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クロスワールド  作者: えりぞう
第2章 歌をなくした人魚
33/50

旅立ち


 リザさんから神器回収を任命されてから、俺達3人はさっき休んでいた部屋に戻って来ていた。

 旅に出る為の準備や援助、これからについては後々エリアス隊長を通して伝えられる事になった。

 詳しい説明があるまでは神都内で自由にしても良いとの事で、とりあえず、3人での話し合いで今日は身体を休めて、明日買い出しに出る事に決まった。

 なので今はベットの上でダチュラとゴロゴロしていた。


 今いないルイスとマークルは俺達とは別の話があるようで、リザさんに連れられ、別の部屋へと行ってしまった。


「あの2人と、どんな話をしてるんだろ。」

「俺様達とは別の任務でも押し付けられてるんじゃないデシ?」

「でも、あの2人は俺達の任務について聞いてたのに、俺達があっちの事は聞けないって、なんかおかしくない?」

「そうデシ?以外にしょうもない任務すぎて俺様達に気を使ったかもデシ。」

「そうなのかなぁ。」


 俺の考え過ぎかも知れないけど、なんとなく引っかかる。

 俺達が少し前から一緒にいたから、俺達にこの話が振られたのかも知れないけど、こんな重要な任務に対してルイスは兎も角、マークルを呼んだりするか?

 ある意味俺は別として……。

 そもそも、あんな神官が?

 口止めとか?なんだか今更2人の事が心配になってきた。


 考えていた事がボソボソと口に出てたのか、ログがニコニコしながら俺の横に腰掛けた。

「まぁ、帰ってきてから聞いてみたら、いいんじゃない?教えてくれればだけど。」

「私もちょっと気にはなってたけど、気にしたって仕方ないアル。それよりも、チエルはこれから自分のことを心配した方がいいアル。外は以外に強い敵も多いネ。」


「そ、それはそうだけど……。ところでさ、オリーブこそ、その足どうするの?流石にそのままは色々と無理だろ?」

「準備が整い次第、まずはシャスタに帰ってパパに足をつけてもらうアル。」

 一応杖の様な物を足に固定して疑似的に足の代わりをしてはいるけど、見るからに不便そうだ。

 オリーブの父さんか……ど、どんな人なんだろ?

 娘の身体をこんなに改造しまくってるって事は、とんでもない奴なんじゃ?


 広場で落ちていた足のパーツを鼻歌を歌いながら綺麗に磨いて布に包んでいたオリーブを思い出して、なんとなく背中が寒くなった。

 お、俺まで改造されないよな……。

「修理が終わるまで、私を守ってネ。野郎共。」

 そう言って、オリーブはニカッと笑った。


 ✳︎✳︎✳︎


 ーーガチャリ。

 あれからしばらくして、各々ベットで過ごしていた静かな部屋の扉が開いた。


「お帰りアル。」

 部屋が開ききる前にオリーブがドアに向かって声をかけた。

「ただいま。」

「ただいまです。」

 ルイスとマークルが一緒に帰ってきたみたいだ。


 ーーふぅ、と息を吐きながら部屋に備えられたソファに向かいあって2人が座った。

 どうやらお疲れの様子だ。

 なんとなく気持ちは分かるけど。

 そんな2人の元に俺も向かい、ソファに腰掛けた。


「お疲れ様。どうだった?なんか言われた?」

 俺は2人が帰ってくるまでずっとソワソワしていた事を聞いた。

「あ、あぁ、俺は自分の国のことで少しな。俺が出ている間に民の様子がおかしいと情報が入ったみたいでな。それを聞いていた。」

「ルイスの国アルか?」

「あぁ。俺の国はマザーホワイトから北に位置するストーンヘンジという国なんだが、当家が治める領地……いや、故郷こそが、世界で最も標高が高い山、パラドックスと言われる大山脈だ。」

