これから
「所で、お前達はこれからどうするんだ?当てはあるのか?」
オリーブが出してきたコーヒーに手を伸ばしながらおっさんが聞いてきた。
「え?オリーブの足を直すんじゃないの?」
ここにはその為に暑い中歩いて来たのだから。
俺がそう言うと、おっさんは呆れた様子でため息をついた。
「だから、足を直したその後だよ。」
「足を直したらって……俺たちどうすんの?」
確かにどうすんの俺達?って助けを求める様に俺はログをみた。
そう言えば、俺はノリでついてきた様なもんで、これからの事なんて全く考えてなかった。
そんな俺を見て、ログは飲みかけていたコーヒーをゆっくりとテーブルに置いてニコリと微笑んだ。
「そんなの、僕も分からないよ。」
イケメンスマイルで言い放ったログの言葉に崩れかける。
い、いや、俺だって人の事言えないけど。
おっさんは額に手を当てながらまた一段と大きなため息をついた。
「まったく、お前らは……。ほんとこれ人選合ってんのか?」
「いや〜、それ俺が1番思ってますから。」
俺がそう言うと、更におっさんは死んだ様な魚の目で俺をみて言った。
「……だろうな。」
「何にせよ情報が少なすぎるアル。今のところ私たちがリザさんから得た情報といえば、お伽話の魔神は本当に存在していて、それは今もこの世界の何処かで封印されている事、そしてその封印が弱まってきていて、完全に封印するには神器が必要な事アル。そして、信じ難いけど、もう1つの世界が存在し魔物達はそこからやってきているという事アル。」
「改めて聞くと、すごく馬鹿げてるよねこの話、ってなっちゃうな。……ってか、この話おっさんにしても大丈夫なの?!」
「大丈夫アル。協力を得る為に話す許可は得ているアル。」
「そうなんだ、良かった。いきなり約束破ってるのかと思ったよ。」
「何にせよ、まずは情報収集が必要だね。オリーブが言った通りもう1つの世界があるならばそこへ行けなきゃ神器も取ってこれないわけだし。」
「そりゃそうだけど、向こうへ行く方法についてはリザさん達ですら分かってないらしいじゃん。そんなすぐに情報なんて集まるのか?」
俺は食うだけ食って、俺の膝で寝だしたダチュラをソファに敷いたタオルの上に移動させながら言った。
「まぁ、期待は出来ないけどしらみつぶしにでも動かないとね。とりあえず、魔物の活動が活発な所に行って探りを入れるしか、今のところはないかな……。結構急がないと駄目みたいだしね。」
「げっ……。やっぱりそうなっちゃうか。……はぁ、こんな事任命するんだったら向こうに行く方法ぐらい先に調べてくれてたら良いのに。」
分かっていたけど、先の見えない任務に早くも挫折しそうだ。
「まぁ、待てお前ら。」
そう言って、おっさんが話に入ってきた。
「何ですか?」
「情報収集はまぁ、、俺がやってやってもいい。」
「えぇっ!?なんか当てでもあるんですか?」
てか、いきなりどうしたんだ?
面倒くせぇ、とか言ってあんまり手伝ってくれなさそうなタイプだと思ったのに……。
「おい、お前あからさまに顔にでてんぞ。」
あ、バレました?
「俺はな、実は長年悪魔について色々研究してきたんだ。実際は悪魔って言うより、別の事なんだが、要は無関係じゃねえって事だ。それでだ、今回オリーブから、もう1つの世界の存在を聞いた時は流石に鳥肌が立ったがな……。実は、悪魔の存在から俺は元々こことは違う別の世界から来ている事を、ある程度推測していた。」
え?!
