飲み込まれていた真実
ヒュルルル〜〜と、ゴツい見た目とは反する音を立てながらオリーブの放ったミサイルとやらが蛇の頭部めがけて放たれた。
危険を察知した蛇がその場を移動するが、蛇の動きに合わせて追尾する様にミサイルも軌道を変える。
そしてあっという間に蛇に追いつき頭に追突した瞬間、あたり一帯を吹き飛ばすほどの爆発が巻き起こった。
激しい爆風が上空にいた俺たちの所まで届き、俺は堪えきれずにファングの背中から投げ出され落下する。
ファングとオリーブも同じ様に爆風に煽られて俺が落ちたことに対する反応が遅れた。
「しまったアル!」
「ぎゃあぃぁぁぁあ!!」
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!
みるみる広場の白い石畳が近づいてくる。
ポスッ。
あれ?痛くない。
地面とは違う柔らかい感触が俺の身体を包んだ。
なんとなく匂いとかで分かったけど、きつく瞑った眼をそっと開けるといつものイケメンスマイルでニッコリと微笑むログの顔。
「じ、じぬかど思ったぁ〜。」
俺は落下と死の恐怖に、思わず泣きながらしがみついた。
「大丈夫だよ。落ちそうになったら助けてあげるって前も言ったでしょ?」
「ロ、ログゥゥゥ!!」
やっぱり、なんて良いやつなんだ。
ほんと持つべきものは、優秀な友達だな。
「お礼はキスで良いよ。」
そう言ってグッと顔を近づけてくるログ。
「うわぁぁぁぁっ。」
慌ててログの顔を手で押し返す。
……これさえなければコイツの好感度がもっと上がるんだけどな。
「お前ら、ふざけてる時間じゃないぞ!」
近寄ってきたルイスが俺たちに声をかけてきた。
「え?今のでやっつけたんじゃないの?」
今のを食らったんだから流石に倒せたんじゃないのか?
あれで生きてるとなると流石にどうしようもない。
俺はまぁ、最初からどうしようもないんだけど。
まだ爆風で巻き起こった砂煙が立ち込める広場に眼を向ける。
うっすらと砂煙が薄くなり、巨大な影が見えてきた。
死んだよな?動いてないし……。
周りの兵たちもしばらく様子を伺い、動く様子のない影に、安堵と歓喜の声を上げる。
数人の兵が所長の止める声を聞かずに、結界から出て蛇の身体に近づいていった。
そして、その蛇の身体を蹴りつける。
「畜生が!散々暴れまわりやがって!ザマァねぇぜ!」
パキン。
砂煙がほとんど消え、広場がクリアに見えた時、蛇の身体を蹴っていた兵の足が蛇の身体を蹴り破った。
「なんだよコイツ?死んでパキパキになっちまったのか?」
「やめるんだ!戻ってきなさい!」
所長の声を無視してそいつ達はパキパキと蛇の身体を蹴り砕いていく。
ちょっと待てよ?いや、違う……。死んでパキパキになったんじゃない。
「お前ら、離れろ!」
その光景を見て俺が叫んだのと同時にルイスとログと、オリーブが兵の元に飛んで行く。
ズダァン!!
地面を砕き割る豪快な音が鳴り響き、割れた地面の中から、さっきの蛇が出てきた。
口からはみ出る4本の足がみるみる中に吸い込まれていく。
ルイスとログが兵を1人ずつ抱えて戻ってきた。
「2人間に合わなかったか……。」
ルイスが下唇を噛み締めて悔しそうな顔をした。
「まんまとしてやられたね。」
「ごめん、発射の後で加速するエネルギーが少し足りてなかったネ。間に合わなかったアル……。それにしても、私のミサイルを脱皮して直撃を避けるなんて、なんて奴アル。」
見た感じダメージは食らってそうだけど、オリーブの言ったとうり脱皮して直撃を避けるなんて、どんな奴なんだよ。
蛇って知能あんなに高い生き物だっけ?
直撃は避けたみたいだけど、火傷をしたのか、身体のあちこちから薄く煙が上がっている。
「どちらにせよ、今叩き切るのが良さそうだな。」
そう言って再びルイスが蛇に向かっていく。
そして赤くたぎらせたオーラをまとい、振り下ろしてきた蛇の尻尾を、持っていた剣で切り落とした。
「シャァァァァァァァ!」
蛇が身体をくねらせてのたうちまわる。
切れた尻尾からは紫色の体液が流れ出て、白い地面を汚していく。
「ログ!今だ、トドメをさせ!」
ルイスがログに向かって叫んだ瞬間ーー猛烈な目眩で身体が地面に倒れこんだ。
視界がねじれて歪む。
あまりの気持ち悪さに、胃の中のものが外に出た。
歪んだ視界の先で膝をつくログの姿と、蛇の下で倒れこむルイスが見えた。
隅に固まっていた兵達も次々に倒れていく。
な、な……何が起こったんだ?
