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クロスワールド  作者: えりぞう
第2章 歌をなくした人魚
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贈り物


「う、嘘……。」


 目の前に広がる砂浜の先、綺麗な海のど真ん中、禍々しく開くその巨大なゲートに、俺達は言葉を失った。

 ダチュラも驚きすぎてパリッと肩から剥がれるように地面にポトリと落ちた。

 流石のログもオリーブも目を見開いたまま、固まっている。

 おじいちゃん博士はもしかするとショックで死んだんじゃないか?全く動かない。


「私共も初めて目にした時はショックで言葉も出ませんでした。」

「い、いや、アレは……ゲートですよね。」

「はい、十中八九ゲートでしょう。」


 ……で、ですよね。


「ちょ、ちょっと待つアル!さっきの話しの流れでいったら、推測するにあのゲート30m以上はあるネ。」

「はい。」


 はい、じゃないだろ?!

 え?こんなの聞いてない……。

 え?ちょっとまてよ、さっきの話からすると、もしこの穴から魔物が一斉に出てきたとすると、いきなり300近い数が来る事なるんじゃ、、。


「あのゲートは3日前、突如あの場所に発生しました。ゲートの縁をを見てください。渦が吸い込まれるように縁が波をうってるのが分かりますか?我々が今まで確認したゲートは全て綺麗な円形でした。まだあのゲートから魔物は出てきておりません。おそらくまだゲートが完全ではないのでしょう。…………アレがもし開いて魔物が出てきたら、村は、村は全滅です!ど、どうか!どうか我々の村をお救いください!!!」


 泣きそうな声で、スーバさんは地面に頭を擦り付けた。


 気持ちは分かるけど、、。

 こんなのもう、村を捨てて避難ぐらいしかできないんじゃないのか?

 せめて命があれば、何とかやり直せるはずだ。


 ちらっとログの方を見ると、無表情でスーバさんを見下ろしていた。

 ……アイツ、まさか見捨てる気じゃないだろな?


 すると、ログがーーはぁ〜、と大きくため息をついて、そして俺の方を見てからニコリと笑った。

「……我々も任務ですから、やれる事はやりますよ。」

「おぉ、ありがとうございますっ。」

「良かった。」

「ログもたまにはいいこと言うアル。」

「俺様も役に立つデシ!」

「取り敢えず、いつゲートが開くのかも分からない以上、無駄な時間を過ごすわけにはいかないからね。明日にはアレックスが援軍連れて来るだろうし、それも踏まえてもう1度情報を整理しよう。」


 自分にできる事は限られてるのは分かる。

 ぶっちゃけ言いたくないけど村の人より俺は弱い、それに次こそ死ぬかもしれない。

 でも、ログが村の人を見捨てないでいてくれたことがこの時は本当に嬉しかった。


 少しでも、無意味に死んでいく人がいなくなるようにと思いながら、俺は砂浜を後にした。


 今はまだ、それが残酷なほど甘い考えだなんて気づきもしないままで。



 ***



「アレックス様、第1部隊出発の準備が整いました。」


 副隊長のダヴィ・トルムにそう声をかけられたアレックスは窓から見える神都の最奥の城に目を向けたまま、静かに返事を返した。

「……そうか。」


 隊長に任命されて、初めての任務。

 怯えているわけではない、これはただの通過儀礼でしかないのだ。

 自分が、誰よりも上に立つための。

 時代は魔物との戦乱の真っ只中。

 どうすればより認められ、上に行けるのかは考えなくても分かる事だ。

 より多くの功績を残し、上へ上るための足掛かりにしなくては。



「……クックック。」


「ア、アレックス様?」


 想像するだけで、自分の思い描く未来が、来るべき未来が見えてくる。

 自分は小国貴族なんかで終わるつもりは毛頭ない。

 いずれはデカイ顔をする大国をも支配下に置いてみせる。


 そうすれば、きっと、ーーあの人も私を認めてくれるだろう。


「なんでもない、ではすぐにでも出発しましょう。」


「はっ、それとたった今、チカカのエレナ様より、我々の目的守護地にログ・ローズライト様一行を同時派遣したとご報告がありました。」


「なんだと?!」


 ヤツがいるのか、、でも、あぜあの土地に?

