衝突
ログにキレた俺は勢いで外に飛び出した。
外では明日の戦いに備えて、村の人や部隊の人達が忙しなく動き回っていた。
ほんと、こんな時に何してんだろう、俺。
ログの言った事は決して間違った事じゃない事は分かっていた。
俺達には俺達の成さなければならない任務がある。
それに俺はこの村を守ってやれるほどの力もない。
そのくせ、他人に期待して理想ばっかり並べる。
セドに相談されて、力もないのに2人がいれば大丈夫だろうなんて勝手に思い込んで、、、、はぁ。
そんな甘さを見透かされた、、自分が情けないし、恥ずかしい。
……でも、分かっていたけど、最後まで力になりたかったんだ。
分かってたけど、信じてたんだよ、信じさせて欲しかったんだよ、、、、なぁ。
ちょっとだけ涙が出てくる。
はぁ、もうちょっと頭冷やそう。
皆んなの手伝いをしてから、夜にでも謝ろう。
先ずは今出来ることをしよう。
誰も見てはいないだろうけど、こっそりと涙をぬぐってから周りを見渡して手伝えそうなとろこを探してみる。
「……もしかして、チエルさんですか?」
突然背後から声をかけられてハッとする。
振り向くと、さっきアレックスに猛烈に当たられていた可哀想な隊員、えーと、ダヴィ……とか言われてたっけ?が俺の後ろにいた。
「そ、そうですけど、、ダヴィさん、でしたっけ、、?」
さっきちらっと見たとはいえ、殆ど初対面の彼から声をかけられる理由が見当たらない。
いや、さっきの事を思い起こせば、無いとも言い切れ無い気がする。
まさか、、はっ!?お前のせいでとばっちりを受けただろ!とか言われてアレックスに引き渡されるんじゃ……流石にそれは無いか。
なんて事を考えてると、ダヴィさんがクスリと笑った。
「すみませんっ、考えてそうな事が分かりやすく顔に出てたもので。……自己紹介した記憶は無いんですが、私なんかの事を知ってくださってるなんて、ありがとうございます。私は第1部隊副隊長のダヴィ・トルムです。」
そう名乗った目の前の隊員は、見た目や喋り方に反して逞しい腕を前に出した。
ふ、副隊長、、だったんだ、、。
俺はその出された腕を握り返して答える。
「俺そんな変な顔してました?恥ずかしいな……。こちらこそよろしくお願いします。」
まぁ、自己紹介されてなくても、あれだけアレックスに当たられていたら嫌でも目に付いたってのが本当の所だけど、本人には中々言いづらい。
「……所で俺に何かようですか?」
俺に話しかけてきたってことは何か用があるってことだしな。
「あ、先ほどの事をと詫びしようと思いまして……。」
ダヴィさんはそう言って申し訳なさそうに後ろ髪を掻いた。
この人が謝る事なんて何があるのだろうか?
余りにも心当たりがなさすぎてうーんと考え込む。
「……先程はお見苦しい所をお見せして大変失礼いたしました。チエルさん達は管轄が違う上、我が隊の補助で来て頂いていたのに、、。」
「いやいやいや、別に気にしてないと言うか、ある意味気にはなるけど、、そんな気にしないで下さい。」
まさかの言葉に自分でもなんて言ってるか分からない返事が出た。
「いえ、隊長も初の任務で気が立っていたとは言え、言い過ぎていたと思います。それに、これから同じ場で協力していく以上、仲間同士でのいざこざは避けたいものですから。本当に失礼いたしました。」
な、なんてできた人なんだ。
いや、普通の事なんだろうけどアレックスを見たせいか、この人が聖人の様に見えてくる。
アイツ、良い部下を持ってんな、、。
と言うか、これが副隊長の立場についた人か、、。
自分の事よりも、全体を見て行動できる人なんだなと素直に思った。
俺も、見習わないと、、。
「そうですか。でも、俺も、仲間もそんなに気にしてないので大丈夫です。逆に、ダヴィさんの方が心配になるぐらいです。アイツ、、た、隊長に振り回されて大変そうだな……な、なんて。」
「ははは、それはまぁ、よく言われます。」
「よく言われる、、?隊長とは付き合いが長いんですか?」
