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クロスワールド  作者: えりぞう
第2章 歌をなくした人魚
45/50

グナデ村

 

「……ず、ずるい。」

 船室の端でうずくまってるログのその言葉をもう何回聞いただろう。

 完全に俺に対して発せられる言葉なだけに、おじいちゃんもオリーブも知らん顔で、もはやフル無視を決め込んで自分の用事をこなしていた。


 俺が船に乗る前に頼み込んだおかげで、今乗っている船は魔力を動力として走る魔動船で、ネッシー船よりもはるかに快適に目的地に向かっている……はずだった。

 はずだったけど、……俺がエレナにほっぺにキスされてるのを見てから、ログがずっとあんな感じだ。

 正直そろそろうざい、ってかめんどくさい。

「何言ってんだよ。子供のした事だろ?お前も大人になれよ。」


「だ、だってさ、エレナだって後10年もすれば大人になるよね。それに、僕の時はガッツリ拒んだくせに。」


「お前、……当たり前だろ?!」

「酷いよ〜。」

 こんなに年の近い野郎からいきなり迫られて拒否らないやつを逆に見てみたいね!

 ましてや俺たちは恋人でも何でもないからな。

 だから、いくら拗ねられても、じゃあお前もどうぞ!なんて言ってやる心広いサービス精神はもちろん俺にはない。


 あー、はいはい……なんて適当に言って、俺も無視を決め込むことに決めた。


「ところで、オリーブ達は何をやってんの?」

 何やら文書を確認しだした2人の元に入り込む。

 何やら頭の痛くなりそうな文書を片手に、オリーブが難しい顔をしていた。


「グナデ村からの通知文書を確認していたアル。ちょっと気になる事があるネ。」

 そう言って文を指差しながら、オリーブがそれを読み上げた。


「簡単に訳すと、黒い穴を通して魔物が現れ村を襲っている。最初は小さな穴から数体。しかし、時を重ねるごとに穴は大きく深く、魔物の数も増えてきている。我々は魔物の現れるその穴を“ゲート”と名付けた。これは人魚の祟りだ。故に、その元凶たる人魚と魔物の討伐を依頼する。と、書いてあるネ。」


「ゲート……そんなものはワシも色々調べてはおるが聞いたこともない。それに、この文面からすると、その穴を発生させて魔物を呼んでいるのが人魚じゃと?そんなはずは……。」


「それに、この人魚の祟りってのも気になるアル。討伐を依頼するなんて今まで人魚を祀ってた様な村とは思えないネ。何があったかよく調べる必要があるアル。」


 確かに、初めて聞く様な情報に、噂と矛盾する文書。

 もしこの文書が本当ならこの人魚を捉える事が出来れば魔物の侵略を大幅に阻止する事ができるし、もしかすると向こうの世界にそのままいけるかもしれない。

 なんだか、そう上手くない様な気もするけど。

「とりあえず、行ってみるしかないか……。」

「もしこのゲートがあっちに繋がってるとしたら……思いのほかビンゴかもしれないアル!」

 幸先の良いと言って良いのか分からないけど、無駄足な旅にならなさそうでオリーブも嬉しそうだ。

「もうそろそろ、グナデ村の領土に入る頃じゃ……。」

 おじいちゃん博士が船の窓から外を覗き込んだ。



 ーーん?


 何か外の方からなんかプレッシャーを感じる様な……。

 今までいじけていたログも飛び起きて、窓から顔を出した。

「オリーブ!」


「分かってるアル!」

 オリーブは目を閉じて何かを探っている様だ。

 その間もさっきのプレッシャーはどんどん大きくなってくる。

「ログ、なんなんだ?このプレッシャーみたいな感じの……。」


「チエルも分かったんだね。その感覚が魔物特有の魔力波だよ。」


 こ、これが、魔物を感知する感覚。

 おおぉ、俺ちゃんと感知できてる!


