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クロスワールド  作者: えりぞう
第一章 旅の始まり編
6/50

使者

 

「やぁ、君がチエル君だね。」



 俺の後ろから、白のローブをまとった青年が声をかけてきた。袖には綺麗な葉っぱの刺繍が施してあって、胸には弓をかたどった模様も入っている。手には赤い玉の入った杖を持っていていかにも魔法を使えますって感じだ。

 まぁ、俺はまだ魔法なんて見た事無いんだけどね。

 見た感じ俺と同じぐらいの歳だけど、どちらかと言うと気弱そうな雰囲気をしている。

 その後ろには三人の騎士が立っていて、二人は体格ががっしりしているけど、もう一人は俺よりも小柄だ。三人とも動きやすさを重視した軽量の鎧を纏っている。


「はじめまして、僕はローキンス。ここには神都からの使者としてきました。」

「は、はじめまして。俺がチエルです。」

 使者と聞いてついつい緊張してしまう。

「ふふ、そんなに硬くならないで下さい。これからよろしくお願いしますね。」

 そう言って手をさし出して微笑んだ。

 俺もつられて手を出して握手する。

 後ろの三人も右から順に、マルトス、ギース、カイと名乗った。

 よろくな、ボウズ。と、マルトスと名乗った男が俺の頭をポンポンっと撫でてきた。

「ちょ、子供扱いするなよ!」

「はははは、俺のガキに似てたから、ついな!」

 コイツ。ルーチルよりも苦手なタイプかもしれないな、なんて俺は心の要注意人物リストに奴の名前を書き込んだ。

 皆んながはははと笑って和やかな雰囲気になったところでローキンスが、

「ところで、君に話があるのですが、少し場所を移せますか?ルーチルさんも一緒にお願いします。」と言ってきた。

 良くは分からないけど、話は聞いてみなければ分からないので了承の意味を込めて頷いた。



 俺たちはさっき俺が寝ていた部屋に集まっていた。

 部屋がそんなに広くなかったので俺とルーチルはベットに腰掛けて、ローキンスさんは椅子に座って向き合った。

 騎士の3人はミーナさんと一緒に町の片付けの手伝いに行ってくれている。



「いきなりお時間取らせてしまってすみません。チエルさんは身体の調子はどうですか?」

「あ、はい、もう全然マシに……いえ!大丈夫です。はい!」

「それは良かったです。先程も言いましたがあまり緊張しないで下さい。」

「で、でも……。」

「本当言うと、使者なんて言われてますけど実際はただのパシリみたいなもんですから。考えてみてください、本当に偉い人は使者なんてしませんよ。僕みたいな若い下っ端に押し付けてるんです。だからそんなに緊張されると逆にプレッシャーになります!」

 ローキンスさんは人差し指を立てながら、ちょっと怒ったように熱弁した。

 一気に言いきったせいか、若干肩で息をしている。

「は、はい。すみません…。」

「僕は元々この喋り方の方が喋りやすいのでいいですが、敬語もなしでお願いします!そして、僕の事もローキンスと呼んでください!ルーチルさんもですよ!」

「「は、はぁ、、。」」

 俺とルーチルはローキンスに気圧される形で返事をした。

 ニコッと微笑むローキンス。

 ルーチルと視線があう。なんだか初めてルーチルと心が通じた気がした。

 最初は気弱そうな感じだと思ったけど、結構はっきりと物を言うタイプみたいだ。自分ではプレッシャーとか言っていたけど、案外向いてるんじゃないかなぁ。まぁ、でも俺は嫌いじゃない。

 俺がローキンスの立場だったら……この歳で確かに使者様〜、なんて言われても逆にしんどいだけだよな。

 そう考えれば、ローキンスって凄いなって素直に感じた。ちょっと暑苦しいけど……。


 コホンッ、と咳払いをしてローキンスはさっきとは違って少し真剣な顔をする。

「まあ、さっきの話は可能な限りでいいのでよろしくお願いしますね。」と言って、姿勢を正した。

「ところで、今回僕がここの村にきた理由についてまだお話していませんでしたよね。単刀直入に言うと、我々の住むこの白の世界に悪魔、魔物と呼ばれる生命体が侵略してきています。その侵略を阻止するために神都より徴兵令が発令されたのです。お二方も、もぅご存知だと思います。他の種族も確認されていますが、昨晩村を襲った巨人もそうです。神都は各村々に向けて守護兵を派遣していますが侵略の活発な地域に対し現状兵士の数が足りていないのです。そこで各村々を回り人材を確保してくるのが私の今回の使命です。」と話した。

