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クロスワールド  作者: えりぞう
第2章 歌をなくした人魚
37/50

戦闘訓練①

 

「うおぉぉぉぉぉぉ!!」


 俺は走っていた。

 白い砂浜と、どこまでも澄んだエメラルドグリーンの海に燦々と照りつける太陽がキラキラと反射した美しいビーチで。

 これが可愛い女の子を追いかけての、うふふ、あははは〜、なものならなんて良かった事だろう。


 俺の2メートル程後ろの砂上に着弾したリゴンぐらいの大きさの鉛玉が、その直後に衝撃で巻き上げた砂を絡ませながら爆散する。


「うわぁぁぁぁ!!」

 巻き起こった爆風が俺の背中を押し出し、簡単に俺の体は前方に大きく吹き飛ばされた。

 それでも、倒れ込んだ場所でゆっくりとしている時間はない。

 擦りむいた身体中のあちこちが痛い。

 それでも、俺はそんな身体に鞭打って直ぐに走り出す。


「チエルッ!もっと本気で走るデシ!!このままじゃミンチになるデシ!」

「わ、分かってるよ!俺だって本気でぇえっ、、うぎゃぁぁ!」


 ドガーンと鈍い音を上げながら、また俺の背後に落ちた鉛玉が爆発した。


「し、死ぬ……。こ、このままじゃ死ぬ……。」


「あっはっはっはっ。チエルのんびりしてるとミンチになるアルよ〜。ほーら、また次行ったアル〜。」


 砂浜の直ぐ後ろにある森の木の陰で、ベンチに座ってフレッシュなジュースを飲みながら優雅に鉛玉を飛ばしてくるオリーブがやたらと楽しげに声を上げた。


 あいつ普段は普通なのに、なんか急に変なスイッチ入るんだよな〜、ってそれどころじゃない。


「チエルッ!来てるデシ!来てるデシ!」

「わ、分かってるよっ!って、うわぁぁ!」



「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」


 な、なんで俺が、、こんな目に……。



 **


「え?せ、戦闘訓練?」

「当たり前だ!お前、さっきから思ってたけどな、神都に行ってから何にも成長してねぇじゃねぇか!1レベも上がってないって、逆に凄いわ!」


 そう言っておっさんは、全くーー、と手のひらで顔を覆った。


「そ、そんな事言われたって訓練とか何も受けてないし。」

 実力把握テストこそ受けたけど、あれは訓練じゃなくて今の実力を知るためのものだったし。

 まぁ、順位はともかく、、。

 どこでレベルの上がる要素があるのか俺が聞きたいぐらいだ。


「まぁまぁ博士、確かに訓練とかそう言うのすっ飛ばしてチエルは来てるんだ。まぁ、僕が無理矢理連れてきたみたいなもんなんだけどね。」

 と、ログがおっさんに言った。

 するとおっさんはログの頭をバシッと1発殴った。

「ったく、またお前のわがままか!」

「博士には、言われたくないね。」


 俺からすればどっちもどっちな性格な気がするけど。

 すると、そんな俺達の横からオリーブが言ってきた。

「確かにこれから先、戦闘は避けられないだろうし、相手の強さも未知数アル。最低限の自分の身を守れる様にする必要はアルネ。」

「確かに、俺もそれは思ってたよ。弱いのは自分が1番分かってるつもりだし。皆んなの足を出来るだけ引っ張りたくないし。」


 これは確かに前々から思ってた事だった。

 いつもログが近くにいて守ってもらえるとは限らない。

 自分だって、戦力にならないにしろ自分の身を最低守るだけの戦闘技術は欲しいと思っていた。


「まぁ、そうと決まれば俺の言った通りチエルにはオリーブの足が治って次の目的が決まるまでの間、戦闘訓練をしてもらう。ログと、オリーブは交代でそれに付き合ってやってくれ。そして、空いてる時間は各々情報収集だ。」


「了解アル。」

「了解です。」

「少し楽しみだね。」


 そんなこんなの流れで、俺は戦闘訓練をする事になったんだ……。




 ***


 ーーん、あれ?ここは?


 俺は確か、オリーブの実家に来て、明日から戦闘訓練する事になって、さっきまで皆んなでご飯食べてそれから……。


 身体を預けている硬い物からゆっくりと背中を話し、ぼやけている視界をこすって大きく目を開けた。


「っと、うわぁっ!」

 目を開けると、俺は丘の上に立つ白い木の上にいた。


「あっぶね、落ちるとこだった……。って、ここは、、確か……。」

 靄のかかった記憶を必死で引き出しているとこで、視界の隅に揺らぐ影を見つけた。

 そしてその瞬間にハッキリと思い出した。


 ーーここ、たしか、前にも。

 そう、ここは前俺が影から必死に逃げてきた丘の上の木の上だ。

 あの影、まだ居るのか。


 前に光に弾き飛ばされた事を警戒しているのか、近づいては来ないものの、幹から少し離れた場所でウロウロと影は漂っていた。

 しばらく木の上で影の様子を観察していたけど、何にも変化のない影。

 時間だけが過ぎていく様で、夢なんだろうけど覚める気配もない。


 あれだけ必死に影から逃げてたものの、ここが安全だと分かった今は、そこまで怖いとは思わなくなっていた。


 それにしてもこの状況、本当にどうすればいいんだ?