「そうですね、僕は隊長とは同国ですし、言い方はアレですが同期です。6歳の頃からレモンポール家で騎士としての訓練を受けてきてますから、それぐらいの付き合いはありますね。だからまぁ、もう慣れてるんですよね。それに、、隊長は本当はとてもお優しい方なんですよ。孤児でボロボロで、誰も助けてくれなかった僕を唯一受け入れてくれた。僕以外にも彼に助けられた人は沢山いる。他の隊員はまだ戸惑ってる様ですけど、そこは僕がフォローしてますしね、これも私の使命ですから。というか、やりたくてやってるんです。」
なんだか俺が思ってた以上に本人はなんとも思ってなかった様で、ハハハと軽く笑い流していた。
てか、アイツも良いところはあるんだな、、。
あんな事してても付いてきてくれる部下がいるなんて。
オマケに皆んなのフォローまで、、。
「そうだったんですか。……ダヴィさんは凄い方ですね……僕とは、全然ちがう。」
凄いと思う反面、今は話を聞けば聞くだけ虚しさに押しつぶされそうだ。
「……どうかされたんですか?」
心配そうな面持ちでダヴィさんが俺の顔を覗き込んだ。
「い、いや、俺もダヴィさんみたいにしっかりしなくちゃなぁと……。」
するとダヴィさんが優しく俺の頭をポンポンと撫ぜた。
「……え。」
「詳しい事は分かりませんが、貴方は十分に頑張ってると思います。実力把握テストの時、最下位だった貴方が今は少なからず魔力コントロールをしている。それがいかに大変なことか私には分かります。人間、誰しもが最初から全てできるわけではありません。貴方は今貴方にできることをしっかりと出来ていると思いますよ。貴方が出来ない分は仲間がいます。私達も力になれるかもしれません。一緒に頑張りましょう。」
「は、はいっ……!!」
1人で背負い込まなくていいと言ってくれた様で、心に刺さっていた棘がなんだか抜けた気がした。
さすが副隊長、会ってすぐの俺にまでこんなフォローしてくれるなんて、、、。
「そうだ、チエルさんはこれから何か用はありますか?」
ダヴィさんがいきなり俺肩を叩いて聞いてきた。
「い、いえ、、。ログ、うちの隊長からは何も、俺は村の人達の手伝いをしようと思っていた所です。」
「それは良かった!もし良かかったら少し手伝って頂けませんか?後方に設置する救護所の人手が不足してるんです。手伝って頂けるとありがたいんですが。」
それは俺もありがたい提案だった。
ちょうどどこか手伝えるところを探していたし、このまま帰らなくて済む。
「分かりました。じゃ俺そこの手伝いに行きます。もし俺の仲間に会ったらその事を伝えといてもらえませんか?」
「分かりました。ありがとうございます!」
そうして俺は後方に設置されている救護所の手伝いに向かった。
**
初めてこの村に来た時に通された部屋で、ログやオリーブ、村長、スーバ、アレックスとその部下達がテーブルを囲んで会議を行っていた。
漂う空気は重く、部下達はアレックスの後ろでタラタラと汗を流していた。
「ちょっと……君らしくないんじゃない?」
いつもの優しい口調でにこりと笑ったはずのログの目が全然笑っていない事に、より一層部下達の汗が溢れ出る。
「それはこちらのセリブだが、、。甘々な部下を連れて歩いてるせいで脳みそまで溶けたんじゃないか?ログ。」
張り詰める空気に、さすがに村長達も気まずさを隠せなくなる。
先ほどからずっとこの調子で話が進まないのだ。
それも、アレックスが提示した明日の作戦のせいだった。
「今回、この件の依頼主である村長殿が根本的な原因は人魚にあると言った。よって、人魚の討伐を1番として作戦を展開する。それのどこがおかしい?」
「ちょっと待つアル。人魚は私達の任務にも関係あるネ。討伐は待ってほしいアル。それに、人魚に割く人員と守りの人員のバランスも無茶苦茶ネ!そんなにそっちの主要戦力を討伐隊に割かれたら村は誰が守るアル?!それなら、私とログが人魚を捕獲するアル。その間、村を守ってくれる方が安定した戦略を組めるネ!!」
オリーブもログの横でアレックスを睨みつける。
それもそのはず、アレックスが提示した作戦は村の守りを捨て、一刻も早く人魚を狩るという無茶苦茶な物だったからだ。
今現在のこちらの戦力はアレックスが連れてきた100人、村で戦える者40人、後はログとオリーブに最悪の場合チエルを含めた140人ちょっとだ。
救援を呼んでいると言っても、こちらにつくのは明後日以降だろう。
