惨劇
婆ちゃんの部屋から出た俺は、さっき食べた食器の片付けをしにキッチンへ向かう。
花の油から作った洗剤がスポンジに垂らしてあわ立てた途端、とても良い匂いがした。
それにしても、本当久しぶりに元気な婆ちゃん見たなぁ〜。
たまにはルーチルの奴もいい仕事するじゃん。
確かに俺を小馬鹿にするのは頂けないが……。
お嫁さんかぁ……。
ぶっちゃけ、俺はアイツみたいにワイルドイケメン系じゃないけど、イケメンだと思うんだよね!
フード被って顔覗き込まれた時に何回か、女の子と間違われた事あるけど、それって逆に言えば、可愛い……綺麗……いや、美男子って事じゃないのか?
フッ、俺がモテる日も……近いな!!
ーーガタッーー
ん?
なんか今窓の外に見えなかったか?気のせいか?ルーチルのヤツ、忘れ物でもして取りに来たか?やっぱアイツもぬけてるな!
とりあえず、食器洗いを中断して玄関の扉を開ける。
「たくっ、オマエ何忘れたんだよ。」
あれ?
誰もいない。
俺の見間違いか?
なんか、ちょっとだけ恥ずかしい。
扉を閉めようとした、その時ーー。
「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!」
パリーン!バリン!
「……え?」
数件先の家から悲鳴とガラスの割れる音が響いた。
慌てて外に飛び出る。
おんなじ様に隣の家のルーチルと村長達も飛び出してきた。
「チエル!何があった!?」
「俺だってわかんねぇよ!」
取り敢えず行ってみよう、と言いかけたその瞬間ーー。
「グオオオオオオオオオォォォォ!!!」
地の底から響く様な声が聞こえた。
まるで大地が揺れてるみたいだ。
周りを見ると皆も驚いて固まっている。
「悪魔だ……。」
誰かがポツリと呟いた。
「え?、悪魔ってあの?……嘘。」
今まで、音沙汰も無かったのに……こんなに急に来るのか?
「取り敢えず、女性と子供は避難小屋に避難を!戦える男性は武器を持って悲鳴の聞こえた家屋へ向かいましょう!父さん、いざという時の避難の誘導をお願いできますか?」
ルーチルは時期村長として、村人達に指示を出していく。
「馬鹿野郎。オマエは若い。妻もミザリーもいる。まだ悪魔とは決まっていないが、もしもの時にお前はこの村に必要だ。ワシ達が様子を見てくる。村の皆んなを頼んだぞ!チエルも、婆さん連れて早くいけ!」
そう言われてハッとした。
そうだ、婆ちゃんが‼︎早く連れてかないと。
俺とルーチルはお互いに頷いた。
「じゃ、避難小屋でな!」
「おぅ。」
ちくしょう。
なんでこんな急に。
今まで何も無かったのに。
俺は急いで婆ちゃんを担いで外に出る。
さっきからそんなに時間も経ってないのに、すでに家が数件燃えていた。
「熱っ、つ」
炎は村を飲み込もうと、少しずつ他の家も飲み込んでいく。
燃える村を見て婆ちゃんは、あぁ、と小さく声を漏らした。俺を掴む指が小さく震えている。
「もうちょっとで小屋につくから、婆ちゃん頑張って!」
俺たちはなんとか炎を避けながら避難小屋に向かった。
避難小屋にはすでにほとんどの村人が集まっていた。
泣く子供達を母親達がなだめている中、
「ミーナ!おやめなさい!」
「で、でもミザリーが!」
俺はその場に駆けつける。
「ミーナさん!どうしたんですか?ミザリーに何か……。」
「ちょっと目を離した隙に、ミザリーが村の様子を見に行ったルーチルを追いかけて出て行ってしまったのよ!!探しに行かないと……。」
ミーナさんは泣きながら叫ぶように言った。
「おやめなさい。外には魔物がいるかもしれないのよ。」
「で、でもミザリーが……やっぱり私行きます!」
ミーナさんは止めようとする人達を押しのけて出て行こうとする。
っぅ〜〜〜〜〜。
「お、俺が行きます!」
「えっ?で、でも……。」
「ミーナさんはここにいて!俺は男だし、いざという時ミザリーを抱えてでも走って逃げられると思う。だから俺が見に行くよ!」
本当はこんな事言うつもりじゃ無かった。けど流石に今、女の人が出て行くのをほっとけるほど俺は人間腐って無かった。
どうせ俺は戦えないんだ。
さっと行って、見つけて戻ってくるしかない。
ーーちくしょう、思っていたよりも火の回りが早いな。
避難小屋から村へ戻ると、村にある家の半分は燃えていた。
一応、途中で落ちていた木の枝も拾っておいた。何も無いよりはマシなはず……だ。
取り敢えず手前の家から探していくしかないかな……。
「ミザリー、いるかー?ミザリー!」
くっ、煙が、これは急がないとダメだ。
「ミザリー!ミザリー!」
手当たり次第に玄関を開けて呼んでみるけど、なかなか返事がない。
すると、町の広場の方からドゴーンと建物が崩れる音がした。
「うわぁぁぁあん!」
あっちか!!
