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クロスワールド  作者: えりぞう
第一章 旅の始まり編
28/50

奪う者と奪われる者

 

「お前をーー殺す。」


 そんなログの声が聞こえた気がした。

 開けた瞼の先にいたのはログのはずなのに、ログではないなにかの様だった。

 まるでーー。


「あら、殺されるの間違いではないかしら?そんなに死にたいなら、今すぐ殺してあげるわ。」

 そう言ってログに女が剣を突き刺した。

 手で避けた為心臓は外れたものの、ログも肩口に錆びた小剣が突き刺さった。

 女の手ごと刀を握り込んだログの手に力が入り、ミシミシと骨の軋む音が鳴る。


「どうしようと、これで貴方も終わり。」


「ーーうるさい。」


 ゴキッー、ボギボキッ。

 ログはそのまま女の手を握り潰し、重鈍い音がなった後、カランッと剣が地面に抜け落ちた。

 手を潰されて、女が引いたと同時にログが落ちた剣を拾い、横一線に女に斬りつける。


「ーーっつ。どういう事?」


 切り裂かれた黒のローブの奥から女の豊満な胸と美しい朱のドレスがチラリと覗かせた。

 潰された手は離れた一瞬のうちに治癒していく。



「僕はもう、これ以上何も奪われたくないんだ。」


 そしてログの体が淡く光ったかと思うと、無数の白い光が広場全体を漂い始めた。


 それは、まるであの時に見た光の粒子の様だ。


 その光が自分達の体に触れると、瞬く間に体から毒素が浄化されていく様に息苦しさが消えていく。



 ログが俺をそっと地面に横たえてから、立ち上がった。

「ロ、ログッ……。」

「少し待っててチエル。すぐに終わるから。」


 そう言ったログはいつもの優しい口調だったけど、漂わせている雰囲気が全くの別人だった。

 このまま行かせちゃ行けない、そんなオーラを纏わせていた。

 ログの青く美しい瞳がどんどんと濁り出す。


「い、行くな……っよ。」

 手を伸ばした先にログの姿は既に無くなって、それに遅れて何かが激しくぶつかる音が聞こえてきた。

 ほとんど目で終えないけど、ログが手に持った小剣で少しずつ女の身体を切りつけていく。

 小剣から毒が滲み出ているのか、ログの握る手からは紫の煙が上がり、柄頭から血がポタポタとしみ落ちる。

 それでも、まるで痛さなど感じていないかの様にその剣を振るう。

 女もどこから取り出しのか、同じ形の錆びた小剣をもう1本取り出してそれに応戦するーーが、ログの方が速い。

 そして、あっという間に女の右腕を切り落とした。


「チッ……。」

 女は腕を切り落とされた事にあまりひるむ様子もなく、反対の手でその飛ばされた腕をキャッチしその腕でログを殴り飛ばした。

 ログが殴りつけられた勢いで地面に激しく叩きつけられる。


 女は切られた腕を元に戻す様にくっつけると、それも瞬く間に切られる前の状態へと戻っていく。


 あいつの身体、一体どうなってるんだよ……。


「驚いたわ……。貴方も一線を越す者(こちらがわ)なのね。いえ、そうなり得る者って所かしら?でも、それじゃまだまだよ、そんな物では私は嫉妬しない。世の中は弱肉強食。結局、弱ければ全て奪われてしまうだけなのよ。」


「も……い、嫌だ……。僕は……。」

 ログが、地面に沈んだ身体をゆっくりと起こす。

 すると、ログの周りを漂っていた白い光のいくつかが、だんだんと黒い光へと変化していく。


「貴方……もしかして」

 女がそう呟いたと同時にログの持つ剣先が、女の顔面数ミリ前の位置まで迫っていた。

 それを一瞬で避けた女が、反撃とばかりにログに蹴りかかる。

 その蹴りを受けた腕が鈍い音を立てあらぬ方向に曲がったにもかかわらず、ログは狂ったように女を攻撃し続ける。


 もう、どちらが悪魔なのかも分からないぐらい2人は己の身体を犠牲にしながらぶつかり合う。


「素質は充分だけど、やっぱりまだまだの様ね。」

 女がそう言った瞬間、鳩尾に入った拳にログが吹き飛ばされた。


 壊れて尚、その身体を無理矢理に動かしているかの様に周りを漂う黒い光が増えてログは立ち上がる。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