 アイツがいるせいで降りるに降りれないし……。

 ここでずっといた方が良いのか?

 それにしも、変な夢だな。

 俺もきっと疲れてるんだろうな……。

 そういや、何だかんだここまで大変だったしな……。

 ルーチルや皆んな、元気にしてるかな……?


 そんな事をボッ〜っと考えていた時に、独り言の延長で自然に言葉が出た。


「なぁ、お前はなんなんだ?1人なのか?俺なんか追っかけても何にもないんだぞ。ーーって、何俺は影に向かって話掛けてるんだか……。暇すぎて頭おかしくなったかな。」

 はぁ、この夢長いなぁ〜、早く覚めねぇかなぁ〜って、また幹に背中を預けた時だった。


 ガザガザガザ


 さっきまでフヨフヨしていただけの影が急に激しく動き出した。

 そしてまたどんどん形を変えて、前の様なぼんやりとした人の形に姿を変えた。

 またゆっくりと幹に近づいてくる。

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょ、また来るのかよ!」

 少し怖くなった俺は下ろしていた足を枝の上に上げて、幹にしがみついた。

 影が幹に触れると、また光が影を吹き飛ばす。

 その度に影はまた集まり、よじ登ろうと幹に手をかける。

 そしてまた弾き飛ばされる。


 そんな光景をあれからどれぐらい見ていただろうか?

 流石になんだか影が不憫に思えてきた。

「ちょ、お前もうやめとけよ。俺は降りる気なんてないし、お前ももうそろそろ分かっただろ?」

 俺が話しかけると、影は動きを止めてまるで俺を見上げる様な仕草を取った。

 そして影の身体をユラユラと揺らす。

「なんなんだよ、もぅ、、。」


「…………。」

「ん?なんか聞こえた様な、風か?」

「…………。」


 やっぱり風じゃない、声が聞こえた様な気がした。


「………で。」

「……えっ、、?」

「……おいで。」


 ハッとして見ると、俺に向かって影が手招きをしていた。

 寒い空気が俺の背中を抜けた様な気がした。


「おいで。」


 そして、影はとても無邪気に笑った。





 ーーかばっ!!


 ベットから飛び起きた俺は、全身に走る悪寒と、脳裏にこびりついたあの笑顔が体から大量の汗を拭き出させたせいで、無駄にぐっしょりとしていた。


「ホ、ホラーかよ!」

 未だに頭に響くほどドクドクと脈打つ心臓が無駄にうるさい。


 俺はお化けやら、幽霊やらそんなものは苦手なんだよ。


 見ると、窓からわずかに光が差し込み始めていた。

 もうそろそろ夜明けが近い時刻らしい。

 横を見るとスヤスヤとログが寝ている。

 その向こうで布団を蹴り飛ばして寝ているおっさん。

 俺の足元ではダチュラが丸まって寝ていた。

 なんだか今更寝る気も起きずに、結局みんなが起きてくるまで俺は一睡も出来なかった。



 **


「おし、それじゃあ今からまず、俺とオリーブでお前に稽古をつけてやる。空っぽな頭と体使ってしっかりとやる事だな。訓練料は後日振込で良いからな。」

 寝不足で気だるい身体に、おっさんの野太くてうっさい声が響く。

「え!?金とんのかよ!」

「ウルセェ!俺はボランティアはしないタチなんだよ。払えねぇなら、そこら辺で魔物の餌になって野垂れ死ぬんだな!」


「汚ねぇーー!くそっ、じゃあ支払いは支援金でなんとかするよ。」

 俺がそう言うと、オリーブ残念そうに言った。

「支援金は私の足を治すパーツを買うお金で使い切ったアル。」

「なっ!そ、そんな、、。」

「チエル、素直に払っとくデシ。」


「大丈夫だ、俺は一括払いにこだわらない男だからな。少々利子はつくが、分割か出世払いにしといてやるよ。」


 うなだれる俺によく分からない事をおっさんが嬉しそうに言ってるけど、きっとよくない事だからもう突っ込まない事にした。


「よし、じゃあ早速始めるか。」

「お願いします。」


 実はちょっとワクワクしてたりする。

 俺は何ができるんだろうか?

 もしかしてすごい魔法が使えたりして?!


 ソワソワする俺を見ておっさんが言った。

「一応聞くが、何ができる?」


 え?何ができるって?

「何って?俺、戦闘経験全くないんですけど。」

「だ、だよな。まぁ、一応聞いたまでだよ。そのつもりだったから大丈夫だ。オリーブ、見てきた感じコイツはどうだ?」

「ハッキリ言うと、戦闘センスは0アル。魔力量はそこら辺の食用川魚レベルアル。筋力も子供よりちょっとあるぐらいネ。この前の戦闘で生きてるのが本当に不思議なぐらいアル。」


 一気に言い切ったオリーブの言葉に崩れる俺。


 か、川魚レベル……。

 俺は、魚と大差なかったのか?

