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クロスワールド  作者: えりぞう
第2章 歌をなくした人魚
47/50

集う

 

 ちょっと待てよ、1度話を整理させてくれ。

 セドがいきなり言い出した話が飲み込めずに、回転の悪い頭をなんとか動かして今までの情報を整理しようとする。


 俺の表情から読み取ったのか、セドがフッっとバカにしたのように笑ったのが見えた。

 いやいや、お前にだけは笑われる筋合いないからな。


「ちょっと待ってくれよ、全然状況が飲み込めないんだけど。え?確か君達、人魚の祟りでこんな事になってるんだよね。ん?あれ?」


 昨日ゲートを開いて村を襲ってるのが人魚で、その人魚を倒してほしいっていってたのに、その人魚にセドはこんな可愛い贈り物、貢物?をしているって事になるんだよな?

 でも、村の人には内緒にって……あーもう訳がわからん。


「まぁ、そうなるよな。ほんと、想像通りの顔するな、チエルは。」

「うるさいなぁ、そうさせてるのはセドだろ?」

「ごめん、ごめん。まぁ、さっき言った通りこれは俺が人魚に贈るために、ここでひっそりと作ってるんだよ。勿論、村の皆んなには言ってない。俺がしたくて勝手にやってるんだ。」

「それはどうしてデシ?」

 ダチュラがそう聞くと、セドはまっすぐと俺をみて言った。


「……俺は、このゲートを出現させているのが人魚だと思ってないからだ。」


 な、なんだ、、と。

「まぁ、いろいろ突っ込みたいとは思うだろうけど先に話を聞いてくれ。ーーまず、俺を含めて村の住人の約3割は加護切れ、つまり加護による寿命の延長を一切受けてない住人とい言う事だ。先日、村のじいちゃんが90歳で死んだ。それ以上の年寄りは生きてるのに、そのじいちゃんは老衰で死んだんだ。加護はそれを受けた瞬間から、それ以降は生まれた瞬間に受けることができる。つまり、実際は人魚の加護が切れてから100年は経ってるんだよ。なんで加護が切れてそんなに立つのに村長達がまだ生きてるのかは分からない。ゲートが現れだしたのは最近の話だ。契約が切れて100年も経った今更、人魚がわざわざこんな事をするとも思えない。」


「た、確かにそう聞くとそれもそうだけど。昨日人魚がゲートに向かってなんか言ってるって証言したのはセドだっただろ?!」

「あれは、村長の手前あぁ言うしかなかったんだ。村長を含めた加護受けは、つまり村の殆どの人が人魚のせいだと思い込んでるんだから。」

「じゃあ、昨日の証言は嘘なのか?それに、魚が減って捧げ物が出来なくなったのも数ヶ月前からだって言ってただろ?あれはどうなるんだ?」


 これはこれで困る。

 人魚がゲートを作ってなかったとすると、人魚を追ってた俺達の本来の目的が外れた事になるんだから。

 それに村長達は俺達に嘘の事を言ったことにもなる。


 するとセドはゆっくりと首を横に振った。

「言った事は本当だ。それに村長の言った事も確かで、数ヶ月前から確かに魚が激減して奉納してはいない。奉納してないとは言ってたけど、加護がその時にきれたとも言ってないだろ?」


 だろ?なんて言われも、これじゃ話がめちゃくちゃだ。

 一体何がどうなってるんだ?


「いつも凄く悲しい目で、何かを必死で訴える様にゲートに向かって話しかけているんだ。それからいつも、魔物が出てくるとアイツはもっと悲しそうな顔をして、綺麗な瞳を濁らせて海に帰っていくんだ。俺はアイツがゲートを開いているとは思えないんだ。だから、もう無理かもしれないけど、この村の守り神だったんなら、また村を守ってくれるようにと思って俺はこれを作ってるんだよ。」