 そして、まるで悪魔の様に唸り声を上げる。

 すると、周りを漂っていた黒い光がログの方へ集まり黒のオーラとなって身体を覆っていく。

 その一部が更に剣へまとわりつきその姿を変貌させ、オーラでできた1本の黒槍へと変わる。


 ログの手から放たれた槍は一瞬で女に到達し、さっき回復した腕を今度はチリの様に消滅させた。


「ゔっ……。」

 初めて女から漏れ出る苦痛の吐息。


 ゆっくりと、ログが女の方に歩み寄る。

「あはははっ、それじゃ…蘇生も無理……。」


「ふふっ、やってくれるじゃない……。」



 ダメだ……。

 こんなのダメだ。

 自分の横たわる白い石畳が熱い。

 狂っていく友達を見ていることしかできない身体が熱い。

 ふざけてるけど、何だかんだ優しいログを思い出すと心が悲しい。


「次は……頭だ。」

 再びログの手の周りのオーラが細長く姿を変え始める。

 それに反応し、女も残った方の手を前に突き出して構えた。


 これ以上はダメだ。

 もう、ーーやめてくれ!!!!



 ログが手を振り上げた瞬間に、今までよりも大量の白と黒の光の粒子が広場全体を包んだ。


「なっ……。」

 一瞬驚いたログだったが、すかさず槍を放とうと構えた。

 が、ーーサッっと纏うオーラが消失し槍も溶けたように大気中に消えていく。

 そして支えを失ったかの様に地面に倒れこんだ。

 ドサッーーっと、ログの倒れた音が鳴ったのと同時に、だだよっていた光の粒子が全て消滅して消えた。

 倒れたログはかろうじて意識があったようで、また起き上がろうとするが身体が限界の様でピクピクと動く程度だ。


「ちゃんと力をコントロールしないからよ。」

 少し残念そうな顔で、近づいてきた女が剣を振り上げた。


「ロ、ログッーー!!!」



 パリィーーン!!!

 ガラスが割れる様な高い音と共に、ログと女の間に髪と同じ白銀の鎧を纏った男が飛び込んできた。


「ここまでにして貰おうか。」

「あら、やっと大物の登場ね。でも少し遅かったみたい。」

 クスリと笑った女の言葉に、男が周りを見回した。

「残念ながらその様だ。だが、お前ももうすこし早く引いていれば助かったものを。」

「ついつい、面白い子がいて遊んでしまったわ。」

「では、遊びはここまでだ。」

 男が持つ剣が激しく発光し、薙ぎ払われた剣身から光の刃が放たれる。

 その光が女の身体に直撃する。

「くっ……。お前達!!」

 女が叫ぶと、死んだはずの蛇の死体がドロドロと溶け出しそれが無数の蛇へと変わっていく。

 そしてそれは、一斉に男に飛びかかっていった。

 その無数の蛇を物ともせずに男が剣を一振りすると、放たれた光の刃が降りかかる蛇をチリへと変える。


「こんな物では私はどうにもできないぞ。」

「いいえ、これだけ時間ができたのなら十分。」


 そう言った女は男に向かって行くのかと思いきや、方向を変え俺の方に駆けてきた。


 え?


「しまっ……!!」

 予想外の事に男も反応が一瞬遅れる。


「その子は大切な物が奪われるのが嫌みたいだから、最後に1つ奪って行こうかしら。そうした方が面白いじゃない?」


「チエ……ルッ!」



 そして、女は残酷にも美しい笑みを浮かべ俺の心臓を貫いた。

 身体が何かに貫かれる感覚の後、まるで再び俺の中に毒が染み渡る様にじわじわと襲ってくる何か支配され、そして同時に視界が狭くなっていく。

 きっとこれが死なのかもしれない。

 狭くなる視界の奥で残酷な赤とログの青い瞳、白銀の鎧にミントグリーンに靡く髪を最後に俺の意識は闇に沈んだ。




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