「それは、初耳ですね、博士。」
ログも少し、さっきよりも目の色を変えて博士の話に入り込んだ。
「まぁ、これは俺とオリーブの極秘研究だったからな。今回の任務に協力するって言っちまった以上、情報を隠しててもしょうがねぇ。」
「元々、この世界に存在する俺たちは、どんな小さな存在でさえ魔力エネルギーを持って生まれてくる。草花や精霊の様な肉体のない物も含め全てだ。今の所、俺の研究で魔物は俺たちが持つエネルギーとは全く違うエネルギーを持っている事が判明した。」
「違うエネルギー?」
「そうアル。魔物だけがこの世界で唯一、私達とは異なる魔力エネルギーを持ってるアル。この魔力エネルギーと同等同種のエネルギーはこの世界に存在しなかったアル。否、出来なかったネ。」
「ど、どう言うこと?」
「元々この世界の全ての物質に宿る魔力エネルギーは、その宿る物質そのものの作用で魔法や生命エネルギーに変換されても、またそれは空気や水と言ったものに溶け込み、それを摂取したり触れた物に更に吸収されてまた魔力エネルギーとして宿る様になるネ。これはこの世界の法則の様なものアル。そして、この世界の物質は、このサイクルを行うための仕組みを遺伝子レベルに組み込まれているアル。だから故意に変化させようとしても、今の魔法力、化学力では無理ネ。」
「だから、全く違う形の魔力エネルギーを持っていること自体おかしな話なんだ。封印された魔神とやらが突然変異であんな魔力を得たのだとしても、封印されてる状態でこれだけ影響力を出せるとも考えづらい。魔物の数を見てもあんなに一気にそんな生物が増えるのもおかしいからな。そこでだ、完全に違う魔力エネルギーを持つアイツらはこの世界で産まれたのではなく、別の世界で産まれここへ来ていると仮定していたわけだ。」
なんとなく話は分かるけど、よくそんな発想を思いつくな……。
俺の視線におっさんが気づいて、ため息をついた。
すぐため息つくな、このおっさん。
「言っても信じられねぇかもしれねぇがな、俺は実は生まれる前の記憶を持ってるんだよ。」
そう言っておっさんは胸のポケットからタバコを出してそれを吸い始めた。
「それも、ここじゃねぇ、全く別の世界で生きた記憶だ。それも1回じゃねぇ、何回も俺は死んで、そして転生して、その度に違う世界で生きてきた。」
な、何言ってんだこのおっさん。
開いた口が塞がらないとはまさにこの事だ。
「ふっ、言いたい事は分かるが。だがな、これは俺の中では事実なんだよ。実際、ここに置いてる発明品なんかは前にいた世界で普通に使われてた日用品を俺の技術で再現して作ってるんだしな。魔法なんかなくて、化学って分野が発達した世界だったよ。」
そう言って、俺が背中に挟んでいたのと同じ機械の入ったクッションを取り出してポンポンと叩いた。
おっさんは驚いて自分の背中に挟んでいたクッションを掴み上げた俺に、なかなかいいだろ?とドヤ顔をしてみせた。
話的には信じられないけど、確かにこのおっさんの発明品やら、発想は普通に生きてきて得られる物じゃないのも確かだ。
「お陰で、この世界の奴らには神の創造した物を侮辱する行為だなんだと罵られてるがな……。」
今更、気にもしてねぇけどな……、とおっさんはまたタバコに火をつけた。
「お、俺は凄いと思うけどなぁ。逆にこんなの俺も家に欲しいぐらいだよ。」
「チエルそのクッションさっきらずっと持ってるもんね。」
「ふっ、能天気な奴だな。」
そう言ったおっさんを横目に、俺は天井を見た。
「あと、あの天井についてる冷たい風が出る箱が欲しいな。」
「あれはエアー・コンディショナー、略してエアコンって奴だ。すげえだろ!」
「僕のウチにもつけてよ。」
「お前の家につけた所で大概海で過ごしてんだろうがよ。」
「くっ、それを言われたら、そうなんだけど。」
「まぁ、そう言う事で、俺はこの世界の奴らとは考え方、概念、価値観、発想なんかがさっぱり違うって訳だ。元々、この世界が全てだとも思ってねぇしな。それで、俺は俺の目的を果たすために、今回お前らの任務に協力してやる事がメリットがデカイと判断したって事だ。貴重な情報分けてやるんだ、十分な成果を俺に持ってこいよ、お前ら。」
くぅ、なんか素直にはい!って言いたくないな。
「ところで、情報収集をしてくれるなら僕達は結局どうしたら良い?」
ログが話を元に戻して言った。
「確かに!もしかして、待ってたらおっさんが俺達を向こうに送ってくれるって事?」
俺は急に明るい方向に向き出した話に食い込んだ。
「アホか!俺も研究はしてたとはいえ、そこまで都合よく進んでねぇよ。あくまで、手がかりになる情報源を、お前らよりは効率よく調べられるだろうってぐらいだよ。実際それを頼りにそこに行って調べるのはお前らだ。ハズレかもしれねぇがな。」
「なっ、。」
期待してたものとは大きく違った回答に少しガッカリする。
「まぁ、足が治るまでは少し日数がかかる。情報を集めるにしてもだ。」
おっさんがまたタバコに手を伸ばした。
「じゃあ、それまではゆっくりできるって事か!」
俺はここに来るまでに見た白い砂浜を思い出して、胸が高鳴った。
「お前はほんとにバカか!」
そんな俺を見ておっさんは近くにあった薄い本を丸めて俺の頭を殴った。
「いっ、いってぇー!」
俺ってこんな事されるキャラだったかな……。
「チエルったか?お前は、足が治って行くまでは、みっちり戦闘訓練だからな!!」
痛みで涙を浮かべる俺を見下ろしながら、おっさんは大きな声でそんな事を言った。
自分で書いていて、頭が痛くなってきました(笑