その状況で、アレックスにを含めた第1部隊の主力戦力となる30人を人魚の討伐隊として編成すると言い出した。
現時点での仮想総敵数だけでも300以上。
ログとオリーブを抜けば、相手のレベル数を考慮しても1人1匹も倒せないだろう。
ましてやそれも予想でしかない。
さらに、チエルからの情報も気になる。
もしゲートと人魚に全くの関係性が無かったとしたら、、、。
人魚を狩ることだけに目的を置いたアレックスの作戦は少々無謀と言えた。
村長達も、自分達がそもそもの原因だ、人魚を狩って貰えるだけありがたいと思えと言われると何も口出しできなくなっていた。
「黙れ小娘、誰が口を開いて良いと言った?」
それにオリーブがブチリとキレたのをログが制する。
「この子は僕の隊の者だ。発言は僕が許可している。君こそ誰の了解を得て僕の仲間にそんな事を言っているんだ。」
2人のピリピリとした空気にと魔力に当てられて部屋の殆どの者はガクガクと震え出していた。
「そんな隊とも言えない者を引き連れてよく隊長として振る舞えるものだな。だが、この村を神都から預かったのは私だ。お前達に功績を渡してやる様な事はしない。」
「功績なんて私達はどうでもいいネ!あんた達は村を守りにきたんでしょ?」
「黙れっ!!!私は神都におわす方々の為ここに来たのだ。元凶を食い止めなければ被害は拡大する一方、ならばこのまま被害が拡大するより、この村1つの被害で済むならそれが1番であろう!」
それを聞いて村長達が苦い顔をして下を向いた。
「……アレックス様、私も村の守護につこうと思います。」
アレックスの後ろで控えていたダヴィが発言をした。
「なんだと、、貴様!!」
「お待ちください!確かに被害の拡大は避けたいところでありますが、その為に村を潰されてはそれこそアレックス様の名に傷が着きます!アレックス様は私1人欠いた所でどうこうなるお方ではないはず。それならば、少しでも被害を抑えられる様村に残ろうかと、、。」
そう真剣な眼差しで言われて、アレックスはチッと舌打ちをした。
それを了解と受け取ったダヴィは、ありがとうございますと頭を下げた。
「ログ、私はお前達の意見を聞く気は無い。だが、もし私が人魚を見つけ狩るよりも早くにお前達がゲートの魔物を処理できたのなら、褒美として殺さずにいてやるかもしれないから、ぜいぜい頑張る事だ。」
そう勝ち誇った様な顔で2人を見た後、アレックスはゆっくりと立ち上がった。
「残念だよ、アレックス。」
出て行こうと扉に手をかけた時にログが、発した一言でピタリと足を止める。
「……なんだと?」
「いや、別に。だだ君のお父上が不憫でなならないよ。まぁ、僕にはどうでも良いけど……。」
ドガンッッ!!!
それを聞いてアレックスが扉を蹴り破った。
「……殺されたいのか、、貴様。」
「君にできると良いね。」
その言葉にキレた様にアレックスが刀に手をかけようとした時、急にアレックスが胸を押さえてうずくまった。
「っ、……ゔぅぐっつ。」
「隊長!!」
体を支える部下達を振り払って、アレックスは舌打ちし、そのまま部屋を出て行った。
*
くそ、、あの種が私の体に定着してから私と馴染むたびにこうして激痛が襲う。
「ゲホッ……。」
アレックスは咳と共に出た血痰を地面に吐き出す。
日の暮れ出した森の中では誰もそんな事には気づかないだろうが、、。
何が、父上が不憫でならないだ!
何も不憫などではない。
あいつは、アイツらは何もわかってはいない。
どれだけ私を侮辱すれば気がすむんだ!
「ぐっっ、、、。」
ログのことを考えれば考えるほど、それに呼応するかの様に種が根を伸ばし、激痛が走る。
だが、それがなぜが今は心地いい。
この激痛が走るごとに体の中の力は漲り、全てを壊してしまえと走りわまる。
アイツの苦痛に歪む顔が見たい。
悲しみに打ちひしがれて無様に涙する顔が見たい。
何もできなかった自分を呪って怒りに震えるアイツの顔が見たい。
そしてそれを想像しては自分の体は喜びに震える。
せっかくだ、アイツにハッキリと分からせてやろう。
お前がいかに無力なのかを。
アレックスは森の木陰の先に、たまたまいたログと同じ服を着た少年をギラついた瞳に捉えて、笑みを浮かべた。
なんか文がくどくてすみません(汗