「船から10時の方向、約2キロの位置に魔物10体を感知アル。」

「ちょうど村のあたりじゃ。」

 地図を広げた博士が叫んだ。

「いけそうかい?」

 ログが目線を送るとオリーブはニカリと笑った。

 ……嫌な笑顔だなぁ〜。

「余裕アル。先に行って様子見がてら始末してくるから、ログは皆んなを守りつつ追ってきてくれたら良いネ。」

 そう言うと返事も聞かずに、窓から飛び出して飛んでいってしまったオリーブ。


「え?!だ、大丈夫だとは思うけど、本当に大丈夫だよな?」

 見るとログも、おじいちゃん博士もゆっくりと腰掛けて座り出していた。

 ログはともかく、おじいちゃんも以外と切り替え早いな。

 ダチュラに限っては騒動に気づきもせずに寝っこけたままだ。

 もう窓からオリーブの姿も見えない。


「大丈夫。オリーブはよっぽどじゃない限りむやみに突っ込んでいったりしないから。それに、感じ的に……レベル帯も50〜60って所かな?雑魚ってわけじゃないけどオリーブなら問題ないレベルだね。それに、2人を連れて行くには時間がかかるし、オリーブに行かせるのが今のところ最善じゃないかな?」


 ……ま、まぁ、そんなんでしょうけど。

 足手まといですいません。

 俺が心配するだけ、無駄無駄ってわけですね。


「ふふ、オリーブは強いからね。ところでチエル、一応村に入る前からこの任務が終わるまで常に弱くて良いからアーマーを発動させておいて。僕達がいるときはまぁ良いけど、もし1人で行動する事があれば感知魔法も発動させて特に、魔力切れだけは気をつけて。」


「わ、分かった。」

 いよいよ、任務って感じだな。

 出来るだけみんなの邪魔にならない様にしないと。

「博士も基本は僕かオリーブと一緒に行動をお願いします。」

「分かっておる。」


 久しぶりに緊張するこの感覚。

 荷物をまとめながら、俺は体に薄く纏う感じでアーマーを発動させた。


 *


 村の近くの安全に降りられそうな場所に船を寄せてもらって、そこから村があると言う方向に俺たちは森の中を進んでいた。

 海辺の村とかって聞いたから船から降りたらすぐにあると思っていたのに森の中を進んで、もう随分と来た気がする。

「なかなか、はぁ、遠いなぁ。」

 魔物がいると分かってる以上、のんびり歩いて行く事も出来ず、俺たちは走って村を目指していた。

 ログがおじいちゃんをおぶって、俺がその荷物も持つ感じで。

「悪いのう。」

「いえいえ、大丈夫です。でも、もうそろそろだと思うんだけど……。」

 体力のあるログとは違って俺の貧弱な体力が尽きかけた頃、森の小道の先に木を組んで作られた門が見えてきた。


 や、やっとついたか? と、思った時に急に前を走っていたログが立ち止まって俺の顔の前に手を出してきた。


「うえぁっ゛!」

 な、なんなんだ急に!?

 俺は情けない事に、ひっくり返って尻餅をついた。


「いててて、ちょ、ログ急に止まるのは……」


 下から見上げてログを見ると、物凄くキレた様子で門をにらんでいる。

「ロ、ログさん?……って、ぇぇえ!?」

 ちょうどログが俺の顔の前に出してきた手にガッツリ矢が握られていた。

 え?どゆこと?これ、矢だよな……。


「いきなり、撃ってくるなんてどうゆう事だい?僕達は君達の村の要請を受けて正式に派遣されてきた者だ。場合によっては、これは許すことのできない行為だよ。それに、いるのは分かってるから先に出てきてくれないかな?それとも、無理矢理にでも僕が引きずり出そうか?」


 言い方こそいつものログだけど、声のトーンからだいぶおキレになってらっしゃる事が分かった。

 てかこれ、さらっと受け止めてるけど、普通なら俺もう、死んでたよな……。


 すると門の陰から弓を構えた1人の青年が出てきた。

 俺達と似たような年齢のソイツは、怯えたような瞳を向けながらもその弦を引いた指を緩めることはない。


「そ、そこを動くなっ!!」

 ログに睨まれたそいつは、ビビりながらも震える声で威嚇するように叫んだ。

 まぁ、そりゃ撃った矢を素手で止められたらビビるよな。


 それにしても一体なんなんだ??