「おぇっ…っ。」
また吐き気……。次は胃液じゃなくて真っ赤なものが出てきた。
「しっかりするアル!」
駆け寄ってきたオリーブが俺の肩を持って上体を起こした。
あぁ。最後に女の子の胸の中で死ねたなら、俺の人生も悪くなかったなぁ……。
「何、寝ぼけた事言ってるアル!」
「おごっ!」
そう言ったオリーブが俺の口の中に無理矢理手を突っ込んだ。
そしてゴクン何かを飲み込む。
「ちょ、何すんだよ!殺す気……あれ?しんどくない?」
「昨日渡した解毒薬アル。とりあえずアンタが持ってたんだから、飲ませてやったアル。」
なるほど……。俺は毒を食らってたのか!
てか、いつそんなもの食らったんだ?
「アイツ、毒の体液を気化させて毒をばらまいてるアル。ルイスが尻尾を切って体液が出た事で一気に毒の濃度が上がったアル。」
じゃあ、あの身体から出てた煙も毒だったって事か……。
「なるほど……てか、皆んな大丈夫なのか?ログに、ルイスも!」
「アイツら2人は大丈夫アル。でも、その他はちょっとヤバイネ、30分以内に解毒しないと手遅れになるアル。解毒剤のストックは無いし、中から結界を破るのは無理アル。騒ぎに気づいて外の連中が解除にかかってるけど、見た所ギリギリネ。」
「じゃあ、どうすれば……。」
「そんなの決まってるネ!アイツを倒すしかないアル!」
倒れこんだルイスに、今にも食らいつきそうな蛇に向かってオリーブが突っ込んだ。一瞬でルイスの元にたどり着き、俺に向かってルイスを掘り投げてくる。
「ちょ、ちょ、ちょっと、それはヤバイって!」
飛んでくるルイスを身体を使ってなんとか受け止める。
受け止めた衝撃で地面に擦った背中が涙が出るほど痛い。
ログを担いで戻ってきたオリーブが、雑にログを下ろした、いやーー落とした。
「そいつらを解毒しとくアル!」
それだけ言ってオリーブが蛇に向き直った。
俺は言われた通り、慌ててルイスとログの口に解毒カプセルをほり込んだ。
それを飲み込むと、みるみる2人の顔色が良くなってくる。
良かった……解毒剤が効いたみたいだ。
「日々改良されて進化する私の身体をナメるんじゃないアル!」
そう蛇に叫んだオリーブに蛇が大きな口を開けて襲いかかった。
だいぶ弱っているとは言え、やはり俺にはとても追い入れないスピードでオリーブ目掛けて飛び付くーーが、オリーブの姿が一瞬で掻き消えた。
蛇も目標物を見失いキョロキョロと辺りを見回す。
「切るのがダメなら叩き潰すだけアル!」
するとさっきいた場所とは蛇を挟んで真逆の場所で、腕を巨大な黒光りするハンマーに変化させたオリーブがその手を振り上げる。
振り上げられたハンマーに掘られた溝が赤く光り出し全体に炎を纏った。
さっきと同じように姿が消えたと思った瞬間、巨大な蛇の身体が上空に吹き飛ばされた。
そして、吹き飛ばされた巨大な身体が結界に当たって地面に落ちてきた。
みると、ハンマーで殴られたであろう蛇の喉元が潰れて凹んでいた。
落ちた蛇はそのまま地面てピクピクと痙攣し、そして今まで飲み込んだ内容物を一気に吐き出した。
わかっているけど、殆どがさっき飲み込んだ新兵達だ。
それと一緒に獣らしき物や大型の鳥のような物も混じっている。後は殆ど原型がわからなくなってきてるから何かは分からない。
最後に銀色の塊をゴボッと、胃液と一緒に吐き出した。
「なっ……あの鎧。まさか、カイルか?!」
目を覚ましたルイスが驚いた様子で若干溶けて変形した鎧を見た。
カイルって、昨日言ってたオアシスで行方不明になったって言う強い騎士の事か?!
それだとしたら、オアシスを襲ったのもアイツって事になる。
毒といい、確かにこいつなら毒で弱らせてから片っ端から飲み込む事も容易に出来そうだ……。
一体コイツは何なんだよ。
コイツも魔物なのか?
一体何のためにここに現れたんだよ。
考えても分からないことがグルグルと頭の中を回る。
「やっと大人しくなったネ。そろそろトドメをさすアル!」
そして、オリーブがもう一度ハンマーに炎を纏い、その手を蛇の頭に振り下ろした。