 ちょっとだけ涙が出た。


「あー、まぁ、気を落とすな。」

「そうデシ!それぐらいで凹んでる場合じゃないデシ。もっと弱い奴もいるデシ。」

 ダチュラすら俺に気を使って慰めモードに入っている。

「言うとうりネ。ダチュラはチエルよりも各ステータスが2割ほど低いアル。データ上オトモの中ではぶっちぎりの弱さアル。」

 それを聞いてダチュラも俺の肩からスルリと落ちた。


「まぁ、それは今更嘆いてもしょうがねぇよ。弱けりゃそれを鍛えれば良いだけだ。元からそのための訓練だろ?」


「で、ですよね!よーし頑張るぞ!」

 そうだ、弱いのなんて最初から分かってた事なんだ。


「まず言うが、お前に戦闘は無理だ。」


「え?!ちょっと、今鍛えるって言いましたよね?その為の訓練って、、。」

 もう言ってる事が無茶苦茶なんですけど。

 てか、戦闘無理ならする事なくない?


「まぁ、落ち着け。これから戦闘訓練しようって奴で、体もできてない、魔力量も少ないって奴はたまにいる。そんな奴でも訓練してりゃ、一端の戦士にはなれるのは確かだ。しかし、それはそれ相応の時間をかけてと言う事だ。センスの有る無しに関わらず、そこそこ強くなる為には誰でもある程度時間がかかる。しかし、俺達にそんな悠長な時間は、無い!そこでだ、戦闘においては、ログとオリーブに任せてしまえ。」

「じゃあ、俺は一体何を……。」

「逃げて、隠れろ。」

 それを聞いてまた逆にまた地面へとヘタレ混んだ俺。

「そ、それじゃ、、俺は一体何を……。まさか、影から2人の支援をするとか?」

「それもいらん。邪魔になるだけだ。お前は2人の邪魔をしないようにひたすら逃げて隠れとけ。」


 なんか虚しさ通り越して、スッゲェやる気なくなってきた……。


「おいおい、早くも気持ち萎えてんじゃねぇぞ。」

「え、でもそんな事言われたら誰でも萎えるよ。」

「お前はほんとにバカだな!これだから馬鹿に教えるのは面倒くせぇんだよ。」


 ますます気持ちの萎える俺。

「まぁパパ、そう言ってしまうと終わりアル。」

 終わりなのかよ、涙ながらに心の中で突っ込む。

「チエル、パパの言い方が悪い所もあるアルけど、これがぶっちゃけ1番いい方法アル。」

 そう言ってオリーブが比較的優しく、だけれど適度に俺の心を傷つけながら説明をしてくれた。


「まず、パパが言った通り一通り戦闘できるまでチエルを鍛えるとなると最短で5年はかかるアル。中途半端にしたところでやられて終わるのがおちアル。そこで、戦う選択肢を捨てて、とりあえず自分の身を守ると言う事に専念する事で、これからの戦闘において無駄な労力を減らせると言うことネ。ちなみにこの無駄な労力って言うのは、戦えもしないくせに妙に出てくるチエルをフォローしながら敵を殲滅させていく事を意味するアル。チエルが自分の身を守れるだけで、私達は戦いに集中できるし、チエルは比較的安全に旅を続ける事が出来るアル。それに、戦いから外れた視点で物事を観察出来れば新しい情報や役に立つ情報をゲットできるチャンスも生まれてくるアル。幸い、チエルは魔力量が極端に少ないアル。実はこれは、隠密系の行動に向いてるアル。膨大な魔力エネルギーはそこに存在するだけで敵を威圧出来たりするけど、逆にそれを隠すのは至難の技ネ。」


「な、成る程、言いたいことはだいたいわかったよ。」

 オリーブの説明を聞いて、やっとこさ自分のすべき事が見えてきた気がした。

 それに、なんだか隠密って言葉が、かっこよくてしっくりきたのだ。

 闇に潜み、影から情報を読み解き仲間を導いていく俺……なんだかめっちゃカッコよくない?


「やる気になってくれたのはいい事だか、道のりが長く険しいのも確かだ。時間もあまりない。死ぬ気で訓練しろよ。」

 おっさんが俺の前で気だるそうにタバコを吸い始めた……が、今は隠密の俺を想像してやる気まんまんだ。

「はいっ!まぁ、俺の想像ではあっという間にできちゃいそうですけどね!」

 俺は元気よく返事をした。

「言うじゃねぇか。想像出来るってことは何事にも対しても強みなんだぜ。期待してるよ。」


 よし、やるぞ!と俺は気合を入れ直したところで、2人に問いかける。


「……って、逃げて隠れるだけなのに、俺何すれば良いんですか?」


 その言葉におっさんと、オリーブが今度は逆に地面にヘタレ込んだ。

話が飛んでるのですこし読みづらかったとおもいます(><)

すみません。

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