「ルイスの実家は凄いよ。なんたって竜達の巣だもんね。」

「竜の巣?!あ、だらかドラゴン使いなのか!」

「まぁ、ザックリ言えばな。大祖父様には帰るなと言われたが、ファングの治療が終わり次第、1度様子を見に帰ろうと思う。」

「なんだか心配ですしね……。」

「あぁ。何もなければ良いのだが。」

「ところで、マークルは何の話だったアルか?」

「僕は只の口止めでした。でもまぁ、旅に出るチエルさんのオトモを守ったって言われて、魔法アイテムを頂きました。」

 そう言ってマークルが襟の下に隠していたネックレスを取り出して俺たちの前に出した。

「こ、これって身代わりの玉じゃないアルか?!」

 それを見たオリーブがそのネックレスをヒョイと取り上げた。

「ちょ、オリーブさん!」

 紐に通された水色の玉は、俺の持ってる青く半透明な石と違って、こっちはそこら辺にある石が水色になった様な少し重たい印象を受ける石だった。

「身代わりの玉?」

「もし本物なら、装着者の瀕死状態を1度だけこの玉が身代わりになって受けてくれるアル。とても珍しい石ネ!早速解析アル!」

 そう言うと、オリーブの瞳から薄い光の線が出てアクセサリーを何度か行き来して消えた。

「オ、オリーブさん壊しませんよねっ?」

「少し待つアル!只今解析中ネ……。後15秒アル。」

 よく分からない光景を、とりあえず暇そうなログに聞いてみる。

「ログ、これ何やってるの?」

「鑑定してるんだよ。オリーブは目を通してスキャンしたものを解析、鑑定する事が出来るんだよ。便利だよね。」

「そんな事もできるのか?それは凄いな!」

 ルイスも驚いた様子でその光景を見ていた。


 なんでもアリなんだな。

 どれだけオリーブは万能なんだよ。

 なんて思ってるうちにオリーブが動き出した。

「凄いアル!やっぱり私が思った通りネ!これは身代わりの玉で間違いないアル!」

「「「おおっ!!」」」

「ぼ、僕が貰ったんですからねっ!」

 目を輝かせてネックレスを見る俺達をみて、マークルが慌ててオリーブからそれを取り返した。

「マークル君、俺のこの美しいアイテムと交換しないかい?一応これは回復アイテムなんだぜ。」

 俺は自分の首につけている仮初めの涙をマークルの前に突き出した。

「嫌ですよ!てか、それ付けてる人始めて見ましたよ!絶対お断りです!」

「じゃあダチュラと交換するか!」

「チエル!何言ってるデシ!」

「お、お断りします……。」

「ガーン……。」

 そう言って、ダチュラが倒れた。


 チッ。

 このネックレスの事を知っていたか……。

 てか俺にこそ、そのアイテム欲しいんだけどな……。

 もしかして支給されるのか?

 こうして俺の悪意に満ちた交渉は、あっけなく却下された。


 それにしても、やっぱ付けてる奴いないのか……。

 俺は仮初めの涙を再び人目に付かないように服の襟の下に隠しこんだ。


「それは売れば軽く豪邸が建てられる代物アル。売る気がないなら、人目に付かないように気をつける事をオススメするアル。」

「き、気をつけます!!」

 マークルも慌ててそれを服の下にしまい込んだ。



 結局、その後もこれからの話なんかをしてその日は過ぎていった。

 2人の様子からも、俺が心配してた様な事は思い過ごしだったみたいだ。

 ルイスは少し心配だけど、俺も人の事ばかり気にかけてられないので、とりあえずは自分のことを考える事にした。

 思いのほかダチュラがめげてしまったので、明日リゴンアメを買うと約束してなんとか機嫌を取り戻した。



 次の日、俺とオリーブとログの3人で旅に出るために必要なアイテムやら食料やらを買いに市場へ来ていた。

 ルイスは他国貴族と王族への今回の件の報告へと朝から行っていた。

 マークルは怪我も完治したと言う事で今日からは配属先に移動となった。

 と言っても、広場の復興工事を担当するようでしばらくは神都にいるみたいだけど。


 俺とは違い、神都へ何度か来ている2人は道に迷う事もなく、俺が中々たどり着けなかった市場にあっという間に到着した。

「前来た時はあんまり市場を見て回る余裕がなかったからなぁ。」

「チエルはすぐに迷うからデシ。それによく絡まれるからデシ。」

「そんな事ないだろ。」

「初めて会った時も絡まれてたもんね。」

「私の時も絡まれかけてたアル。」

「……。」


 2人曰く、荷物は多くてもダメらしく携帯食と、薬、簡単な道具を少し持って行けば良いらしい。

 後は各々戦える武器を持っておけばなんとかなるんだとか。

 本当だろうか?