 村の人みたいだけど、とりあえず弓を引いて話を聞いてもらわない事には中に入る事も出来なし、、。

 中にはオリーブもいるだろうし。


「ちょ、ちょっと落ち着いて話を聞いて……、」

「黙れ!許可するまでは口を開くな!」

 そう言って俺に弓先を向けた瞬間ーー目の前にいたはずのログが、荷物と博士を残して俺の視界から消えた。


 あぁ〜、ご愁傷様です。

 うっ、と唸って倒れ込んだソイツを見て、話を聞かないからだな、と哀れんだ目を向けた。


「な、何が……。」

 ソイツが何が起きたかもわからず、地面でお腹を押さえて唸った。


 ……だろうな。

 普通の人にはログの動きなんてほとんど見えないよな。

 もちろん俺も見えてないけど。

 多分ログがアイツのお腹に1発入れたのだろう。


「だから落ち着けって、俺たちはお前らの敵じゃないし、ちゃんと正式に派遣されてきたんだって。さっきもログが言っただろ?紹介状だってあるし。」


 俺がリュックの中に入れた紹介状を探していると、視界の端にいたログが倒れたソイツの矢筒の中から1本の矢を取り出して握りしめた。

 そしてソイツに向かって矢を突き立てるように振りかぶった。


「えっ、ちょっ、ログ待て待て待て!」

「ひっ……。」


 え?ちょ、嘘だろ?!

 いくらなんでもそこまでしなくても……!!

 ってか、ログのやつキレすぎて目がいってる。


「ひぃいい!」


 リュックを放り出して走り出すけどログの方が遥かに早い。

 視界の先でログが振り上げた手をソイツに向かって勢いよく振り下ろすのが見えた。

 くそっ、間に合わない……。



 ーー怖くて瞑った目をゆっくりと開けてみる。


「へ?」


 そこにはいつも通りニコニコとイケメンスマイルで立ってるログと、死んだような顔はしてるものの、壁にもたれかけて座り込んでるソイツがいた。


「大丈夫だよチエル。任務のこともあるし、こんな所で無茶はしないよ。ね?」

「はい!そうです!その通りです!僕が全て悪かったです!」

 ログの問いかけに対して過剰なまでの反応をするソイツが気になったけど、生きてた事にホッとする。


 それにしても、ログのやつ何したんだ?



「到着しておられましたか!」

 門の奥の方から声がしてさらに数人村人らしき人がこちらに駆け寄ってきた。

 座り込んでるソイツを見て、1番前を走るあご髭を生やした体格のいいおっさんがホッと息をついた。

 黒く焼けた肌に鍛えられた筋肉が眩しい。

 合図すると、その後ろにいた若い2人が、座り込んだソイツを肩に担ぐ。


「いきなり失礼いたしました。私このグナデ村で村長の補佐をしております。スーバと申します。オリーブさんの仲間の方で合っていますかな?」


「ええ、そうです。」

 ログがニコリと答えた。


「おお、良かった。それにしても、うちの村の者が何か失礼をいたしませんでしたでしょうか?ちょうど村に魔物が攻めてきておりましたので怪しいものは村に入れるなと、ここの門番に伝えておりましたゆえ。」