俺は反射的に声の方に走り出す。
広場に着くと、俺は目を疑った。
な、何だよあれ。3mはあるか……。
今まで見たこともないような巨人が、手当たり次第しだいに家破壊していた。
たった一振りで砂山みたいに家が崩壊する。
巨人の周りには先に様子を見に行った村長達が倒れていた。
み、皆やられたのか……。
さっきまで忘れかけていた恐怖が込み上げてくる。手足の震えが止まらない。
その時、
「チクショオォォ!!!」
家の陰から巨人の前に一人の人影が飛び出してきた。
ーールーチル!!?な、何で!?
「今のうちに早く、早く逃げろ!!!」
一瞬俺に向かって言ったのかと思ったけど、よく見ると家の陰にミザリーがいる。
ミザリーは恐怖で動けていない。
燃える家の炎に照らされて巨人の顔が笑っている様に見えた。
クソ、あいつわざと遊んでるのか?
ルーチルは持っている剣を振りかざし巨人に向かっていくが、腕の一振りで吹っ飛んで家の壁に叩きつけられた。
「ミ、ミザリー、逃げろ。」
血を流しながらもルーチルは立ち上がる。
本当に、こんな事するつもりじゃなかったんだ。
俺が行った所で死体が増えるだけだ。
でも、気がついたら身体が勝手に動いてた。
「うおおおおおお!!!こっちだ馬鹿野郎!!」
持ってた枝を奴の頭に向かって全力で投げる。
枝はコンっと悲しいくらい、いい音を立てて奴の頭に命中した。
「チエルッ?!」
「俺が惹きつけるから、早くミザリー連れて逃げろ!父親だろっっ!」
一瞬ルーチルは迷ったようだが、俺とミザリーを見て、
「すまないっ、必ず戻る。」
よろめきながらも、ミザリーを抱いて走り出す。
やばい、アイツまだルーチルを追う気なんだ!
「行かせるかぁぁ!」
手当たり次第に足元に落ちていた石や木材を巨人に向けて投げる。
少しだけでいいんだ、二人が逃げる時間をつくれれば!
巨人は動きを止めゆっくりとこちらに振り向いた、そしてその瞬間にヤツと目が合った。
ーー死ぬーー
数秒後に自分がペシャンコになっている姿が鮮明にみえる。
全身から信じられないくらい汗が吹き出してくる。
心臓が先に弾けるんじゃないかってくらい鳴っている。
走りたいのに動かない。
視界の中でヤツが近づいて来るのがスローモーションになってみえる。
それでも震えは止まらない。
動かない。
動けない。
「動けぇぇぇ!!!えっ……。」
バァチィーーン……ドッガッン!
「!?」
何が起こったんだ……。
暗い、全身が、痛い。
ゴホッっ、な、何だこれ。ほとんど真っ暗な視界の中で自分の手が真っ赤に染まってるのが見える。
お、俺の血?
巨人はルーチルが置いて行った剣を拾ってゆっくりとこっちに近づいてきた。
やっぱり、俺、死ぬのかな。
まだ彼女も出来たこと、ないのに。
いやだ、怖い。壁に寄りかかりながら何とか立ち上がる。
近づいて来る巨人は満足そうな顔で振り上げた剣を振りかざした。
すみません。
なかなか話が進まない、、。