 これも極秘任務と言うやつなのか?

 まぁ丁度良い、すでに隊を指揮する権利は私が持っている。

 何事も、力尽くでねじ伏せればいいのだから。

 皆、私の踏み台となればいいのだ。

 私の方が優れていると、選ばれた人間であると証明してやろう。


「まぁ、良いだろう。良いように使ってやるさ、ログ・ローズライト!」


 ***



 村について一晩越した早朝、俺はダチュラと村の周りを走り込みがてら散策していた。


 1度覚えた魔法の感覚は忘れなくても、トレーニングしなければ普通に体力は落ちる。

 本来ならば1度増えた魔力量は減る事が無いらしいけど、何故だか俺はトレーニングをサボれば少しずつだが魔力量も減ってきてしまう。

 これはもう、魔法を使うなって事か?

 向いてないにも程があるだろ?

 なので任務先でもこうやって走り込みやら素振りをして鍛えてるわけだ。


 昨日、浜から帰った俺達はそれぞれの持っている情報や、戦力についての見直し、戦いに備えての物資の調達、その他諸々について再検討した。

 それもまだ援軍が来る前の仮合わせのようなものだけど。

 オリーブがゲートを調査したところ、現実はやはり甘くないようで、ゲート完成まで早くて3日と言っていた。

 つまり、早くて明後日にはゲートが開いて大量の魔物が出てくることになる。

 すぐ近くに迫ってる、恐怖に体の震えが止まらなくなる。

 でも、出来るだけ誰も死なせたくない。

 もう、ばあちゃんみたいな人を増やしたくない。

 そう考えると、やっぱり居ても立っても居られなくなってこうやって朝も走り込みに来たのだ。


 それと、後もう1つ。

 昨日オリーブに言われた事があったからだ。


 ーー

「チエル、ちょっと来て欲しいアル。」

「ん?どうしたんだ?」

「お願いがアルネ。空いてる時間でいいから、少し調べて欲しい事があるアル。」

「調べて欲しい事?お、俺に出来るかな?」

「時間もあんまりないし、そんなに重要な事でもないから気張らなくて良いアル。……実は、さっき魔物と戦った時だけ、この村全体に弱い結界が貼られていたアル。」

「結界デシ?」

「そうアル。魔物の侵入を僅かながらに阻害して、少し弱体化もさせてたアル。でも、村の人に誰がこれを張ってるのか聞いても誰も知らなかったアル。村長さんもこの事を知らなかったネ。村に人が張ってないとすると、外敵の侵入に合わせて発動する様に魔法術式が誰かによって設置されていた可能性があるアル。見つけられたら戦闘の時にその魔法術式にさらに強力なものを組み込んで防御結界を展開する事が出来るアル。術式の基盤ができてるから少量の魔力で組み込む事が出来るから一石二鳥ネ。あるとすれば村の近くに必ずあるはずだから、時間がある時に散策してそれを探して欲しいアル。」

「任せるデシ!!」

「うん、それならやってみるよ。」


 ーー


 そんな訳で、俺はその結界の魔法術式がないか、村の周辺を走りながら探してた訳だ。

 これを見つけることができたら、きっと戦闘に役立つと思う。

 そんなに戦力に数えられない分、これを見つけて少しでも役に立ちたい。


「なぁダチュラ、長い間生きている村の人が知ないとすると、その魔法術式って誰が何のためにしたんだろ?」

「もっと、ずっと昔の人じゃないデシ?寿命が長いって言っても、生きて250年とかって村長が言ってるのを聞いたデシ。部外者を入れない様に張ったんじゃないんデシ?」

「そうなのかなぁ。なんか俺、この村よく分からないなぁ。様子とか見ててなんか違和感があるんだよなぁ。ほら、あの昨日話し合いの時にいた奴とかさ。なんかこう、、目が合わないって言うかさ。」