 と、スーバと名乗った男はソイツの様子を見て、何かしたのだろうと申し訳なさそうにこちらに聞いてきた。

 確かに、俺たちは一応貴族の紹介で派遣されてきた事になってるし、何かあれば支援が断ち切られるかもしないと考えるのは当然かもしれない。

 まぁ、死にかけたけど。


 ログが俺の様子を伺ってきたから、俺は別にもうなんとも思ってないよと、両手を振って合図する。

 まぁ、そりゃ魔物が攻めてきてる時に俺たちが来たら怪しむのは当然だろうしな。


「いえ、大丈夫ですよ。話をしたら彼も分かってくれたようなので。」と、ログが返事をすると、スーバさんは胸をホッとなでおろして一言、申し訳ないと言った。


 一応確認の為に紹介状を渡した俺たちは、その後すぐに村に通してもらえる事になった。

 門をくぐって森を抜けると、崖に囲まれるようにしてのどかな村が広がっていた。

 メンドシーノの砂浜よりも磯の香りがとても濃い。

 オレージー村よりも少し広く感じるその村は建物なんかをざっと見て100人ちょっとぐらいの村だろう。

 村の両端を崖で囲まれて、村の入口側が、森、村の奥には砂浜と海が広がっていた。

 これだと海側からしかこの村は見つけることができないだろう。

 村の入り口から見える狭い海を見た時に、沖の方にせり立つ岩礁がぶつかった波を高く巻き上げているのが見えた。

 砂浜には何隻もの小舟が置かれていていたけど、見た感じあまり漁に出ていないのか大量の荷物なんかが置かれていた。


「おーい。」

 急いで案内された村先の砂浜からオリーブがこっちに手を振ってるのが見えた。

 そのほかにも武器を持った村の男たちが何人か立っている。

「な、もう全ての魔物を倒したと言うのか?!信じられん。」

 砂浜に倒れる鳥型の魔物とオリーブを見て、スーバさんが驚いた声を上げた。

 そのほかの村人達も信じられないと言う顔で倒れた魔物の周りに集まっていた。


 信じてたけど良かった、無事だったんだな。

「良かった、怪我してないか?」

「オリーブ様にかかればなんて事ないアル。」

 ニコリと笑ったオリーブは確かにかすり傷1つなさそうだ。

 そんなオリーブにログも微笑んだ。

「お疲れ様、所で、、、ありそうかい?」

 ありそうって、何が?と思ったがオリーブがさらに悪そうな顔で笑ったので俺はそれがいい事であるように祈った。


「皆様、こちらへどうぞ。村長のニーセンがお待ちです。」

 日によく焼けた褐色肌の可愛い女性が俺たちに声をかけてきた。


 彼女についていくと、村で一際大きな建物の一室に俺たちは案内された。

「こちらのお部屋です。」

 案内された部屋は畳敷きで、天井と横壁の隙間に陽の光を取り入れる小窓がついた、この村からするとなかなか上品な部屋だった。

 きっと来客用の一室なんだろうと、部屋に置かれた室内装飾を見ても思う。

 そこそこ広さはあるから俺たち4人(と1匹)と、スーバさん、それからログに殴られたソイツが真ん中に置かれた大木を輪切りにしたようなテーブルを囲んでもそんなに圧迫感は感じない。

 それにこの場に来るってことは、ログに殴られたアイツも村ではそれなりの立場ってことなのか?

 それにしても、椅子じゃなくて直座りな所がリラックスできて、俺的にはいい感じだ。


 出されたお茶を飲んでいると、横開きの扉がゆっくりと開いた。

「……皆さん長らくお待たせして申し訳ない。」

 彼女に手を引かれて、地面に着きそうなほど伸びた白ひげを生やした仙人の様なおじいちゃんが入ってきた。

 スーバさんとソイツが頭を下げる。


 おぉ、これがもしかして200歳ごえの村長さんか?

 確かに、俺の隣にいるおじいちゃん博士が若く見える……。


「皆さん、遅くなり申し訳ない。なにせ、この身体で長らく床からも出ておらんかったでのう、用意に時間がかかりました。私がこの村の村長、ニーセンです。」

 そう言って村長はシワの深く入った手で長い髭を撫で上げだ。


「はじめまして、ウィルラベンダー家の当主より命じられてきました、ログ・ローズライトです。そして仲間の、オリーブとチエル。特別研究員のシーバル博士です。」

 ログが順に俺達を紹介してくれる。

 こんな時、スラスラ言えるログは頼りになる。


「シーバル、何処かで聞いたことのある名前じゃ。」

 おじいちゃん博士の名前に村長がうーむと考え込む。

「私は長い間、人魚について研究を続けております。以前その研究の一環でこの村にきたことがありましてのぅ。」

 そう言えばこの村に来たことあるって言ってたもんな、おじいちゃん博士。


「おお、そうでしたか。その節は申し訳なかった。なにせ、この村にも守らなければならない掟があったのじゃ。本当に申し訳なかった。」

 そう言って村長は博士に頭を下げる。

 同席する2人も申し訳なさそうに下を向いた。

「その事も踏まえて、詳しく事情を聴きたいアル。」

 オリーブが食い入るように話に身を乗り出した。

「彼女は、オリーブさんと言ったかの?」

「彼女は先ほど出現した魔物10体を1人で全滅させたほどの実力者です。我々にはもう手の負えない程の相手にもかかわらず、一瞬のうちに……。」

 スーバさんが村長にオリーブの事を説明する。

「おぉ!そうでしたか!それは本当に助かりました。なんとお礼を言っていいか……。」

「いえ、我々は与えられた任務をこなしたまでにすぎません。彼女の言う様に、その掟や、こちらに送られてきた文書、それからこの村の現状について説明していただけますか?」