 若干不安になりつつも、俺1人が持てる物の量はしれているので、2人が選らんだ物だけを買って回った。

「後は、チエルの武器だけだね。」

「え?俺の武器?」

「そうアル。チエルがへなちょこなのは知ってるけど、流石に少しぐらいは戦えないとマズイアル。」


 ……や、やっぱり?

「チエルの分も僕が戦うけど、それでも護身用に1つは持ってる方がいいと思うよ。今まで使ったことある武器とかある?」


 ある?と言われても、今まで村でのほほんと引きこもってた俺には残念ながら、そんな物はない。

「し、強いて言うなら包丁か桑ぐらいかな?」

 とりあえず、武器ぽい物をあげてみた。

「チエルの村では包丁と桑を武器として使ってるアルか?!珍しい村アルね!」

「違うから!やめて、そんな目で俺を見ないでくれ。」

 妙な勘違いをしているオリーブに、自分の言ったことが恥ずかしくなる。

「それじゃあ、何か良いものが見つかるまで戦闘用の小型ナイフでも見ようか。」

 ログにそう言われて、それが1番かもと思った俺は2人に連れられて武器屋に行く事になった。


「おおぉぉぉ!!」

 連れてこられた店は市場の大通りを1つ離れた所に埋もれるように立つ武器屋だ。

 大きくはないが、店の壁や棚にギッシリと……と言うか積み上げられてナイフやら銃やら、見たことないような武器そろえられていた。


「これ、落ちてきたら俺様達死にそうデシ。」

「分かってるならあんまり動くなよ、ダチュラ。」

 店の1番奥にはハゲた店主がいて、そこの壁だけやたらと綺麗に一目見ただけで高級そうな、性能の良さそうな武器が並べられていた。


「やぁ、マスター。」

「お、久しぶりだなログ。今日は女連れか?」

「やだなぁ、マスター。この子は女なんて可愛い生き物じゃないよ。」

「うっさいアル!!」

 ーースガンッ。

 反射的にオリーブが目元に積んであった銃でログの頭の横スレスレを撃ち抜いた。

「「ひいっ!」」

「ダメだよオリーブ。ここは店なんだから。それにお店のものは勝手に試し打ちはダメなんだよ。」

「お前が悪いアル。と言うか、頭を外したってことは視覚に数ミリのズレが生じてるアル。ここもパパに言って直してもらわないと。」

 サラッとオリーブが恐ろしい事を言ったけど、もう聞かなかった事にした。

 店主も触らぬ神になんとかで、それ以上は突っ込んでこなかった。


「所で今日は何を見に来たんだ?」

 そう言った店主の前にログが俺を連れて行った。

「チエルの1つ武器を買いたいんだ。」


 マスターは俺をジーっと見た後、店の奥に入っていった。

「え?あの人中に入っていっちゃったけど大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。」

 和かにログが言ったから、その後すぐに店の奥から聞こえてきた何かが崩れるような音は気にしないようにした。


 暫くすると、ほこりまみれになった店長が出てきた。

「あ。あの……。」

「ほらよ、これ持ってきな。」

 そう言った店主が渡してきたのは、シースナイフだ。今まで使ってた包丁よりふた回りぐらい大きいけど、見た目より軽くてしっかりしている。背の部分がギザギザになっていて、なんかかっこいい。

