握られていて、その中から声が聞こえる。
「おい、次こそ本当だろうな。」
うすい唇に真っ赤に塗った口紅が怪しく弧を描く。
「えぇ。だってこの目で直接見たのですもの。久しぶりに鳥肌がたったわ。」
女は自分の身体をギュッと抱きしめる。
「お前、そんなこと言ってこの前も違っただろ。」
「あら。この私に仕事をさせておいてそんなこと言うのね。でもいいじゃない。今まで通り、違えば殺せばいいことでしょう。」
「まぁ、いいが、真剣に探してくれ。」
「もちろんですわ。私は彼の方の全てを愛しているのよ。あの愛くるしい姿も、声も、肌も、血も、臓物さえも。だから、私をこれだけ嫉妬させるアイツだけはいつか必ず殺してやるわ。」
「それは皆同じだろ。」
「そうね。……近々、一度様子を見てみるわ。」
「程々にな。」
「えぇ。」
そう言って女は水晶を握り潰す。
そして血のように赤く美しい瞳に村を映して残酷にも美しく微笑んだ。
余談ですが笑、私が想像して書いているのはリアル尺取り虫ではなく、あくまでポケ◯ンのキャタ◯ー風です。
別に、リアル尺取り虫でも構いませんが笑