 ログが村長の目を見ると、村長は意を決した様にゆっくりと話しはじめた。


「……あなた方は、この国の管理者であるエレナ嬢は、今まで国に非協力的な態度を示し続けてきたわしらの村に対しても、尊重した態度を示してくださった。今まで、この村で隠していた秘密について、全てお話しさせていただきます。……まず、先程博士にも言っておったこの村の掟についてじゃ……。」

「村外の者は村に入れてはならない、アルネ。」

「そうです。噂で1度は聞いたことがあると思いますが、この村は人魚の加護を受けし村だったのですじゃ。」

「……だった、とは?今は違うと言うことですか?」

「…その通りです。この村ははるか昔、この周辺の海に住み着いた人魚と契約を交わしその加護を授かりました。人魚は我々に決して病むことのない体と、常人とは違うはるかに長い寿命を与えて下さった。その代わり、わしらは海の幸などを定期的に奉納し、人魚を守るためこの村に村人以外を決して近づけないことを約束したのじゃ。今は必要無くなったが、どうしても村外の者が来る時は、人魚から渡されたと言われるこのサンゴを身につけてもらうことで、一時的に村人として村に入る事を許されたのじゃ。」

 そう言って村長は淡く海色に輝くサンゴのカケラを机の上に置いた。

「エレナ嬢の話では、国にも無断で入村を試みた者が皆死んだと聞きましたのじゃが……。」

「……そうですか。そこまではわしも存じ上げてませんでしたが、村の若い者の中で、掟をやぶり村によそ者を入れる手引きをした者がいたのです。急に倒れ、床に伏せたものですから問い詰めた所、よそ者を入れる手引きしたと泣きながら言っておりました。わしらはその後人魚に頼みに行きましたが人魚は現れず、彼は苦しみながら最後はカラカラに干からびて死んでいきました。」

「そ、その様なことが……。」

「……こんな事があっては、国に相談も出来ず、掟さえ守れば犠牲者も出ないと、この掟をずっと守り続けてきました。……しかし、ここ数ヶ月なぜか魚も貝も幸が取れなくなり、私達は人魚に供物を捧げることができませんでした。……そして1ヶ月前あの穴が現れたのです。」

 穴?あの報告書に書いてたやつか?

「……穴、ホールと書かれてたものアルか?」

「すでに、読んでいただいてましたか……。そうです。我々はあの空間に空いた深く暗い穴のことをホールと呼ぶことにしました。そして、魔物はそのホールから現れる様になったのです。」

「さっき、オリーブさんが来てくれた時にも海側にホールが開いていましたが、気づきませんでしたかな?まぁだいぶ沖の方でしたから。」

 スーバさんがオリーブに尋ねた。

「私とした事がそれには気づかなかったアル。ちょっと待つネ、録画データを確認するアル。」

 オリーブは目を閉じて集中する。

「…………あったアル!多分これが、ホール、。貴重なデータアル。」

 え?めっちゃ気になるんですけど。

 それにしても、忘れた事もどうにかして記憶して引き出せんの?

「それ、僕たちに見せれる?」

 ログがオリーブに尋ねる。

 流石にそんな事は……。

「今それ用にモードを切り替えてるアル、ちょっと待つネ。」

 ……出来んのかよ。

 そのやり取りをスーバさん達が不安げな表情で見ていた。

 まぁ、意味わかんないよな。

「準備完了アル。」

 そう言うと、オリーブの目から光が出て、オリーブの見ていた戦闘風景を俺たちの前の空間に映像として映し出した。

 オリーブの剣が最後の1匹を切り裂いた後、海側の空中に黒い穴が確かにあって、スーッと消えていくのが映っていた。

「こ、これはすごい。」

 流石に村長達も口を開けてびっくりしていた。

 それにしても、これがホール。

「間違いなく、それがホールです。大きなホールほど魔物が多く通れるようなのです。」

「正確には難しいアルけど、近くにある岩礁と比較すると、今回は1m前後のホールアルネ。」

「じゃあ、1mで約10匹。」

「ですが、大きさの割に数が少ない時もあってその時は魔物が他の時と比べて強く感じました。それに、最近でるホールは小さいものでも、だんだんと魔物のレベルも上がっているし、数も増えてきているのです。」