「そうデシ?俺様は別にそんな事思わなかったデシ。」

「俺の考え過ぎかなぁ。」

「まぁ、一応チエルの事殺しかけてるから、気まずいんじゃないデシ?って、チエル、話をすればデシ!」


 村の周りの森をざっと走り終わってもうすぐ村に着くところで、ちょうど話してた昨日のアイツが村に向かって歩いていくのが見えた。


「チエル、せっかくだからつけてみるデシ。」

「え?!つけんの?そのまま話しかければ良くない?」

「チエルの言ったとうり、なにかあるかもしれないデシよ。それに気配を消す練習もしといた方が良いデシ。」


 なんか、コイツに言われるのシャクだなぁ、、なんて思いながら、まぁ頃合い見計らって話しかければ良いかと俺はサッと気配を消した。



「あそこ、アイツの家かな?」

 村に入るのかと思いきや、ホールのある海岸側へ歩いていったアイツを追いかけてきた俺達は小さな小屋の前まで来ていた。

 昨日はホールに目がいってここの小屋のことは気づかなかったな。

 村の崖を挟んで反対側の岩場に隠れる様に小さな小屋が建てられていた。

 海に対してギリギリの位置に建てられてるから入り口前の板を踏み外したら海にドボンだ。


 こっちに1人でなにしに来てるんだろう。

「中の様子は見れないデシ?」


 ざっと見てみたけど、入り口以外に中を覗ける窓はなさそうだ。

 取り敢えず聞き耳を立てて中の様子を探ってみる。

 って言うか、俺は一体何をしてるんだ?


 ガンッ、ガンッ!!