 セドの必死の表情や仕草から、俺はコイツが嘘をついてるようには思えなかった。

 それが事実かどうかは別として、純粋に信じてやりたいと思ったからだ。


「それ、村の人には話さないのか?」

 もし、セドの言う通り人魚がゲート発生とは無関係だった場合、俺達は罪のない命を奪ってしまう事になる。

 そうなれば、どっちが悪魔か魔物か分からない……。


「言ったよ。でも、その話を1度してからは洗脳されてるなんて言われて、誰もまともに話なんて聞いてくれないっ!俺は全部見えてるのにっ!村を守りたいだけなのに!」

 最後の方は怒り混じりで、セドは振り上げた拳を机に叩きつけた。

 その拍子で、首飾りの1つが床に落ちる。


 俺はその落ちた首飾りを拾ってセドの手の平の上にそっと置いた。


「正直、俺はまだここに来たばかりで、何が本当なのか分からないし、今すぐそれを確かめて知る術もない。でも、セドの事は信じたいと思う。皆んなを助けたいって気持ちも本当だ。……だからきちんと確かめよう、真実を。そして、この村を、皆んなを守ろう。」

 非力な俺には、こんな言葉しかかけることができない事が悔しかった。


「チエルだけじゃないデシ。俺様も助けてやるデシ。」

 ダチュラが俺の肩の上でウネウネとくねった。

 動物は純粋な人の気持ちを感じる事ができるって聞いたけど、きっと虫もそんな第六感があるんだろう、妙に明るいダチュラの言葉に俺の気持ちも軽くなるような気がした。

「お前ら、、ありがとう。俺、村の外のことなんかあんまり知らなくて、こうして話すまでは正直怖かったんだよ。でも唯一仲間だった村の皆んなにも非難されてどうしようも無くなって、、相談してみて良かった。」


 俺もその気持ちは少しわかる。

 少し前までは村を出るのも嫌だった。

 村の外の世界は信用できなかったからだ。

 もちろん今は違うけど、、。

 セドはそんな中でいきなり来た俺達に話していいのか、だいぶ悩んだだろう。


「セド、お前こそ話してくれてありがと俺も出来る限り頑張るから。」


「……おぅ。俺もこれから魔物対策で今みたいに時間はもう取れないけど、何とかして少しでも調べてみるわ。何でかは分からないけど、村長達はやたらリヴィアに執着してるみたいだし。」

「俺も、この話を仲間にしてみるよ。村の人には言わないように伝えとく。」

 バレたらまたセドが責められるだろうし。


「ありがとうな。ま、俺は弓がそこそこできるから戦いの時は俺がチエルを助けてやるよ、……ってそういえば化け物みたいな彼氏がいたか。」


「化け物じみて強いのは確かだけど、彼氏じゃないからな。」

「言ってる間デシ。」

「そうなのか?」

「何言ってんだ、ダチュラ!」


 そんなこんなで、セドから話を聞いた俺はリヴィアと呼ばれるその人魚についても調べることになった。

 と言っても、残された時間は少ない。

 言われていた魔法術式もまだ見つかっていない。

 やる事は沢山ある。

 少しも時間を無駄にできない。



 *


 セドと1度別れて、村の方に向かうと何やら浜の方が騒がしい。


 何かあったのか?


 慌てて駆けつけると、村長に、スーバさん、他の村の人達にログやオリーブも出てきていた。

 そしてその中に、懐かしくもあまり印象の良くない男が数人部下を引き連れていた。


 アイツは、……アレックス。

 来てくれたんだな。

 でも、遠目からでも分かるほど、あまりいい雰囲気という訳ではなさそうだ。

 まぁ、ログはいつも通りニコリとスマイルを振りまいているだけだけど。


「久しぶりですね、ログ・ローズライト君。」

「うんそうだね、久しぶり。」

 皮肉たっぷりな顔で呼ばれても、ログは何でもないように適当に返事を返していた。

「相変わらず、気に触りますね。……所で、周りにいるお前達は何をしている?私は貴族なのだぞ!まずは頭を下げて平伏しろ。」


 何言ってんだ、こいつ?

 会話が聞こえる位置まで近づいていくと、そんな事が、聞こえてきた。


 すると村人達はおどおどしながらも地面に丸まり込んだ。

 え、嘘だろ?

 もちろんオリーブは興味もなさそうに、すぐ近くに干してあった昆布を勝手にとって食べていた。


「お前とそこの女も頭が高いぞ!」

 オリーブはやっぱり無視。

 する気はないけど、お前ってやっぱり俺の事だよな……てか俺アイツ苦手だなぁ。


「あ!チエル、ダチュラおかえり。トレーニングお疲れ様。」

「おかえりアル。村長の家でシャワー借りるといいアルよ。」

 俺に気づいた2人が俺のところにやってきた。

 お前ら、ちょっとはアレックスの事気にしてあげなよ。

 ちょっとかわいそうな感じになってるだろ?