 スーバさんが説明を付け足した。

「確かに、この村の方もそこそこ戦闘できる様ですが、高い方でもレベル50程。そろそろ押され始めたわけですね……。それでエレナに。」


 ……お前、そこそことか言うなよ。

 俺よりよっぽど強いじゃねぇか。


「……おっしゃる通りです。」

 スーバさんが面目無いと下を向いた。

「いや、国の戦闘訓練も受けてないのにすごい方アル。今までよく頑張ったアル。」

 その言葉にありがとうございますーーと、スーバさんは目に涙をためた。

 いや、お前も戦闘訓練受けてないよな?という言葉は引っ込めておくことにしよう。

 それに、横に座ってるアイツは、ずっと下を向いたままだけど、大丈夫か?


「ところで、報告書にはこれが人魚の仕業であると書かれていましたがその根拠はあるんですか?」

 そう言えば、人魚の祟りなんて書いてあったな……ログ凹んでるふりして、ちゃっかり話はしっかり聞いてたのかよ。


「はい、それは私から。そのゲートが現れる前に必ずそこに人魚が現れるのです。」

「なんですと!?では、今も人魚がこの村に!」

「……います。彼女は、契約を破った我々を祟っているのです。」


「確かに、上位存在と契約を結んだ際、対価を払う代わりに恩恵を授かることができるアル。でも対価以上の物を望んだり、恩恵に対する対価が支払われなかった場合、その何倍もの対価をその周りの物が支払うことになったり、あるいは契約者自らの命で支払うことになる事がアルネ。でも、それだけでは人魚がこのゲート発生させているという確定的な証拠にはならないネ。」

「人魚がゲートを開いている、又は発生と言っていいのかな、、させている所を誰か目撃した住人はいますか?」

 

 ログが村長さんから順にテーブルを囲う3人を見た。

 そう言われると村長もスーバさんも困った様な顔をした。


「……俺は、目がいいんです。」

 突然、今まで一言も喋らなかったソイツが口を開いた。

 ちょっとびっくりした。

 さっきの事をまだ引きずってるのか、チラチラとログの方を伺いながら、話し始めた。

「俺、だから見えるんです。人魚がゲートに向かって何かを言ってるのを。言葉は流石に遠くて聞こえませんでした。でも動いた口元とかはっきり見えてるんです。アレはきっと魔物に村を襲うように命令しているんじゃないかと思います。」

 そういうと、またログの方を気にして肩をすくめて下を向いてしまった。


 ……お前ほんと、何したんだよ。


「彼の話が本当なら、少なからずゲートと人魚には何かしらの関係がありそうだね。」

「それも含めて、調査がいるアルね。」

「……そうじゃな。少し時間がかかりそうじゃ。」


 すると、村長とスーバさんが顔色を悪くしながら申し訳なさそうに言ってきた。

「その事なのですが、ゆっくりとしている時間は無いのです。」

「どう言う事ですか?」

「口で説明するよりも見ていただいた方が早いかと……スーバ、皆さんを例のところに連れて行ってくれるかの。」

「かしこまりました。それでは皆さん、すみませんが、少し付いてきて頂けますかな?」


 *


 スーバさんに案内されるまま、俺達は村の入り口から向かって左側、川の河口とは反対側に位置する崖の向こうに向かっていた。


「こちら側はいつも我々が漁などに使っていた漁場にあたります。ですが、今は……我々があれ程までに頑なに守り続けた掟を破り、国に助けを求めざるを得なかった何よりの理由が……アレなのです。」



 森から崖の反対側にある砂浜に出た時、俺達は誰もがその光景に絶句した。


 なぜなら、目の前に広がる綺麗な海の沖、海面の少し上に、さっき見たゲートとは比べものにならないような巨大なゲートが禍々しくもその口を開けていたからだ。

今日は物凄くちっちゃい蚊を捕まえました。


長くて読みにくかったらすみません泣

ぼちぼちストーリー進めたい……。

話が進んでるのか自分で時々分からなくなります(涙

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