「これは鋼製の武器だが、ほんの少しだけミスリルって言う希少金属も入ってある。早々壊れることはないだろ。」

「希少金属?!お、俺の手持ちで買えるかな……。」

 希少金属と聞いて、自分の財布の中身を思い出す。


 そう言えば俺、あんまり手持ちないんだった。

「金はもうログが払ってるから、かまわねぇよ。」

「えっ!?さ、流石にそれは……。」

「隊長からお金は支給されてるから大丈夫だよ。必要経費ってやつだよ。」

 ログはそう言って親指を立てた。

 そう言う事ならと、俺はとりあえずそのイカしたシースナイフをベルトのホルダーにつけた。


 ***



 俺は最後に昨日買ったナイフをベルトに付けて、出発の準備を終えた。

 一応、自分が使っていたシーツや枕なんかを畳んで端に寄せておく。

 戦闘服と一緒に、支給されていたリュックに昨日買った食料なんかを詰め込んでみたけど、思ったよりも重たくなった。

 なんだかんだで1番重たいのは、今もリュック中の上の方にできたスペースに体をねじ込んで寝てるダチュラなんだけど。

 こんな時、人を乗せて運べるフォンさんのコルだったり、ファングが羨ましい。


「チエル、準備できた?」

 扉の向こうからログが入ってくる。

「うん、今できたとこ。もう出れるよ。」

 最後に、ここに置いておく荷物の入ったカゴをベットの横に置いた。

 これで門番のおっちゃんが管理しててくれるはずだ。

 部屋の外へ向かおうとした時ーー


 ーーギュッ。


 ーーな。


 俺を背後から包み込むように抱きしめて、首筋に顔を埋めるログにびっくりする。

「ちょ、ログッ。お前昨日の今日でっ……」

「ごめん。この前は本当にごめん。だから離れていかないでくれ。嫌いにならないで。」


 ……。

 この前もだったけど、ちょっと震えるログの腕にグスリとなる鼻。

 こんなになるならやるなって思うけど、馬鹿だな……と、なんだか許してしまう俺がいた。


「……しょうがないな!ほらよ。」

 俺は腕を振りほどいてログと向かい合う。

 そして大きく両手を広げてそう言ってやった。


 呆気に取られて、ビックリしたような顔をしたログを俺からガバッと抱きしめてやる。

 そして俺より背の高いログの頭をよしよしと撫ぜてやった。

「チ、チエル?」

「せっかく3人で旅に出るんだから、ウジウジする気持ちは晴らしてからいこう。お前のその強烈な気持ちはまだよく俺にも分かんないけど、大切にしてくれてるのは分かるよ。俺だってそれは同じ気持ちだと思う。勿論、オリーブ達とおんなじ様にだけど。もう、何にも怒ってないし、お前が寂しいんなら一緒にいてやるからウジウジすんなよ。」

「……男前すぎるよ、チエル。」

「今更気づいたのか。しょうがないヤツめ。」

 俺がログを離すと、若干ログが残念そうな顔をしたけど、そこまでは俺も寛大ではない。


「ナイフもいい感じだね。」

「感じだけ良くてもな……。せめてここの戦闘訓練の後にでも出発命令が出てればあよかったのに。」

 本当に足を引っ張るだけのど素人にこんな任務任せるなんて……考えないようにはしてるけど、ちょっと腹立つよな。

「確かに、チエルからすればそれはそうかもね。」

「本当に俺の事はあてにするなよ。分かってると思うけど。」

「ふふふ、了解。実はチエルはそこそこできると思ってるけどね。」

「出来れば赤子と思ってください。てか、そう言えば、ログが俺をこの任務につけたようなもんなんだから守ってもらって当然じゃね?」

「そうかもね。どうあれ、僕に任せといて。チエルの事は何がなんでも守るから。」

「ログ、世界を守るんだからな。でもまあ頼りにしてるぞ、我が家来よ。」

「そこは王子様じゃないの?」

「馬鹿野郎。早々にそんないいポジションに付けると思うなよ。日々精進したまえ。」

「ふふふ、なんなのそれ?それでは、精進してまいります。」

「よろしい。」


 内心あの後からログとはやっていけるのか(ログの方が)心配だったけど、大丈夫そうで、安心した。

 今度、もう少し落ち着いた時にでも良いし、旅をしながらゆっくりとこいつの事を知っていくのも良いかもしれない。

 どっちにしろ、俺はログと出会って友達になったんだから。



「準備はできたアルか〜?」

 出入り扉の方からオリーブの声がした。

「できてるよ。今出る!」

 俺達は用意をしてやって来たオリーブの方へ向かった。

 そこには、オリーブの隣に立つルイスの姿もあった。

「ルイス!来てくれたのか?」

「英雄達、友達の旅立ちだからな。見送りしか出来ないが。」

「ありがとう。」

「そんなこと言って、一緒に来るなんてオリーブと最後にデートしたかっただけじゃないの?」

「な、!!そんな事はない。……なくもないが、やましい気持ちなど断じてないからな!女性を先に迎えに行くのは当たり前のことだと大祖父様にも教わったんだ。」

「そんな事よりも、早く出発するアル!」

「…………そ、そんな事。」

「ドンマイだね、ルイス!」

「お前に言われたくないな!」

 が、頑張れルイス……。

 若干ルイスを不憫に思いつつも、俺達は部屋を後にした。


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