「貴様等、分かっているのか?!っ、ダヴィ、こいつらを縛り上げろ!神都から正式に派遣されたこの私、三国連合隊、第1部隊隊長のアレックス・レモンポールである!この私がこの村の指揮を預かった、故に私の命令は絶対である!」


 どうすればいいのか判断の付いていないダヴィはその場で固まっていた。

 ほんと無茶苦茶だなコイツ。

 俺コイツの部下じゃなくて良かった。


 中々動き出さないダヴィにしびれを切らしてアレックスが腰に刺した煌びやかな鞘に納められた剣を抜き取った。


 え、まさか切ってくるのか?


「従えない奴は私の指揮下に必要無い。」

 そう言ってアイツはその剣を振り上げる。


 ーーん、なんだアレは?


「出たぞー、奴だ!!全員戦闘態勢に入れーー!!」


 浜の見張りをしていた男の1人が大声で叫んだ。

 その声が村中に響き渡る。


 何のことだか全く状況を理解できていないアレックス達を他所に、村の人達も俺もハッとして海の方を見た。


 昨日教えられていた、沖にある大きな岩礁を凝視した。


 ーーいた。アレが、いや、彼女がリヴィア。


 遠くてなんとなくだけど、深海のように深い青い髪と、同じ色の人魚特有美しい下半身、ーーが、ぼやっと見えた。

 2人に声をかけようとすると、すでに2人の姿はなくなっていた。

 俺達が叫び声に反応するのよりも遥かに早くに2人の体は反応し、あっという間に人魚と距離を詰めていく。

 ログは海に浮かんだわずかな漂流物を足場に、オリーブはいつも通りバカみたいなスピードで飛行してどんどんと近づいていく。


 やばい、あの2人まさか人魚を始末するつもりじゃないだろうな……。

 セドの話を思い出して慌てて俺後を追いかける。

 お願いだからはやまらないでくれ。


 ログよりも僅かに速いオリーブが、人魚と30m程の距離まで近づいた。


「…っ。ログ、オリーブまてっ!!」

「避けろ、オリーブ!」

 ログとほぼ同時に声が重なる。

 直後、人魚の真上に3mほどのゲートが開いた。

 そこからオリーブに向かって攻撃が降り注ぐ。

「っ、うっとおしいアル!!」


 オリーブが軽やかに向きを変えてそれを避けると同時に、15匹の鳥の様な魔物が姿を現した。


 その瞬間にゾッと身体を這う魔物の感覚。

 決して気持ちのいいとは言えないその感覚がまだ慣れない。


「後ちょっとだったのにネ!私の邪魔をするなアル!!」


 *


 魔物のレベルは低かったようで、ログとオリーブによって魔物は倒されゲートは消えた。


 喜んで良いのかは分からないけど、魔物が出てきた混乱に乗じて人魚も深くに潜ったようだ。

 なんであれ、今回も無事に乗り切ることができて良かった。

 村の人達もあっという間に魔物を倒した2人に集まって喜びたした。


 そんな中、がシャンと鈍い音が響いた。

 皆んなが音のした方に振り向くと、アレックスの足元にあの部下の男が倒れていた。


 な、なんなんだ?


 アレックスは誰が見ても怒りをあらわにした様な表情で、更に倒れ込んでいるダヴィを何度も踏みつける。


「お前達は何をしているんだ、私に恥をかかせたいのか!」

「も、申し訳ありません。」

「それに、私よりも目立ちたいのか知らんが、ログとそこの女、勝手な行動は慎め。この村では全員全て私の指示に従ってもらう!」


 はあ?

 いきなり来て本当に無茶苦茶だな、、。


 村人も怯えた様子でどうしたらいいのか分からないと言った感じで黙り込んでしまった。

 オリーブはイラっとしたのか、、ヤバイな、アレックスに1発入れそうな雰囲気だ。

 するとログがそれを遮る様にスタスタと前に出た。

「そうだね。アレックスの言う通り、要請を出した村の人達にはアレックスの指示に従ってもらうとしよう。……でも、僕達は協力こそさせてもらうけど、全て従うつもりはない。僕達の根本はまた別の物だからね。君とは言わば管轄が違うんだ。君に従わなければならない義務はない。」


「な、なんだと。貴様、何様のつもりだ。」

 それを聞いたアレックスの怒りが更に上昇する。


「別に。僕達もしなくちゃならない事があるんだ。じゃ、先に戻ってるから。」


 いつもの様子で行こうか、とオリーブと俺に合図したログが村へと戻り始めた。

 オリーブがフンッと鼻で笑ってログの後を付いていく。


 え、本当こいつらある意味強すぎね?