 いきなり何かを叩く様な大きな音がなって思わず足を滑らせそうになった。


 び、びっくりした……。


「チエル、しっかりするデシ!俺様水は嫌いなんデシ。」

「しょうがないだろ?いきなりあんなでかい音鳴ったら誰だってびっくりするよ。」

「こんなんじゃバレるデシ!」


「……もう、さっきからバレてんだけど。」


「「……え?」」


 *


「んで、術式を探しがてらトレーニングしてたら俺を見つけて、小屋の外でコソコソしてたって訳か。」


「まぁ、尾行っていうか、気配を消す練習も兼ねてたってだけでコソコソする気はなかったんだよな。ある程度たったら普通に声かける気でいたし……。ごめんなさい。」

「こんな所に篭って1人で何かやってるのも紛らわしいんデシ。だから俺様達に目をつけられるんデシ。」

「コラ、ダチュラ!お前も謝っとけよ。」


 本当にこの虫は……、付き合いも長いんだから、そろそろちょっとは空気よんでくれよ。


「いや、別にいいさ。お前、……チエルって言ったっけ?昨日の事もあるし、俺こそ、昨日はついつい早とちりして本当に悪かったな。」

「まぁ、こうやって生きてるし。任務に出た時点である程度は覚悟してるから別に気にしてないよ。えーっと、、。」

「俺はセド。ルー・セドだ、よろしくな。」

「こちらこそ、よろしくセド。」

「ダチュラデシ。」


 こうして、1日かけてようやく俺とセドはまともに話をした。


 セドの話によると、昨日門の警護をしている時に村に魔物が現れたという情報が入ってきて、警護を強化する様に言われたらしい。

 その後すぐに、ものすごい速さで女の子が上空を飛んで村の方に行ったもんだから、もしかしたら魔物の類かもしれないと勘違いしてしまったんだとか。

 それで、その後すぐに来た俺達もその仲間と思ってあんな態度を取ったんだとか。


 普通女の子があんな速さで空飛ぶか?!なんて瞳孔ガン開きで言われたら、すいませんでしたーーとしか言いようがない。

 普通に考えたら普通じゃないもんな。


 あと、ログにはあの時物凄い顔で、「次、僕のチエルにその矢向けたら村ごと皆殺しにするから。」と脅されたらしい。

 少しでも俺の方に目を向けるだけで、軽く殺気を放ってくるから昨日は恐ろしくてまともに顔が上げられなかったんだとか。

 な、なんと不憫な。

 そしてログの奴とは1度、物事の加減について話をしなくてはいけないな……と思った。

 後、俺はお前の物じゃない。

 お前…早く別れた方が良いぜーーとか言われたけど、そもそも付き合ってないからって言う俺の主張はセドに簡単に流されてしまった。


「……所で、セドはこんな所で一体何やってたんだ?」

 さっきの音といい、昼寝でもしに来た雰囲気ではなさそうだ。


「ま、隠した所で今更だし良かったら見るか?」

 そう言ってセドは小屋の中に俺達を招き入れてくれた。


 小屋の中は蒸し暑くって、漁の時に使う道具やら、干した魚や海藻なんかが吊られてあった。

 一室しかないその部屋の奥の作業台まで来たセドは、そこに置いてあったものを手にとって俺に見せてくれた。


「これは?」

 見た感じ女性が身につけそうなアクセサリーみたいだ。

 綺麗な貝やガラス、サンゴなんかを磨いて作った物だろう。

 セドが作ったのか?と、セドの雰囲気に反する可愛らしいものに、ついつい疑問詞が出てしまった。


「首飾りだよ。」

「い、いや、それは分かるんだけど。これ、セドが作ったの?凄い綺麗で可愛いんだけど。」

 するとセドが嬉しそうに、それでいて少し照れたように下っ鼻をかいた。

「だろ?村ではさ、男はみんなを守るために強くいなくちゃならないんだよ。俺は、なりこそこんなんだけど、戦いが嫌いだ。運良く目が良かったおかげで、人より弓が扱えたから、村でもなんとかやってるけどさ、これ作ってる方が俺は俺でいられる気がするんだよ。」


 俺はセドの人柄を見誤っていたのかもしれない。

 嬉しそうに首飾りを見つめるセドの顔を見てると、コイツはいいやつなんだって事がひしひしと伝わってくる。


 見ると、他にもアクセサリーが机の上に置かれているので、手に取って見てみる。

「俺も欲しいなぁ。」

「ごめん、男に作ってやる趣味はないんだ。」

 お前まさか、というような冷たい目を向けるセドに俺は慌てて言い返す。

「違うわ!……俺の村に妹みたいな子がいるんだよ。こんなのあげたら凄い喜ぶだろうなと思ったんだよ。」


 ……驚かせるなよ、と1人勘違いをしてたセドが机の上を漁り出した。

「分かった。じゃあ、お前がこの村を出る時までに作っといてやるよ。」

「自分で言っといてなんだけど、いいのか?ありがとう、すっごい喜ぶと思う。」

「当たり前だ。」


「所で、さっきの音は何だったの?あのガンッ!って音。」

「あぁ、あれは魚の骨を砕いてたんだよ。硬い骨ほど綺麗に加工できるんだよ。」

「それで、あんな音がなってたんデシね。」


 なるほどな。


「それにしても、村の人に内緒にしてるって割に、1つ1つのパーツが凄い凝ってるな。まるで、誰かに送る贈り物みたいだ。」


 手に持ったアクセサリーを返そうと、セドの方を見ると、目があったセドがギクッとしたように身じろいだ。


 え?まさか、彼女へのプレゼントとか?

 図星、図星なのか?

 べ、別にひがんでるわけじゃないぞ。


 しばらく黙っていたセドが、はぁと大きくため息をついた。

 いや、別に白状しろとは一言も言ってないからな……。


「チエル、お前その目やめてくれ。」


 え?何のこと?


「なんか、チエルは抜けてそうな雰囲気なのに、目だけは人を見透かそうとしてるみたいで、正直最初から怖い。」

「え?!俺そんな目してる?全然そんなつもりはないんだけどな。」

「無自覚でやってんのか?じゃあ、まぁしょうがないか。」


 しょうがないか……って言われても、俺もどうしようもないしなぁ。

 てか、そんな風に見えんの?


 セドはアクセサリーを机に置いてその前に置いてある椅子に腰かけた。

 表情がさっきよりも僅かに重い気がする。


「チエル、これから話すこと村の皆んなには言わないでくれ。いや、せめて、この戦いが終わるまでは……。」


 さっきまでとは違う真剣な眼差しに、俺はただ黙って頷いた。


「良いのかよ?そんなあっさり頷いちまって。やっぱチエルは優しい奴だな。さっき言ったよな、これ、誰かへの贈り物みたいって。……その通りなんだ。これは、俺がリヴィア……あの人魚に贈るために作ってる物なんだから。」

最近お絵かきアプリをとったのでこの小説のキャラなんかを描いてpixivにでも載せようかなぁ〜と考えております。

まだ、考えてるだけなのですが。

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