 実際の所、まさかここまで話が進んでいたなんて思ってもみなかった。

 ルーチルも驚いているようだ。


「あの〜、ちょっといいですか?」

 ルーチルが遠慮気味に尋ねる。

「なんでしょう?」

「話は何となく大体分かったんですが、うちの村はご存知の通り、先日の出来事で男手も半分近くが死にました。村の復興もこれからだし、他の村の状況は良く分からないけど、今うちの村から出れる人間はほとんどいないんです。本当に申し訳ありませんが、いたとしても、実際男手に出ていかれると村が……。次またいつ悪魔が襲ってくるとも分かりませんし……。」

 確かにルーチルの言っていることは確かだ。神都からの命令とは言え、村がこの状況で他の地の守護につけと言われても、はいそうですか。と言える人間はこの村にはいないだろう。

 ルーチルはさらに続ける。

「それに、この村から何とか数人行かせることが出来たとしても、そんな事をするぐらいなら元から戦力になる貴方達が戻って守護につく方が国にとっては良いのでは?ご覧になって分かると思いますが、私達ではほとんど戦力になりませんから。」

 言い終えて申し訳なさそうなルーチルとは対照的に、ローキンスはニコッと笑って言った。


「ここで、私から貴方達に提案があるのです!!」


 てっきりローキンス達を突き返す形になるんじゃないかと思っていた俺達はその言葉に「?」がとぶ。


「て、提案ですか?」

 椅子から少し身を乗り出す様な形でローキンスが答える。

「そうです!まぁ、まずは先ほどの質問に対してお答えします。ルーチルさんの言った通り今の村の方々が命を受け守護の任に就いたところで役には立たないでしょう。言い方が悪くなりますが、良くて時間稼ぎのコマと言ったところでしょうね。しかし、私達が求めているのは根本的な戦力の確保にあるのです。」

 残念ながら俺の頭に「?」が飛ぶ。


 ローキンスさんはそんな俺にニッコリとしてから続ける。

「簡単に説明すると戦える者の数が現状、圧倒的に少なすぎるのです。その数の差で、カバー仕切れない人達はこの村の様に魔物の餌食になると言うことです。」

 あ、何となく話が見えてきたぞ。


「なので、多少戦えない者でも一度集めて、そこそこ戦えるまで今のうちに訓練をつみ、今後の戦力の底上げに持って行きたいのです。もちろん、主に戦うのは今主戦力となっている守護兵団で、基本は見張りなどの任についていただくことになります。任期が終われば村に返っていただいても結構ですし、そうなれば結果的に村の戦力自体も上がりますから。それに、心配なさらなくても他の使者からの情報では、都市から離れたほとんどの村の方も、ここの村の方とさして変わらない戦力です。」

 な、なるほど〜。

 確かにいくら強い兵士が守ってくれると言っても、同時に何箇所も守る事は不可能だ。しかも後々村に帰ってこれる事を考慮すればそんなに悪い話でもないのは確かだし。

 でも、問題は俺達の村はそんな余裕さえ無いんだ……。

 ルーチルもやはり俺と同じ事を思った様だ。

「で、ですけどうちの村は、、」

 とルーチルが言いかけた時、ローキンスは立てた指をルーチルの口に当てる様な仕草を取って言った。

「だから、ここからが提案なのです。村長が亡くなられた今、ルーチルさんの発言は時期村長として当然の考えであり、僕もその通りだと思います。ですが、僕としてもこの使命を果たさなければいけません。そこで、この村からはチエルさん一人を代表として指名したいのです。」


 え?ええええええぇぇぇぇぇ!!!

 おおお、俺?!