 流石に気まずい俺は、ササっと気配を消す様にその場から離れた。


 視界の端に今にも切りかかりそうアレックスを村人と部下達が宥めて抑え込んでいるの見えた。

 本当に、すみません……そう思いながら、なんだか分からないけどため息が出た。


 *


 あの後、俺達に用意された部屋へ戻った俺達は汗やら何やらを落とすために1度各々シャワーへ。


 アレックスの所為でなんだか別の疲れになっていたけど、いざシャワーを浴びて汗を落とすとサッパリした気分になるもんだ。

 何だかんだで今日も結構な距離を走った。


 足元に置いた少し水を溜めた桶の中に入っていたダチュラは、まだ昼にもなっていないのにすでにウトウトとしている。


 自分もさっと拭いて着替えてから、そんなダチュラを拾いあげて小さめのタオルに包んでからシャワー室を出ると既に部屋に2人も戻って来ていた。


「おかえり、はぁ、さっきはなんかウザかったアル。」

「アレックスはプライドが高いからね。実力があるのは確かなんだけど。」

「もうちょい物腰柔らかくなると良いんだけどなぁ。ついつい上からでって、貴族だから凄いんだろうけど、ログとかエレナを基準にしちゃうからなぁ。」

「まぁでも、出来るだけ押さえてあげて。彼もきっと隊長になったばかりで気が貼ってるんだよ。」

「ま、しょうがないアルネ。」

「大変だなぁ。いろんな意味で。」


 身体がホカホカしてるせいか、さっきの事ももうなんでもいいか、なんて軽く流せる。


 ーーっと、そう言えば2人に言わないといけない大事な話があったんだった。

 今までの事で忘れてしまいそうになっていたけど、セドから聞いた話を言わなくちゃいけないんだった。


「そう言えば、今朝オリーブに言われた魔法術式を探しに行ったんだけど、。」

「見つかったアル?」

「ごめん、まだ見つかってない。」


 また暇があったら頼むアルとそこは軽く流してくれたオリーブ。

「その途中でさ、村の、ほら、昨日話し合いの時にいた子に会ってさ。セドって言うんだけど、彼の離れ小屋に行ったんだよ。」


 セドの事を言おうとその話を切り出した途端、ログの瞳が怪しく光り出した。

「それって、ダチュラの言ってたチエルを殺りかけたって子?」

「そうデシ!」

「殺り、殺りかけたって。」


 その度にログの肩がピクピクと反応して震えだす。

「ヤり、かけた?……離れ小屋?」


 小さい声でボソボソと呟き出したログに気がついて大丈夫か?と声をかける。


「……チエルどう言う事?」


「は?」


「チエルは自分がヤられかけた男の所に、しかも僕達の知らない様な離れ小屋に2人きりでいたって事?!」


 こいつ、また変な方向に考えてんな。

 めんどくさくて黙っていると、ログがすっと立ち上がった。

 ど、どうしたんだ?


「ーー殺す。あのガキ殺す。僕の忠告を無視したんだから、当然だよね。」


 え?!

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっとまて、落ち着けよ!一回ちゃんと俺の話を聞いてくれよ!!」

 俺は慌ててログの足にしがみついて止める。

「前にね、ノウチ博士に聞いたんだよ。」

「……な、なにを?」

「仏の顔は1度までってね!」


 な、なんの話?


「……使い方間違ってるアル。それに仏の顔は3度までアル。」


「なっ、、。でも、僕の顔は1度までだ。」


 そう言って部屋を出て行こうとするログをなんとか引き止めて、俺がこの話をできたのはその10分後。


 こんな時間のない時に、俺は一体何をやってるんだろう。


自分で書いてても、だんだんと話がややこしいところがあるので、分かりづらいと思ったら本当にすいません。

二章はそろそろ中盤です!

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