 目ん玉が飛び出す。

 話がぶっ飛んでよく分からない。

「ちょ、ちょちょちょちょちょっと待ってくれよ!よりによって何で俺?」


「まぁまぁ、落ち着いて下さい。」

 ビックリしすぎて立ち上がった俺をローキンスが制して腰掛ける様に促す。


「私が貴方を押す理由は三つあります。一つ目は貴方の勇気に対して、敬意の念を抱いたからです。ルーチルさんに聞きました。貴方が二人を守らんと戦った事を。国としてもその様な人が欲しいのです。二つ目は、そしてその戦いで生き残ったからです。あれだけ相手との差があったにもかかわらず生き残った事は、これからの訓練において必ず貴方の力になると思います。そして三つ目は……貴方には今、家族がいらっしゃらないからです。」

 そう言われた瞬間、胸がギュッと締め付けられた様に苦しくなった。必然的に握っていた拳に力が入る。


「本当であれば、ルーチルさんにも来ていただきたいところなのは確かです。ですが私としてもこの村の状況からリーダーを奪ってしまう事や、多数の人に収集に応じる事を命ずるのは気がひけるのです。幸い、私は現地の判断で、その人数を判断していい事になっています。ルーチルさんには奥様や娘さんもいらっしゃるようでした。その点、貴方は今、立場的には一番動きやすいと推測します。ご家族を失ったばかりで酷な話というのは分かっています。ですが村のため、国のためにお力をお貸しください。」

 そう言ってローキンスは俺に頭を下げた。


 ローキンスの言った事は確かに俺でも理解できる。

 でも、今の俺にはあまりに突然の事すぎた。


「少し、考えさせて欲しいんだけど。ご、ごめん。あまりに突然すぎて、少し気持ちとか色々整理する時間が欲しい……。」


 ローキンスはまたニコッと笑って言う。

「分かっています。一度ご自分で整理なさってください。ただ、私も人材を集めなければなりません。貴方がこない選択をした場合はルーチルさんに応じてただきます。そのことも踏まえて、お二人でも話し合ってください。」

 そう言ってから、静かに部屋を出て行った。



 部屋に残された俺とルーチルはあまりに突然の話に困惑していた。

 何となく気まずい空気がながれる。


 すると、そんな空気をわざと壊す様に、ルーチルは困った様な顔をしながら、それでも明るく俺に言った。

「ははは、突然の事続きでちょっと気持ちが追いつかないよな……。……なぁ、チエル、お前は村に残れ。」

「えっ?」

「確かに、ローキンスの提案は村の事も考慮してくれた上での話だった。でもな、別に村のリーダーは俺じゃなくてもいいと思うんだ。家族の事も、無事で居てくれれば十分だと思ってる。それにお前に俺たち家族は救われてる。これ以上、戦地に出向いて危険な目にあって欲しくないんだよ。」

 そう言ってルーチルはニカッと笑った。

「で、でも……。」

「何遠慮してんだよ。いつもの生意気な態度はどうした?じゃあ俺は今からローキンスにこの事を伝えに行ってくるよ。」

「ちょ、ルーチ……。」

 俺が名前を呼び終わる前に、ルーチルは部屋から出て行ってしまった。


 何なんだよアイツ、でも本当にこれで良かったのかな……。

 モヤモヤする気持ちを変えようと俺は村を歩いていた。

 前に俺が住んでいた辺りで、村の人達と一緒にマルトスと、ギースが木材の撤去作業をしていた。もう溶け込んだ様で、楽しそうな笑い声も聞こえてくる。

 その後育てていた畑や村の周りをボーっと一人で歩いていた。


 皆んな、なんとか立ち直ろうと頑張ってるんだ……。

 それなのに俺は……。

 結局気がつくと婆ちゃんのお墓の前に立っていた。

「はははっ、やっぱり俺…マザコンで子供だなぁ……。」

 なんだか悔しくってまた涙が出る。

 自分でも本当は分かっていたんだ。

 ローキンスの話がこの村にとって一番いい話だって事は。

 でもまたあの巨人みたいなやつと戦うことになるかもしれないって考えると、怖くなった。

 ルーチルはそんな俺の怖さを見抜いた上であんな事言ったんだ。


 でも……それじゃダメだよな、婆ちゃん。

 家族を亡くす辛さを知ってる俺が、ミザリーに同じ思いをさせるわけにはいかない。

 俺は、俺にしかできない事をやろう。


 覚悟は決まった。


 俺は穏やかな風の吹く丘ゆっくりを下った。


これからの励みにもなると思いますので、少しでもいいな、次も読んでやろうなんて思いましたら、評価やブックマークなどぜひお願いします(〃ω〃)

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